意外と知らない…空前の「ショートショートブーム」が起こっている「これだけの理由」

実はいま、かつてないほど短編小説/ショートショートに注目が集まっている。

その嚆矢となったのは、学研の『5分後に意外な結末』から始まる中高生向けのシリーズだろう。累計300万部を突破した「5分後」シリーズが確立した「○分+訴求する感情(泣ける、怖い、恋、等々)」というフォーマットは無数のフォロワーを生んだ。

全国の小中高校で1日10分程度実施される「朝の読書」で1話ちょうど読み切れる程度の分量の短編をまとめて本としてパッケージングすることに、大きな需要があったからだ。

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2021年4月には、主に「週刊少年ジャンプ」掲載マンガのノベライズを刊行するレーベル集英社ジャンプjBOOKSもオリジナル短編集『5分で読める驚愕のラストの物語』『5分で読める胸キュンなラストの物語』『5分で読める恐怖のラストの物語』で新規参入するなど、今もこのジャンルは拡大を続けている。

また、氏田雄介がネット上で流通しやすい形式を狙って9字×6行の正方形サイズの原稿用紙フォーマットに2文または3文で構成された物語を綴る『54字の物語』は、氏田が書いたものだけでなくTwitterやInstagram上で無数の参加者(投稿者)を生み、書籍化をきっかけに学校でも用いられるようになった。このフォーマットを利用して投稿を募集した「54字の文学賞」には毎回3000~7000もの作品が集まっている。

つまりこのショートショートブームは「読む」需要だけでなく「書く」需要を掘り起こしてもいる。

ここで注目したいのは、近年では朝読狙い=子ども向けに留まらず、この種のショートショートの流行が大人向けにも広がっている点であり、現在のネット環境に適したかたちに消費と投稿が変貌している点だ。

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大人向けにも広がるショートショートブーム

たとえばSF作家として知られる北野勇作の『じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』や『100字文字SF』も人気を博している。

いや、そうは言ってもSFにはもともと星新一のショートショートの伝統があるし、星新一の衣鉢を継ぐ田丸雅智をはじめとする書き手が「5分後」シリーズ以前から活躍していたから、もともと親和性があったのではないか、と思うかもしれない。

しかし、この流れはSFにも留まらない。

たとえば小説投稿サイト「小説家になろう」の年間純文学【文芸】ランキングで1位となった村崎羯諦『余命3000文字』や、Twitter上に書かれた140字ぴったりで完結する神田澪のショートショート集『最後は会ってさよならをしよう』などは、いわゆるライト文芸の読者層(大人の女性が多いとされる)を中心に「感動」と「驚き」を求める人たちにも支持されている。

これはなにゆえか。

キャラの立った登場人物と雰囲気のある舞台(カフェ、京都、神社など)をウリにすることの多いライト文芸は、もともとわかりやすくどんな気持ちにさせてくれそうなのかを読む前から読者に提示することで購買意欲を刺激してきた。

そこにきて「短文+感動/驚き」というフォーマットは、まさに読む前から読者にわかりやすく訴求感情を伝えるものだった。

SF読者もセンス・オブ・ワンダー、つまり驚きの感覚を求める読者が多いという意味では事前に明確なニーズがある層と言える。

したがって、うまく大人向けにスライドできたジャンルがSFとライト文芸だったことには必然性がある。

また、小説ではなく体験談だが、純猥談編集部『純猥談 一度寝ただけの女になりたくなかった』という短文の実話投稿企画およびそれを書籍化したものも話題を呼んでいる。これもエロという訴求ポイントが明確な企画ゆえの盛り上がりだろう。

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スマホSNS全盛時代の投稿欲求を満たす

ここまで紹介してきたものから自明なように、ショートショートブームと言っても、プロ作家が書いたもの以外にも、SNSや小説投稿サイトに投稿された作品を集めた本が実は非常に多い。

本がたくさん出版されている背景には、読み手が増えただけでなく、書き手も圧倒的に増えているという事情がある。

『54字の物語』や『純猥談』のように企画自体がバズっているものは、文字数が短く、期間ごとに「お題」「テーマ」が設定されており、一般的な小説投稿と比べると圧倒的に参加ハードルが下げられていることが要因だ。

2020年から21年にかけて爆発的なヒットを連発しているYOASOBIの楽曲は、短編小説投稿サイトmonogatary.com発の作品を原作としたものだった。同サイトは短編であればどんな作品でも投稿可能だが、同時に「お題」が毎日運営から提示されるという特徴がある。

短文であることに加えてお題が提示されるおかげで、言ってみれば誰でも「書けそうな気がする」ものになっている。

にもかかわらず、人気になれば本に自作が収録されるというチャンスもある。これが投稿意欲を刺激する。

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このように「テーマ+時限性(短い締め切り設定)+短文」という三重の縛りを設けることで、参加者にとって共時性のある創作イベントになることも重要だ。

スマホ向けのゲームでは「期間限定イベント」が開催され、プレイヤー間の順位を競わせたたり、その期間にしか手に入らないアイテムを目指して「走る」(熱心にプレイする)ことを促すが、そういうものに近い。

あるいはTiktokやInstagram上で行われている「○○チャレンジ」に近い。参加ハードルが低く、お祭気分が味わえ、目立てる可能性があると参加者に思わせる。

つまりこれらのショートショート企画は、たんに小説を書いたり読んだりするよりも「体験性」が際立つものになる。

もともとSFやミステリー、ホラーなどのジャンル小説はタイムスリップや密室といった「お約束」を前提に各人が「新しい趣向」を加えることで書き継がれてきた。

そういうジャンルの運動をスマホ時代に合わせて高速展開できるようにしたのが、目下各種小説投稿サイトやSNS上で行われている「短文+企画性+時限性」を組み合わせたショートショートコンテストなのだ。

一般的な小説新人賞では自分の作品以外には他人が投稿したものを読むことができないが、これらの企画では読むことができる。

しかも、一作一作が短文ゆえにたくさん読むことができる。書き手同士がいくつも読み合うことで触発され、さらに新しい趣向の作品がさらに生み出される……というわけだ。

そして応募期間内に書き手/読み手として渦中にいる「フロー」としての楽しみがあるにとどまらず、本になったあとで読む「ストック」としての楽しみまで容易されている。ネット上で参加していない読者にも、本としての楽しみは開かれているのだ。

つまり単純に「短編小説集が流行っている」という以上の現象がいま起こっている。だからこそ無数の投稿作が集まる。そして一部の書き手はアンソロジーに作品が所収されるだけでなく、単著を出して作家として認められるようになってきている。

日本の近代文学において、投稿雑誌または雑誌の創作、実話の投稿欄が大きな役割を果たしたことは、よく知られている。そうした「書く読者」が小説市場を支え、また、そこから生まれた才能がプロに回って新たな読者を獲得するというサイクルが存在していた。

その令和版が、いまネット上で行われている短編/ショートショート投稿の熱気のなかにある。

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