6月2日発売の「メカビ」(講談社)
6月2日発売の「メカビ」(講談社)

 講談社から6月2日に発売された雑誌「メカビ」(※)。誌面には麻生太郎外務大臣が、養老孟司教授が、森永卓郎氏が登場する。しかし、普通に分かるのはこのくらいまでだろう。森川嘉一郎、樋口真嗣、竹内一郎氏あたりまではなんとかなっても、倉田英之、本田透、古橋秀之氏となるとどうだろうか。分かる人は「これはまた、遠慮のない企画と人選だ」と思うだろうし、分からない人にはまったく分からない(※発行はムックの形を取っている)。

 しかしこの雑誌、発売前にアマゾンの「本」のランキングで6位まで上昇し、短期間だが「ハリー・ポッター」と争ったのだ。

 表紙に踊るテーマは「男子は皆、オタク」。
 「メカビ」の意味は「メカと美少女」。

目玉記事のひとつは、コミックファンで知られる麻生太郎大臣へのインタビュー
目玉記事のひとつは、コミックファンで知られる麻生太郎大臣へのインタビュー

 「ああ、そういうことか」とスクロールを止めないで頂きたい。この雑誌を作ったのは講談社の学芸部で、科学系新書の老舗「ブルーバックス」を作っている編集者と、思想誌「RATIO」などを出している「選書メチエ」の編集者。出自の故か、中身はアニメ絵やフィギュア、コスプレではなく、大量の活字と、対談写真(男性)のオンパレード。ただ好き勝手に作った雑誌ではなさそうだ。

 以下、この「メカビ」を作ったおふたりへのインタビューをお送りする。冒頭に挙げた方々の名前をご存じの方には、ネタは割れているのでもうそのまま番外編まで、ご存じない方は「最大手の老舗出版社の中で、異色の新規プロジェクトがいかに走ったか」という視点で、本編のみをお読み頂ければと思う。

※その後この「メカビ」は増刷が決定した(6月14日追記)

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■ 松下友一さんが「ブルーバックス出版部」で、井上威朗さんが「講談社選書メチエ」編集。名刺を拝見すると、いったいどんなお堅い本が出来上がるのかという感じですが、できたのは「オタクによるオタクのための総合情報誌」。

松下 一応、私と井上の2人で「メカビ」の編集は全部です。

※記事掲載後、井上氏はコミック誌「アフタヌーン」へ異動された(6月14日追記)

■ もともとは、松下さんが企画書を書いたんですか。

松下 いや、企画自体は、実は井上の方でして。ただ、舵取りはなぜか僕がやってくれということになって。井上が「現代のオタクはよく分からん」とか言い始めて(笑)。

井上 それで正解でしたね。1冊作って、やっと(現代のオタクが)見えてきました。

■ おいくつなんでしょう、まず井上さんは。

井上 僕は35歳です。

■ 松下さんは。

松下 26歳です。

■ 10年差の2人が組んだんですね。

井上 やっぱり全然違いますね、外から見たら同じオタク趣味かもしれませんが、これだけ年が離れると。

本業掛け持ち、二毛作で作った新雑誌

■ お2人とも名刺には「メカビ」の文字はないですね。つまり現職のままで、「メカビ」は追加の仕事という形でおやりになったと。

井上 その通りです。昼間はちゃんとこの本(と、選書メチエ新刊を指す)を作っているので。

■ 二毛作ですか。

井上 ですね。だから僕は毎月、選書メチエを作って、松下も毎月、ブルーバックスを作って。

松下 ちょっと刊行を遅らせたりはしたけど、穴は何とか空けずに済みました。

井上 俺なんかもっとすごいよ。刊行ペースを上げちゃったもんね。

■ 好きなことやっているとかえって能率が上がる?

井上 そう。こなした本業仕事の量はむしろ増えるという。

■ 現職はそのままで、その上に「オプションとして別の仕事をやりたいです」というお話は、講談社として、会社の仕組みとして存在するんですか。

井上 あると言えばあります。

松下 例えばうちの会社に『ファウスト』ってあるんですけど、あれは文芸第三というところの編集者が自分でノベルを作りながら。

■ 1人でやったんですか。

松下 ええ。空き時間で作ったのが始まりですね。

ゴーサインは社内コンペの「敗北」から

■ 「メカビ」という、新しい企画を作って、そこからどうなるのか、具体的には分かりませんけれど、学芸局の会議みたいなところにまず出すわけですか。

松下 年に1回、企画コンペみたいなのがあるんですよ、全社的な企画コンペが。

■ そこで何本、何十本という単位でゴーサインが出るんですか。

松下 いや、そんなに出ない。2位までしかゴーサインが出ないんです。で、そうしたら「メカビ」は、3位だったんですよ。

■ だめじゃないですか。

井上 だめだったんです。

松下 全社的なゴーサインは出なかったんですけど、僕らの局の局長が、独自の決裁権で、「取りあえず出してみろ」と言って。

■ それが昨年の11月頃ですか。

松下 そうです。いいよ、やっちゃえという感じで。

井上 ただし、本業に穴を空けるのは許さないと。

■ 上司の方、おいくつぐらいですか。

松下 50歳くらいですね。

「ライバルは同人誌」の意味

■ 企画自体は社内でどう受け止められたんですか。いや、講談社さんなら、こういう企画が出てきてもそんなに違和感はないか。どうですか、その辺。

井上 松下がいるからですね、あまり驚かれませんでした。

■ 「こいつが出してくる案だったら」ということですか。

井上 彼がこの手の話をすると、周りはみんな付いて行けないので、何かぼんやりしているという。

松下 同期が集まったときに「“メカと美少女”という企画が通ったんだよ」という話をしたら、みんな凍りついて(笑)。

■ この「メカビ」は、「講談社だから」できた企画というのも相当あるんじゃないですか。

松下 やっぱり取材はすごくしやすかったですね。ありがたかったです。

■ そうでしょうね。

松下 でもその分プレッシャーもあったんです。商業出版社から出すんだから変なものは出せないという。

■ 商業出版の雑誌として、仮想敵はどの辺に?。

松下 仮想敵としては、同人誌です。

■ は?

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