原発事故処理に外国人労働者「儲けのカラクリ」

広がる使い捨ての懸念

ニュースの波紋

「使い捨てになる。帰国後に健康影響が出ても母国に治療体制があるのか」

国内の外国人を支援してきた福島大学の坂本恵教授は、SNSで記事をみてつぶやいた。そこには、政府が4月から始めた新しい在留資格「特定技能」の外国人労働者について、東京電力が、廃炉作業が続く福島第一原子力発電所の現場作業への受け入れを決めたとあった。

坂本教授は、言葉が通じないハンディで最低賃金以下で働かされた人たちをみてきた。昨年11月には衆議院で特定技能についての参考人として呼ばれ、「福島第一原発構内の作業も、建設作業といってしまえば外国人労働者を導入できることになる。本人にとっても現場作業にとってもこれほど危険なことはない」と声を挙げてきた。自分は警鐘を鳴らした。まさか現実になるとは。

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福島第一原発に新資格の外国人労働者が入るらしい──。私は情報を得てから裏付け取材や専門家への取材を進め、東電が元請けなどに受け入れ決定を説明したことを確認。4月18日付の朝日新聞朝刊1面トップで報じた。ニュースはNHKや民放、新聞各紙など各社が追った。

廃炉作業に特定技能外国人の受け入れ決定を伝える朝日新聞紙面(筆者提供)

誰が、何のために決めたのか?

被曝労働であり、健康管理が心配であること、言葉が十分通じなければ、現場作業が危ないこと。この2つの大きな問題点を中心に報じたが、各社の問題意識も同様だった。取材をしながら、誰が、何のために決めたのかということが気になっていた。

福島県内で実態を見聞きしている坂本教授は言った。

「福島の原発業界にはブローカーが何重にも入り込み、利益を上げるために安い労働力を求めている。求められる日本語能力はN4で『日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる』程度。日本の仕組みもわからない。特定技能は、儲けようとしている人たちには極めて使いやすい制度だ」

その言葉通り、安い労働力を求める動きがみられた。

足りない廃炉作業労働者

「特定技能」は、介護や建設分野など14業種が対象。3年間の経験がある技能実習生は、無試験で特定技能1号に在留資格を変更できる。

東電は、第一原発への受け入れは主に建設分野としている。政府は建設分野では5年間で最大4万人の受け入れを見込み、その9割が技能実習生からの移行と見込んでいる。技能実習生は、建設業では昨年10月時点で4.6万人。ベトナム人、中国人が多い。

「いつも人が足りず、社員が山形や九州まで労働者を探しに行っていた」

2015年まで廃炉作業に従事していた池田実さん(66)は振り返る。

池田さんはハローワークから廃炉作業に申し込んだ。求人票には「健康保険、厚生年金加入」とあり、社長に「社会保険はどうなっていますか」とおそるおそる尋ねると「給料が多い方がいいでしょう」と加入しないことを告げられてしまい、「話が違う」と思った。

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寮をあてがわれたものの、一軒家に7人が住んだ。同じ部屋にはもう1人同居人がいた。

池田さんは原発作業の前は除染作業の二次下請けの作業員をしており、1日1万7000円(うち危険手当1万円)を得ていたが、第一原発では三次下請けで、除染のときよりも給料は下がり、全面マスクの現場で1日1万4000円(うち危険手当て4000円)だった。

「より線量の高い現場なのに、どうして危険手当が下がるのか疑問に思いましたが、ほかの人に給料は言わないように、と社員に言われました。上の会社の人に給料がいくらか聞かれて言うと、驚かれました。よほど中抜きされているのかと思いました」

池田実さんの放射線管理手帳(筆者提供)

驚愕の「中抜き」の実態

この話をある元請け社員にすると、驚いていた。

「危険手当の目安は、その全面マスクの現場は1日2万円だよ」

東電から示されたモデルケースで、東電が工費を下げてきているため、実際にはそこまで払えないというが、2万円の手当てが、池田さんのところに来たときには4000円。1万6000円は一次下請け、二次下請け、三次下請けの会社にそれぞれ中抜きされたということだろうか。

池田さんが勤めていた三次下請けの会社の業績は、東京商工リサーチ企業情報によると従業員5人で、2014年は売上高1億7000万円、翌2015年は2億2000万円、翌2016年は4億2000万円と急激に売上を伸ばしていた。

池田さんはこの業績情報を見ながら、「社長は『自社ビルを建てる』って言ってたんですよね」とつぶやいた。安い人材を求め、会社の利益をあげる。そのために九州や山形にも行っていたということか。

貴重な証言をしてくれた池田実さん(筆者提供)

福島第一原発にはいま、1日約4000人が働いている。

求人情報をみると「土木作業」「生コン打設」などで求人があり、「1F手当て千円~5千円(エリアの線量により金額が変わります)」「増員募集」「未経験の方の応募も歓迎」などの記述があった。

技能実習生が最低賃金割れや不当な残業、外出制限など人権侵害が指摘されている劣悪な環境におかれる問題が表面化しており、「物言わぬ労働力」としていいように使われてきた。さらに、特定技能に移行しても安い労働力として使われる可能性があると、前出の坂本教授は指摘する。

除染現場でも搾取

坂本教授は、技能実習生が特定技能に移行する際に、技能実習生がおかれた賃金など雇用条件の格差がそのまま持ち込まれるのではないかと懸念する。最も心配するのは言葉のハンディがそのままあるということだ。

「技能実習を3年終えると無試験で特定技能に移行できるが日本語は身につかない。技能実習の間、雇用主はベトナム人同士を相部屋にし、日本人と交流するような環境にはおかない。雇用条件が違いすぎるため、日本語を上達させないようにしているように思えた」という。

20代のベトナム人男性が、「建設機械・解体・土木」を学ぶために盛岡市の建設会社に技能実習生として来たが、福島県郡山市で除染と知らずに除染作業につかされた。2015年から2016年のことだ。その後、川俣町や飯舘村など住民が立ち入れない線量の高い現場で解体工事に従事し、危険手当1日2000円が渡されるようになったという。

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手当ては何かを尋ねると、「危険手当」と言われ、「自分は危険な仕事をしているんですか」と尋ねたところ、こう言われたという。

「いやなら帰れ」

男性ら実習生を支援してきた全統一労働組合書記長の佐々木史朗さんは、「危険手当は6600円あったが本人には2000円しか渡らず、放射線管理手帳も渡されていなかった。実習生たちからは、『残業代未払い』『長時間労働』『休憩時間がとれない』『暴言暴力』『パラハラ』『労災隠し』『強制帰国の脅かしにあった』という相談ばかり。人権が守られていない」と訴える。

実習生の支援を続ける旗手明さん(左)と佐々木史朗さん(筆者提供)

なし崩しのノーチェック態勢

法務省は、この業者を実習生受け入れ停止5年の処分とした。

ほかにも実態調査の結果、3社が実習生に除染作業をさせていたことが明らかになり、福島県内の建設関連会社を受け入れ停止3年とした。鉄筋施工の名目で実習生を受け入れながら除染地域の表土はぎ取りなどをさせていたという。また、福島県の別の会社と千葉県の会社を注意処分とした。

外国人技能実習生権利ネットワークで実習生の支援を行ってきた旗手(はたて)明さんは、「日本人と同等以上の賃金を払うという制度だが、同等性を客観的に判断することが困難であるため、実効的な規制にはならない。技能実習制度と同様に低賃金の問題を克服できない可能性は高い」とする。

技能実習制度では、寮費として過剰に天引きする事例も相次いでいる。冒頭の盛岡市の建設会社に勤めていた男性も相部屋で月2万円をとられていた。

「低賃金に加えて、寮費等の名目で実費以上に差し引いて労務費用を回収しようとするわけです」

廃炉作業で東電が出す工費が下がり、日本人を集めるだけの日当を出せば、企業が儲からない。儲けるためにより安い労働力を求める動きがある。それで、さらに泣き寝入りする労働者が増えるのではないかと懸念されている。

今回は国策で進めてきた原発政策が起こした事故でもあり、「外国人に被曝を伴う廃炉作業を担わせていいのか」と外国人に廃炉を担わせることへの批判も相次いでいる。

弱い立場の外国人労働者を、さらに過酷な労働環境に追い込むことがあってはならない。

東電会見で、放射線防護教育や労災について母国語で教える環境を整える必要性について再三質問したところ、福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は4月25日、「関係省庁で具体的に今後ご指導があると思っている。ご指導を注視しながら適切に対応したい」と答えた。

ベトナム人の反応は

この事態に、ベトナム人たちの中でも懸念が広がっている。

長年ベトナム語の通訳を務めてきた男性が、SNSで記事の内容をベトナム語に訳して紹介すると、それを目にしたベトナム人たちから次々と声があがり、コメントは20件、リアクションは100を超えた。最も多いのは「知らずに連れて行かれたらどうしよう」という困惑の声だった。

「どうしたって、多少は放射能の影響を受ける。誰だろうと労働者を使うなら、どんな仕事か、どこなのか、どんな影響があるか、よく知らせた上で本人の同意を得て使うべきだ。彼らが犠牲にするものに見合った賃金の制度が必要だ」

「ベトナムは貧しいから出稼ぎに来ているのに、ここで働いて持って帰る金は、その後の治療費にも満たないだろう」

「大事なのは、労働者が仕事もリスクも、情報をすべて知らされることだ。選択は、労働者がする」

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日本で助けてもらった。また行きたい、でも怖い

筆者は、書き込んだ一人、元技能実習生のグエン・タン・ディエップさん(33)を紹介してもらい、SNSで聞いた。家族を養うために、日本で技能実習で縫製の仕事をし、賃金未払いなどの目に遭いながらも、昨年9月に帰国していた。

建設分野では5年間で最大4万人の受け入れを見込み、その9割が技能実習生からの移行と見込んでいる。福島第一原発に特定技能の外国人を受け入れる報道について、以下のメッセージを寄せた。

「これが真実ならば、ベトナムの実習生にとって恐ろしいことだと思います。作業環境にはベトナム人労働者の安全が担保されるかどうかわかりませんでした。原発の現場に労働する実習生は帰国後に健康被害が出た場合はどうしますか? 白血病・肺がんなどベトナムの治療法はまだまだです。ベトナムの治療がまだ発展していないのに、あっても何となく何もできませんと思います」(筆者注:彼女の日本語の能力は、特定技能で必要とされるN4よりレベルが高いN3。「日本語でちょっと遅いのでしばらくお待ちください」と数十分後に返信してきた)。

彼女は、「困ったときに日本で助けてもらった」と、「また日本に戻って、今度は介護について学びたい」と告げた。

菅義偉官房長官は「政府としては、法制度の適切な運用を含め、安全で着実な廃炉作業が進むよう、経済産業省から東京電力に対し、必要な指導・監督をしっかりと行っていきたい」と述べた。

政府としてどう労働者を守るのか、多方向から多くの目で見ていかなければならない。

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