数日前、ツイッター上に流れてきた一連の資料が、タイムラインの話題をさらった。
 内容は、このようなものだ。

 この中で、論者は、日本の大学を「Gの世界」(グローバル経済圏)に対応した「G型(グローバル型大学)大学」と、「Lの世界」(ローカル経済圏)に対応した「L型(ローカル型)大学」という二つのコースに分離させるプランを提示しているわけなのだが、特にツイッター上の人々の注目を引いたのは、7ページ目に出てくる図表だ。

 この図表は、「L型大学で学ぶべき内容(例)」として、以下のような実例を挙げている。

※文学・英文学部→「シェイクスピア、文学概論」→ではなく→「観光業で必要となる英語、地元の歴史・文化の名所説明力

※経済・経営学部→「マイケル・ポーター、戦略論」→ではなく→「簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方」

※法学部→「憲法、刑法」→ではなく→「道路交通法、大型第二種免許・大型特殊第二免許の取得」

※工学部→「機械力学、流体力学」→ではなく→「TOYOTAで使われている最新鋭の工作機械の使い方」

 いかがだろうか。
 私は、一瞥して、アタマがくらくらした。

 大学に通う人間が、シェイクスピアや、憲法や、物理数学の基礎理論の講義をすっ飛ばして、観光英語の習得にはげみ、会計ソフトの使い方に血道をあげ、工作機械の操作法を身につけねばならないのだとすると、そのキャンパスでは、いったいどんな会話がかわされるものなのだろうか。

「おまえ2限のTOYOTAアセンブリーラインカンバンしぐさ心得、単位とれそうか?」
「てゆーかASAKUSAおもてなしイングリッシュ必須700カンバセーションがキツ過ぎてそれどころじゃない」
「それより、イケてるパワポプレゼンでクライアントもメロメロさ講座が〆切間近だぞ」 

 いや、このお話(L型大学の話)が出てきたのが新橋の居酒屋のカウンターで、熱をこめて語っているのが、そこいらへんの田舎コンサルのオヤジであったのなら、私とて、適当な相槌を打っておくにやぶさかではない。

 事実、

「学問なんてものは学者さんがやればいいことで、オレら市井の男たちには関係ないよな?」

 てなことを主張してる中小企業の管理職はヤマほどいるわけだし、正直な話をすれば、私自身、その彼らの主張にまったく理がないとも思っていない。

 でも、これは、文科省経由で出てきているお話だ。
 お話の出どころは、「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」という、文科省が招集している歴とした審議会である。

 ちなみに、先の資料は、その「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」の第1回の会合(平成26年10月7日開催)の折りに配布された資料のうちのひとつで、経営コンサルタント冨山和彦氏の手になるものだ(こちら→「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(第1回) 配付資料」の「資料4」)。

 ということはつまり、天下の文部科学省が招集した会議で、こういう内容の資料が配られていることになるわけで、てなことになると、私もさすがに、国家百年の未来を、懸念せずにはおれないのである。

 お国のトップが、新橋の酔っぱらいがクダを巻くみたいな調子で、お国の将来を背負って立つ次世代の若者たちの教育計画を立案しにかかっているんだとしたら、それこそ一大事ではないか。
 というよりも、これは、大学教育破壊計画と言えないだろうか。

 このお話には伏線がある。

 というよりも、エリート教育と産業用人材の育成を分離して考える計画自体は、自民党内および経済界の中に古くからわだかまっていた、いわば保守本流の思想なのであって、いまさら私がびっくりしてみせているのは、実はカマトトぶりっこなのである。

 2000年の7月、前・教育課程審議会会長であった小説家の三浦朱門氏は、斎藤貴男氏の質問に対して以下のように答えている。

《学力低下は予測しうる不安というか、覚悟しながら教課審をやっとりました。いや、逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです。落ちこぼれの手間ひまをかけたせいでエリートが育たなかった。だから日本はこんな体たらくなんだ。つまり、できんものはできんままで結構。戦後五十年、落ちこぼれの底辺をあげることにばかり注いできた労力を、できるものを限りなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。》(出典は『機会不平等』斉藤貴男著、文芸春秋)

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