東京のホステスクラブとビジネスマン文化
Nightwork
デューク大学の文化人類学者アン・アリソン教授がまだ院生だった頃、博士論文のテーマとして選んだのが東京のホステスクラブだった。80年代のフィールドワークをもとに出版された「Nightwork: Sexuality, Pleasure, and Corporate Masculinity in a Tokyo Hostess Club」は日本を描いたエスノグラフィーの中でも幅広く読まれている人気作だ。彼女は六本木にあるとある高級クラブ「美女(仮名)」で実際にホステスとして働き、通ってくるビジネスマンを相手にしつつ研究していたのだから面白い。ホステスと顧客の間で交わされる軽口や悪ふざけ、擬似恋愛の世界と男女間の思わせぶりな態度を逐一記録し、夜の東京に存在するこの「遊びの空間」の実態を事細かく表現している。
これは水商売の世界に働く女性ではなく、日本企業に働く男に焦点を当てた研究である。またフェミニストの視点でありがちな男女の研究ではなく、むしろ企業という場での男同士の世界に注目している。バブル景気に乗りに乗っていた当時、日本の急激な経済成長を恐れていたアメリカが日本の企業文化に興味を持っていた時代背景もあるだろう。会社の経費で落ちるクラブ通いは仕事でもなくプライベートでもなく、その曖昧な「第三の空間」で霞んでいく公私の境目とともに、弱まる家庭の絆と強まる企業の家族気質などのテーマに注目している。
フィールドワークの最中、アリソンは日本人に「もっとちゃんとした日本文化を研究すれば?こんな事研究しても意味ないよ」と幾度となく諭される。なぜアリソンはわざわざこのトピックを選んだのか?水商売の世界が公式に「日本文化」として海外に紹介されるのを好まない日本人と、「これこそ研究に値する」と踏んだアリソンの駆け引きが見受けられる。彼女はその後も日本研究を続け、2007年にはポケモンやタマゴッチなどの日本の玩具に関する本を出している(日本語訳はこちら:「菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力」)。日本と「遊び」の概念というのは今でもよく注目されているテーマのようである。
ところで、30年ほど前六本木のホステスクラブへ通っていた人はこの本に自分の事が書かれているかもしれない。色々と分析をされているが、日本人の視点から見て果たして正しいのか?こちらからどのようなリスポンスができるだろうか。
『余暇ビジネスとビジネスの余暇: 東京ホステスクラブにおけるサラリーマンのあいまいな存在』
エール大学(米国)の人類学博士課程に在籍していた大蔵奈々さんがジャパンファウンデーションの勉強会でこのトピックに関して講演したようです。詳しくはリンクより。
