今なぜ海外で「シティ・ポップ」が大人気なのか? 火付け役に聞く

「Night Tempo」をご存知か

今、海外でシティ・ポップが人気

今、70年代〜80年代の日本のポップスが海外で大きな話題を集めている。

山下達郎、竹内まりや、角松敏生、杏里など、かつて「シティ・ポップ」というジャンル名で紹介されたアーティストの楽曲が、インターネットを介して欧米やアジアの若い世代の音楽ファンの間で人気を博している。

「ヴェイパーウェイヴ」や「フューチャー・ファンク」といった新たな音楽ジャンルの勃興と共に、その元ネタとして“発見”され、評価を高めているのだ。

そして、その再評価の波はシティ・ポップにとどまらない。Winkやラ・ムー(菊池桃子)など、昭和のアイドル歌謡も再び注目を集めようとしている。

いったい、何が起こっているのか?

日本においても様々なメディアで騒がれ始めた海外でのシティ・ポップ人気。その火付け役の一人であり、フューチャー・ファンクの代表的なアーティストである韓国人のプロデューサー/DJ、Night Tempoに話を聞くことができた。

Night Tempo
-AD-

タワレコ渋谷店でも大きく展開

「いま海外で人気沸騰の2大CITYPOP名盤」

タワーレコード渋谷店に足を踏み入れると、こんなキャッチコピーと共に、竹内まりや『Variety』と山下達郎『FOR YOU』の2枚のアルバムが大きく展開されている。

〔PHOTO〕タワーレコード渋谷店

2作を紹介するPOPには、日本語だけでなく英語の商品説明も書かれている。売場面積約1500坪と世界最大規模のCDショップである同店には訪日観光客の来店も多い。

店長の長谷川真人さん(*2019年1月取材当時)は「海外では手に入りづらいこれらのCDを買い求めていく外国人客も少なくない」と語る。

〔PHOTO〕タワーレコード渋谷店

タワーレコード渋谷店だけではない。ここ最近、都内のレコードショップでは、海外では入手しづらい日本のポップスのアナログ盤を買い求める訪日外国人観光客を目にすることが増えた。

とはいえ『Variety』は1984年、『FOR YOU』は1982年のリリースだ。なぜ30年以上前の日本のシティ・ポップが、今、海外で人気となっているのか。

きっかけは竹内まりや「Plastic Love」

背景には、YouTubeをきっかけに70年代〜80年代の日本のポップスに出会い、愛好するようになった海外のニッチな音楽ファンのコミュニティがある。

特に昨年から今年にかけて海外で大きなバズを起こしたのが、アルバム『Variety』に収録された竹内まりやの代表曲「Plastic Love」だ。

その人気はGoogle Trendによるアーティスト名の検索数の推移でも裏付けられる。「Mariya Takeuchi」の検索回数の推移を調べると(6月15日現在)、2016年までは極めて少なかった検索数が、2017年夏から徐々に上昇して昨年8月にピークに達し、その後は一度落ち着きを見せるも、今年春から再び上昇を見せている。検索されている地域のTOP5は韓国、フィリピン、香港、シンガポール、インドネシア。関連キーワードには「Plastic Love」と表示される。

このブームの背景になったのが、2010年代にインターネットのコミュニティを拠点に広まった「ヴェイパーウェイヴ」や「フューチャー・ファンク」という新たな音楽ジャンルの流行だ。

ヴェイパーウェイヴは80年代から90年代の楽曲をサンプリングし加工した音楽性が中心で、どことなく甘美なノスタルジーを感じさせるテイストが特徴。さらに、スローテンポな曲調が主流のヴェイパーウェイヴに対して、よりビート感を強調しダンサブルに仕上げた「フューチャー・ファンク」と呼ばれるジャンルのブームも広がった。

『ダークウェブ・アンダーグラウンド』を著した木澤佐登志は、当サイトの記事(「ミレニアル世代を魅了する奇妙な音楽『ヴェイパーウェイブ』とは何か」)にて「70年代~80年代のファンクやディスコサウンドのサンプリングとフィルターハウスのビートをフィーチャーしたジャンルで、数あるヴェイパーウェイヴのサブジャンルの中でもとりわけ人気が高い」と、フューチャー・ファンクを紹介している。

これらの楽曲が、レトロなアニメやゲームの映像を加工した動画と共にYouTubeに投稿され、徐々に愛好者を増やしていた。

-AD-

Night Tempoとは何者か?

こうしたフューチャー・ファンクのジャンルにおける代表的なアーティストの一人が、Night Tempo(ナイト・テンポ)だ。竹内まりや「Plastic Love」の海外でのヴァイラル的な人気を巻き起こした当事者の一人である。

彼が楽曲を手がけた「Plastic Love」の非公式リミックス動画「Takeuchi Mariya - Plastic Love (Night Tempo 100% Pure Remastered)」は、YouTubeチャンネル「Artzie Music」にて2016年3月に公開され、現在では800万回を超える再生回数(2019年6月15日現在)を記録している。

「シティ・ポップの人気は『Plastic Love』のYouTube動画から始まったと思います」

Night Tempoは流暢な日本語でこう語る。

「もともと自分の動画は再生回数もそこまで多くなかったんですけれど、2017年に原曲の動画がアップされたんです。なぜかはわからないんですが、その動画がいろんな人のYouTubeの関連動画に出るようになって、曲を聴く人が増えた。そこから他のシティ・ポップの楽曲も有名になった。自分の動画も2018年になって急に何百万回も再生回数が伸びるようになりました。今では竹内まりやさんの『Plastic love』と杏里さんの『Remember Summer Days』がフューチャー・ファンクの2大アンセムになっています」

-AD-

ここでNight Tempoが言う「原曲の動画」とは、竹内まりやのオフィシャルのミュージックビデオのことではない。「plastic lover」を名乗るアカウントによって2017年7月5日にアップロードされた非公式MVのことだ。その後、著作権侵害の申し立てによって削除されたが、こちらの再生回数は2500万回を超えた(2018年6月15日現在)。

洗練されたサウンドだけでなく、アルバム『Variety』のジャケットにある当時の竹内まりやの謎めいた少女のようなポートレートも海外のインターネットユーザーを魅了した。そのことは、海外のイラストサイト「deviantart.com」の「mariya takeuchi」の検索結果からもわかる。

こうした動きを受けて、今年5月にワーナーミュージックは映像クリエイターの林響太朗が手がけた「Plastic Love」の新たなミュージックビデオのショートバージョンをYouTubeで公開している。

こうしたヴァイラル的な人気の盛り上がりを当事者として目の当たりにした経験について、Night Tempoはこう振り返っている。

「思ったのは『やっとみんな、いい曲をいい曲だって気付いたんだ』ってことです。『みんな遅いよ』とも思ったけれど、こういうものが好きな人が欧米に多いんだったら、この時代の素晴らしい音楽をもっと掘って聴かせてあげられると思ったんです。この現象を見て、自分がもともと好きなことをやろうと決心しました。僕はもともと昭和のレトロな音楽や文化をキュレーションする役割をやりたかった。そのモチベーションが高まったんで、もともとやっていた仕事をやめて、こうした音楽活動に本腰を入れて進むことになりました」

ずっと一人で掘って、ずっと一人で集めてました

なぜ、韓国に生まれ育ったNight Tempoが日本の古いポップスに惹かれるようになったのか。そのルーツは子供の頃の原体験にあった。

「お父さんが海外関係の仕事をしていて、子供の頃に日本のお土産としてCDウォークマンと歌謡曲が入ってるコンピレーションCDをもらったんです。そこに入っていた中山美穂さんの『CATCH ME』という曲がすごく好きになった。その曲の入っているアルバム(『CATCH THE NITE』)を欲しくなって、お願いして買ってきてもらったんです。そこからプロデューサーの角松敏生さんの音楽が好きになって、憧れを持つようになったのが最初のきっかけです」

――本格的に日本の歌謡曲やポップスにハマったのはいつ頃でしょうか?

「韓国ではそういうCDを手に入れる機会が全くなかったんで、本格的に聴きはじめたのは社会に出て20代になってからです。今から10年くらい前のことですね。最初は角松敏生というキーワードから、彼がプロデュースした人や一緒にやった人たちを聴くようになりました。角松敏生さんが影響を受けたということで山下達郎さんを聴くようになって、山下達郎さんのベストワークスの一つは竹内まりやさんの楽曲ですし、そこからさらに竹内まりやさんが曲を書いた河合奈保子さんも聴いていった。そういうつながりを追っていくのが面白かったんです」

――当時は2000年代末から10年代初頭で、韓国では少女時代やKARAのブームがあり、日本ではAKB48がブレイクしていく頃です。きっと周囲に話が通じる人はあまりいなかったんじゃないかと思うんですが。

「そうですね。ずっと一人で掘って、ずっと一人で集めてました。ライバルが全然いなかった。僕は昭和のカセットテープを集めるのが一番好きなんですけれど、最初の頃はライバルがいないんで、すごく集めやすかったです」

-AD-

――当時から日本にそうしたカセットテープを買いに来ていたんですか?

「当時は仕事も忙しくて、日本にはなかなか来れませんでした。なのでネットのサービスで探して、人に頼んで買ってきてもらってました。3年前くらいからちょくちょく日本に来るようになって、HARD OFFのような郊外の中古ショップや、シャッター街にあるローカルなレコードショップを回って探すようになったんです。特に神戸の高架下にあるレコードショップが宝箱でした」

――リスナーやコレクターとしてだけでなく、ご自身が音楽を作るようになったきっかけは?

「僕はもともとプログラマーとして仕事していて、趣味として作曲をやっていたんです。音楽を作ることにも昔から憧れがあったんですけれど、親の反対があったので、その道は諦めていました。でも、そろそろ自分でやってもいい年齢なんじゃないかと思って始めました。ただ、最初は自分の曲を発表するというよりも、自分の好きな曲をリミックスやリエディットしてSoundcloudに乗せるようになりました」

――最初に公開した曲は?

「2015年の夏の終わりくらいに、Winkの『Special To Me』のリミックスをアップしました。『Twin Memories』というアルバムに入っている、原曲はボビー・コールドウェルの曲で。すごく好きな曲です」

――そこから同好の士が集まりはじめたんでしょうか?

「半年前くらいから友達たちが海外に増えてきて、彼らからもいい反応を貰えるようになってきた感じです。彼らは昭和歌謡よりも欧米のディスコをベースにしたフューチャー・ファンクのジャンルの曲を作っているんですけど、僕は自分が好きな昭和の歌謡曲やポップスをメインにやっていこうと思っています」

「彼の作るリミックスには愛がある」

こうして、2016年から2018年にかけて、Night Tempoは日本のシティ・ポップや歌謡曲を元ネタにしたリミックスをSoundcloudやYouTubeに公開していった。

その中には著作権的にはグレーなもの、問題のあるものがほとんどだったが、そんな中、「我々が想像していない形でJ-POPが海外の人の視点で解釈されて世に広まっている。それがすごく面白いと思いました」と、Night Tempoに声をかけたのが、音楽出版社・フジパシフィックミュージックの三浦圭司だった。

「彼の作るリミックスには愛があると思うんです。そして、音楽出版社として、楽曲の再開発をするというミッションもある。だったら彼に80年代の埋もれている自社の管理楽曲を掘り起こしてもらう作業をお願いできるかと思って、管理している楽曲のリストを渡して選んでもらいました。そこからWinkのリミックスを公式にお願いすることになりました」(三浦)

-AD-

こうして、今年4月にはデビュー30周年を迎えたWinkの楽曲をNight Tempoがリミックスした配信EP『Wink - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』のリリースが実現した。

代表曲「淋しい熱帯魚」「愛が止まらない〜Turn It Into Love」に加え、相田翔子のソロ楽曲「Get My Love」や「Special To Me」といった彼の愛するWink楽曲を自身のセンスでアップデートした内容だ。

ちなみに、三浦の耳に最初に引っかかったのは、Night Tempoが手がけたラ・ムーのリミックスだったという。菊池桃子がアイドル活動を経て88年に結成したバンドだ。当時は興行的に失敗したと言われていたが、時を経た今、その先鋭的な音楽性を評価する音楽ファンは少なくない。

「僕自身、当時、菊池桃子からの流れでラ・ムーが好きだったんで、最初に聴いて驚きました。とてもクオリティが高く、それを韓国人がやっているという面白さもあった。そこから連絡をとりました」(三浦)

Night Tempoも、菊池桃子およびラ・ムーを高く評価している。彼の手がけたラ・ムー「少年は天使を殺す」のリミックスが、やはりYouTubeチャンネル「Artzie Music」に公開されている。

「菊池桃子はもともと大好きでした。ラ・ムーは、菊池桃子が進化したという感覚で僕は捉えているんです。なので、ラ・ムーのリミックスも初期から発表していました。『少年は天使を殺す』は名曲ですし、ラ・ムーには一つも捨て曲がないのが素晴らしいと思います」

爆発的ブームはまもなく…

韓国を拠点に活動するNight Tempoだが、その人気はアメリカを中心にした英語圏の音楽ファンに広まっているという。

「今のところファンの半分近くは欧米の人たちです。インスタグラムのフォロワーも、スポティファイのリスナーも、30%以上がアメリカです。ほとんどが東海岸と西海岸で、中心はニューヨークとカリフォルニア。特にカリフォルニアがすごく多いですね」

――海外でDJをした経験は?

「今年の2月にサンフランシスコとニューヨークに行きました。7月にロサンゼルスに行く予定です」

――感触はどうでした?

「一言でいうと、事件だな、って思いました。他のDJは欧米のディスコナンバーをかけるんですけれど、自分は昭和歌謡だけをかけるんです。でも、サンフランシスコでは1500人以上のアメリカ人が昭和歌謡に乗せて踊っていた。Winkの『淋しい熱帯魚』で大騒ぎしてました。それを見て、さすがにビビリました。『この人たち、どうかしてる』って思いました(笑)」

――すごいことが起こってるんですね。

「ニューヨークでもすごかったです。きっと7月のロサンゼルスは、もっとすごいことになると思います。シーンの流れを見ていると、今シティ・ポップにハマっている人たちは、トレンドセッターのような人たちが多いんです。モデルのようなファッション業界の人達や、お洒落な人も多い。そういう人たちのフォロワーが影響を受けて広がっている。そのおかげで爆発的なブームが起こる少し前のような状況になっている感じがします」

-AD-

実際、Night Tempoが言うように、日本の70年代や80年代のポップスへの注目は、2019年に入って、よりオーバーグラウンドなフィールドへと広がっている。

その象徴と言えるのが、5月にリリースされたヒップホップ・アーティスト、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)の最新アルバム『IGOR』だ。

ファレル・ウィリアムス、カニエ・ウェスト、ソランジュなど豪華なゲストが参加した同作は、全米チャート「Billboard 200」で自身初となる首位を獲得。

2019年を代表するヒップホップ・アルバムとして評価を集める同作の収録曲「GONE, GONE / THANK YOU」は山下達郎「Fragile」をサンプリングした一曲だ。

7月24日には、Night Tempoが敬愛する角松敏生のプロデュースによる「Remember Summer Days」など杏里の楽曲をアップデートした公式リエディット企画の第2弾『杏里 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』がリリースされる。

日本のポップスの海外における再評価の波は、確実に訪れている。そしてその鍵は、若い世代のアーティストやDJが握っているようだ。

「杏里 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ」は7月24日配信

おすすめ記事