1 朝方まで窓を叩いていた雨音が、いつの間にか止んでいる。哲夫は薄い布団の中で、その静寂の変化を聞き取った。雨が上がったというよりは、大気が別の内実を含み始めたような気配だ。音の粒子が細かくなり、濡れたアスファルトが重く沈黙している。もしかしたら、雪に変わったのかもしれない。だとすれば、世間でいうホワイト・クリスマスということになる。 天井の隅に、雨漏りのシミが広がっているのが目に入った。形はオーストラリア大陸に似ているが、タスマニア島にあたる部分はカビで黒ずんでいる。あそこを見つめていると、いつも妙に気が落ち着く。未踏の地。誰の領土でもない場所。 身体を起こし、古いサッシの鍵を回した。クレセント錠が錆びついていて、ガリッという不快な音を立てる。 窓を開けると、冷気が物理的な質量を持って部屋になだれ込んでくる。 ここは多摩の丘陵地帯を切り開いて作られた、築四十年の都営団地だ。五階のベランダ

