メディアが報じない参院選挙制度の「隠れた欠陥」〜自民党「圧倒的有利」には理由があった

都市有権者の声はどこへ?

〔photo〕gettyimages


文/菅原琢(政治学者)

10日の投票日を控え、メディアの注目は来る参議院選挙の結果に集まっている。その一方で、参院の選挙制度が内包する「欠陥」について報じられることはない。

だが、この問題は選挙結果を歪ませ、政策にも影響を与える重大なものであることから、簡単に解説しておきたい。

参院選挙制度の「隠れた欠陥」

参院の選挙制度は、全国単位の比例区とほぼ都道府県単位の選挙区の2つに分かれており、有権者は比例区と選挙区それぞれで票を投じる。

比例区は各政党の得票に応じ、機械的に議席が比例配分される。これに対して選挙区は、候補が獲得した得票が多い順に、その選挙区の選出議員の数(以下、定数)の候補が当選する。

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通常、参院選挙制度において最も問題視されるのは、その選挙区間の一票の格差である。言うまでもなくそれは問題だが、ここでは選挙結果により大きな影響を与える、あまり知られていない問題を指摘したい。

その問題とは、都道府県別に定数が異なり、都市部の選挙区では定数が多く農村部では少ないために、農村を支持基盤とする自民党が圧倒的に有利となっていることである。

都道府県別選挙区は、人口の少ない34県の32選挙区が定数1の小選挙区、残りの13の都道府県が定数2以上の中選挙区となっている。このように人口に応じて定数が異なることは、一見当然のことであり、何も問題ないように思えるだろう。

しかし、いかに人口が異なるとはいえ、選挙区によって小選挙区だったり中選挙区だったりすることは、実は選挙結果と政治に重大な影響を与える。

農村・衰退地域を支持基盤とする政党が有利

図表1は、この点を理解するための仮想例を示している。左の例1では、20の小選挙区で都市党と農村党の二大政党が争っている。都市党は支持基盤が厚い都市部の10の選挙区で勝利し、農村党は農村部の10の選挙区で勝利している。

これに対し例2は、都市党の勢力が大きな小選挙区1~10が定数2の中選挙区A~Eに再編した場合の結果を示す。

なお、中選挙区の選挙では、第三党の出現や複数候補間の票割りや集票競争による票の掘り起こし、適正な数の候補を擁立できるかなど、複雑で細かい問題もあるが、ここでは無視している。

つまり、両党は小選挙区時と全く同数の票を、適切数の候補者間で均分できるという仮定のもとでの選挙結果を示している。

この例2を見ると、小選挙区では都市党が議席を独占していた中選挙区において、農村党が一定の議席を獲得することに成功している。

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これは、小選挙区と中選挙区の制度としての性質の違いのためである。小選挙区は、得票が少しでも上回った候補のみが議席を得ることができる「勝者総取り」の結果となる。

これに対し中選挙区では、より比例的な結果となる。このため、小選挙区であれば特定政党が議席を独占できる地域であっても、中選挙区で選挙を行えば、より劣勢のほうが議席を獲得しうるのである。

ここで重要なのは、選挙区の定数が政党の支持率と相関している点である。図表1の例2において、各党の支持基盤の厚さと無関係に中選挙区が設定されていたならば、どちらかの政党に過剰に有利になることはない。

だが現実ではこの両者は相関しやすい。人口が流入する都市部は中選挙区に、人口が流出する農村部は小選挙区になる傾向にある。また多くの場合、政党の支持率は都市度と相関する。

小選挙区と中選挙区が並置される参院選挙区のような制度は、人口が流出する衰退地域に厚い支持基盤を有する政党に、過剰に有利なものとなるのである。

「小選挙区」だけで勝利してきた自民党

実際の選挙結果を確認すれば、農村を基盤とする自民党が参院小選挙区の「勝者総取り」の利点を独占していたことは明らかである。

図表2は、3つの選挙制度別に各党の議席率を示している。

これを見ると、自民党は全国区および比例区で過半数の議席を獲得したことがなく、定数2以上の中選挙区でも92年以降過半数に達していない。

これらに対して小選挙区では、89年と07年の2回の例外を除き過半数を獲得。議席率が8割に達することも珍しくなく、他の制度での損失を小選挙区だけで埋め合わせる結果となっている。

この小選挙区(1人区)の結果の特異性は、得票率と議席率を比較すればさらに明らかになる。

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図表3では、選挙区を定数1、2、3以上のグループに分け、それぞれの自民党得票率の各年の平均値を横軸、同じく議席率を縦軸とした散布図である。

これを見ると、得票率と議席率が一致するy=xに沿って左上に分布している定数2以上の選挙区に対し、1人区は2つの例外を除きy=xから大きく上に外れた位置に広がっていることがわかる。1人区で自民党は、得票率をはるかに超えた議席率を手に入れることができるのである。

ただしこの結果は、単純に小選挙区だからというわけではない。繰り返しになるが、自民党が強力な地盤を有する小県が小選挙区だからである。仮に都市部が小選挙区、農村部が中選挙区であれば、逆の結果が生じるはずである。

いずれにしても、現状の農村が小選挙区で都市が中選挙区となる参院選挙区の構成は、自民党側から見れば自らの強い地域では「勝者総取り」、弱い地域では比例的に議席を獲得できるという点で、極めて有利な制度であることは間違いない。

農村県の1人区が政治に与える影響

農村部が小選挙区、都市部が中選挙区という歪な参院選挙区の構成は、自民党に大きなボーナスを与えるという点において選挙結果に影響を与える。しかしそれだけでなく、都市有権者の声を減衰させるため、政治にも多大な影響を与えているのである。

図表4は、2013年参院選挙区について、有権者数、議員定数、自民党議員に占める1人区、2人区、3人区以上の各選挙区の割合を示したものである。

有権者数で見ると、1人区は全体の3分の1程度の割合を占めている。これが定数不均衡により、議員定数では4割を超え、さらに自民党議員の中では6割強が1人区代表となっている。

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このグラフは、参院選挙区において、1人区の有権者はその倍近い割合の議員を政権に送り込むことに成功していることを意味する。

一方、3人区以上の地域(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪)に居住する有権者は、数で言えば日本全体の4割を占めるにもかかわらず、政権内では半分以下の勢力しか有していないことになる。

選挙区選出とは別に比例区選出の議員もいるが、自民党では選挙区選出議員の半数以下で、地域ではなく業界を代表する議員が多いため、この偏りを埋め合わせることはない。

この欠陥の周知を、そして改善を

図表4ほど強力ではないが、このような農村地域の政権への過剰代表は衆院でも見られる。都市住民の声が政権に届かず、農村の声が政権に過剰に注入されることは、政策の歪みを生み出す要因となっていると想定される。

衰退地域・衰退産業への過剰な補助金や過度の規制による保護、今後につながらない公共事業が推進される一方、新しい産業の動向には鈍感になり、都市住民の生活や人生に即した政策は促進されない。

たとえば少子化への抜本的な対応がなされず、待機児童問題が何十年も放置されてきた背景のひとつとして、政権内に都市住民の代表が少ないという構造的な問題があると指摘できる。

農村部で小選挙区、都市部で中選挙区という歪んだ選挙区構成は、参院だけでなく多くの都道府県議会にも共通する欠陥である。都道府県の政治の場合、知事と議会の二元代表制であるため、両者の対立にこれが作用する。

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たとえば、左派や改革派の知事が就任した際、議会の抵抗に遭って県政が停滞する事態がしばしば発生するが、そのひとつの原因に、郡部等の小選挙区選出の守旧派議員の抵抗がある。

このように参院の選挙区制は、特定の政党、勢力を著しく有利にし、都市部の有権者に大きな不利益をもたらすものである。一票の格差だけでなく、この欠陥ももっと周知され、改善の動きにつながっていくことを期待したい。

菅原琢(すがわら・たく)
政治学者。専門は政治過程論、現代日本政治。著書に、『徹底検証 安倍政治』(岩波書店、2016年、共著)、『平成史』(河出ブックス、2012年、共著)、『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書、2009年)など。国会活動を議員別に整理、集約した国会議員白書を公開中
http://kokkai.sugawarataku.net/special/ce24.html

 

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