どこまでも加速する一方通行の愛
極限まで美に徹した、鮮烈な色彩のフィルム・ノワール
愛のないセックスで感染する奇妙な病気「STBO」が蔓延する近未来のパリ。父の不可解な死の後、アレックスは父の友人マルクからSTBOウィルスを盗む犯罪に誘われるが、彼はマルクの愛人アンナに魅かれてゆく…。結ばれない男女の三角関係を、凝りに凝った映像でスピーディかつ衝撃的に描く、鮮烈な色彩のフィルム・ノワール。
デヴィッド・ボウイの「Modern Love」をバックにドニ・ラヴァンが走り続ける長回しや、ラストのジュリエット・ビノシュの疾走など、映画史に残る数々の名シーンでも知られている。レオス・カラックスのなかでもっとも美に徹した本作は、その色彩感覚や映像センスで熱狂的ファンを生み、影響を受けた映画人やミュージシャンも少なくない。
弱冠25歳で作家としての評価を決定づけたカラックス長篇第2作
カラックスは長編第2作『汚れた血』でその鮮やかな才能を炸裂させ、作家としての評価を決定づけた。1986年度ルイ・デリュック賞をはじめ、第37回ベルリン国際映画祭のアルフレッド・バウアー賞、セザール賞3部門ノミネートと高い評価が相次ぎ、名実ともに80年代後半を代表する「新しいフランス映画」となる。
一匹狼の金庫破りアレックスにはドニ・ラヴァン。孤独感と一途さをたたえた主人公を見事に演じた。しがない中年ギャング・マルクを演じるのはフランス映画界の重鎮ミシェル・ピコリ。疲労感と凄み、モノローグのようなしゃべり方で重厚な人物像を作り出した。マルクの情婦でアレックスの憧れの女となるヒロイン・アンナにはジュリエット・ビノシュ。清楚で魅惑的な彼女が前髪を息で吹き上げるポーズは強く記憶に残り、本作の演技でフランス映画界注目の女優となった。なお、マルクにはピカソ、アレックスにはキートン、アンナには成瀬巳喜男『浮雲』の高峰秀子などのイメージを重ねたといわれている。
アレックスの恋人リーズにはジュリー・デルピー、飛行場の場面で顔を出すのはセルジュ・レジアニ。ハンス・メイヤーとキャロル・ブルックス、ミレーユ・ペリエは『ボーイ・ミーツ・ガール』にも出演し、ミレーユは前作のヒロインだった。
映像と音のスタイルに徹底してこだわった本作は、絶妙のライティングと夜の撮影、めくるめくモンタージュなど、1カットごとに目が離せない魅力にあふれ、若き監督とスタッフたちの情熱が画面からあつく伝わってくる。
撮影監督のジャン=イヴ・エスコフィエはさまざまなテストの結果、フジの高感度フィルムを低い感度で使用して潤いのある画質を出し、今は使われない日本製のKOWAレンズをムービーカムのキャメラにつけて使用した。美術のミシェル・ヴァンデスティアンによる見事なセット・デザインは、アレクサンドル・トローネふうのパリと近未来都市を結びつけた感覚で見る者を魅惑した。廃屋を使ったロケ・セットや夜の撮影は、徹底した色のコントロールと質感の重視で重量感のある画面を生み出している。ほかに常連スタッフとして、製作のアラン・ダアン、編集のネリー・ケティエ、衣装のロベール・ナルドーヌらがカラックスを支えた。
今回の美しい4Kレストア版はテオフィルムとシネマテーク・フランセーズが2022年にオリジナルカメラネガからデジタルレストア(国立映画センターとシャネルの助成)、撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエが修復を監修した。
監督・脚本:レオス・カラックス
撮影:ジャン=イヴ・エスコフィエ/美術:ミシェル・ヴァンデスティアン/編集:ネリー・ケティエ/製作:アラン・ダアン、フィリップ・ディアズ
出演:ジュリエット・ビノシュ、ドニ・ラヴァン、ミシェル・ピコリ
1986年/フランス/カラー/120分/DCP/原題:Mauvais Sang/日本語字幕:松浦寿輝/配給:ユーロスペース



この作品『汚れた血』は、自身が役者を目指すきっかけになった作品です。元々は火吹き芸人としてストリートで生きていた彼を、監督のレオス・カラックスが 自分の分身であると評し主演に抜擢したそうです。そんなドニ・ラヴァンに当時高校生だった僕は多大な影響を受けました。
映画の舞台となったパリに行き、劇中で彼が着ていた革ジャンを探し、乗っていたバイクに憧れ、ストリートで音楽をやり… そして役者の道を志しました。あれから30年以上経ちますが、今でもこの映画は色褪せず、そしてドニ・ラヴァンへの憧れは薄れません。この機会に是非多くの方に触れて欲しいです!