作者: ハンニャ 文字数: 748 ○予選通過作品 おん歳79歳になる書道の人間国宝・よしえ師匠が、一番近い陸まで少なくとも2500kmはあろうかという沖にあらわれた。今日の師匠は『命知らず』と書かれたTシャツ一枚にジーンズという若い格好で、小さい船に乗り込み、へさき近くで”書”をしたためようとしている。こいつはどこにいても書をしたためるのである。 海は、荒れに荒れていた。よしえ師匠のまわりには15名のボディガードがこれでもかというほど水しぶきを浴びながら円陣を組んでいたが、彼らの任務はよしえ師匠を守ることよりもむしろ、紙を守ることだった。師匠に何の心配もしないで作業を続けてもらうためには、紙を守ることが不可欠である。15人に守られている紙はすごい人件費がかかっているわけだが、どこにでもある普通の紙だし、ふとした拍子にどこかへ飛んでいってしまいそうだ。しかしこのペラッペラの紙、よしえ師匠が

