猛烈な勢いで流れ込むチャイナマネーに日本中が呑み込まれている。観光客で賑わう家電量販店や買収された企業だけでなく、その対象は不動産や株式にも及ぶ。日本は中国人に支配されるのか。
次々買われる一等地
東京都心の一等地にある超高級マンション。ここの住人がこんな話をする。
「先日、管理人からびっくりするような話を聞きました。新棟の建築予定地とショールームの見学会に、中国人資産家の一行から『団体バスで乗り付けたい』という要望があったそうです。
最も安い部屋で2億円、最高で5億円台というステータスの高いマンションですから、さすがに団体バスは断り、『個々の見学なら』という話になったそうです。都心のこういう立地のマンションは今後もう出ないから、投資用として買っても値下がりはないと踏んでいるのだと思います」
上海で商社を経営する40代の中国人男性は中国にマンションと一戸建てを持っているが、日本の不動産にも目をつける。
「今回は投資目的で東京都内のマンションを買うつもりです。中国は不動産バブルで、上海にある3LDKのマンションは、6000万~8000万円と東京のマンション価格と変わらないし、環境や管理態勢は東京のほうがはるかに上。今年中に箱根に別荘も買おうと思っています」
私たちの知らないところで、日本は確実にチャイナタウン化している。猛烈な勢いでチャイナマネーが流れ込んでいるのだ。
「池袋の8000万~1億円のタワーマンションでは中国語が飛び交っています。他では上野、葛西や大島の物件に中国の方が多いですね。一方、日本の方から『ウチの家を中国人に売ってくれ』という問い合わせも増えています」((株)ユーエスマネジメンツ代表・上島透氏)
昨年大手不動産会社によって売り出された港区内の高級マンションの最終購入者の名簿は、中国人の名前が約2割を占めたという。担当者によれば、高層階は中国人購入者が半数近く。最も高い2億円近くの物件から順に売れたそうだ。
いまや富裕層といえば中国人のことになった。不況に喘ぎ、資産を減らし続ける日本人に代わって、日本の土地、マンション、ブランド品などを中国人が買いまくっている。ビジネス・ブレークスルー大学・田代秀敏教授が話す。
「池袋や新宿から最近では銀座、赤坂、六本木でも相当に中国人が不動産を買い漁っています。具体的な数字はわかりませんが、私が聞いた限りでは、山手線沿線の駅周辺で中国人が不動産を手に入れていないところはないとのことです」
都内の不動産業者によれば、中国の富裕層にはこんな買い方をする人物までいる。
「先月、六本木のビル1棟、西麻布のマンション1棟を一人の方がキャッシュで買われました。すべて合わせれば20億円以上。日本人が住居用として購入する場合は、値切ることが暗黙の了解になっていますが、彼らはそれすらしない。買い方が違うんです」
さらにこんな事情もある。深せんで貿易業を営む50代の中国人男性が話す。
「中国では価格高騰を抑えるために3軒目の住宅購入が禁止されたんです。いつ乱高下するかわからない株式に投資するのは馬鹿らしいですから、私も西麻布のマンションを1億円で購入することにしました」
「庭にある木を売ってくれ」
実は中国に「不動産」という言葉はない。『ソフトブレーン』マネージメント・アドバイザー・宋文洲氏が語る。
「日本の不動産は財産として保有できるから魅力的なんです。中国では個人で不動産を買っても、使用権が得られるだけ。使用権を転売することで利益を得ることはできますが、お金に余裕ができれば自ら不動産を所有したいという気持ちになるものです」
マンションにせよ、株にせよ、中国相場は全体に過熱気味だ。バブルが崩壊する前に、価値の安定した日本の不動産に投資し、資産を分散させる狙いが背景にある。
中国人の不動産熱は日本全国に広がっている。7月、家具販売の大手ニトリの子会社『ニトリパブリック』が、北海道千歳市に中国人富裕層向けの庭付き木造2階建て別荘地を造成した。一区画380㎡で、土地が1000万円、建物が2000万円弱、家具や電化製品が400万~500万円。合計で3400万~3500万円という豪華物件。ちなみに、すぐ裏手で分譲販売されている土地の価格は100坪で400万円だ。
「昨年7月ごろ、ニトリと繋がりのある中国の富裕層の方が北海道旅行に来られ、自然環境を非常に気に入られたんです。行動の拠点として別荘を持ちたいということで、早速、候補地の検討に入りました。宣伝は一切行っていませんが、事業を固めた今年2月の時点で全17戸が完売しました」(同社広報)
購入者は商社や繊維関係の事業主など。上海や青島など本社所在地はさまざまだ。
同社は第2期の売り出しも検討しており、注文がまとまれば、候補地を探し40、50という単位で建設していくという。
こんな意外なものまで中国人に買われている。福岡県内の造園業者が話す。
「中国人の業者とは昨年だけで5000万円の商談がまとまりました。なかには1本500万円の松もあり、中国のエンドユーザーに販売されるときは5000万円になるそうです。樹齢の長い古木で枝振りのいいものが中国の富裕層に好まれることから、業者が買っていくんです。最近では、いきなり中国人が現金を持って現れ、『1500万円出すから庭にある木を売ってくれ』と言ってきた。中国の好景気は我々のような業者には追い風です」
ソニーも三菱も買っちゃう
ラオックス、レナウン、本間ゴルフなど、企業自体もチャイナマネーのターゲットになっているのは報じられている通りだ。
民間コンサルタント会社の集計では、'09年の中国企業の対日投資は前年の約4倍。今年はさらに数倍になると見られている。買収や提携は今後も増えていくだろう。前出の田代教授が話す。
「中国政府は、『日本経済のバブル形成とその崩壊』『日本企業の株の持ち合い』などのテーマについて研究を続けてきました。ですから、'80年代に日本がアメリカで土地やビルを買い漁ったことも、その結果、日本経済がどうなったのかも知っている。中国人はかつてアメリカで叩かれた日本のようにならないよう慎重に、日本から反感をもたれないよう資本を入れています」
'07年に中国が設立した政府系投資ファンド『中国投資有限責任公司』の社長が一昨年に来日した際、こんな言葉を残している。
「頼まれれば投資します。頼まれなければしません」
日本企業が経営難に陥り、頼ってくるなら買ってやるということだろう。
事実、中国政府関係者は次のように話す。
「日本の中国への関心は非常に高いが、中国では日本への関心はない。GDPで日本を抜くといっても、話題にも上らない。我々にとって日本は資産の逃避先にすぎないんです」
デフレで物価の低迷する日本は溜め込んだ外貨の運用先として「狙い目」だということだろう。中国ファンドによる日本の上場企業株式の保有も静かに進んでいる。3月期の有価証券報告書によると、巨大投資ファンドが、日本の大企業の株をそれぞれ1%前後に合わせて買っていることがわかった。
ソニー株の保有数を見ると、'08年3月時点で930万株、'09年3月で1000万株を超え、今年3月には1200万株(資産額約439億円)を超えている。通常、匿名ファンドであれば、自分たちが大株主だとわからないように小口に分けて買い進めるが、信託銀行『SSBT』を使った巨大ファンド名には、「China」という正体を堂々と見せている。
全体の保有率を抑えながらも、「日本の株式市場を支えているのは中国だ」とアピールしているようだ。また、『SSBT』は三菱UFJFG(1.25%)、三井住友FG(1・28%)、みずほFG(1.04%)の3大メガバンクの大株主になっているところにも強かな計算が見える。
では今後、どの業界が買収対象となるのか。中国人エコノミストが明かす。
「中国では2012年に自動車の生産を年間2500万台にする計画があるので、マツダや三菱自動車などはM&Aの対象として考えられる。また、大手ゼネコンが持っている高層ビル建築などの優れた技術は欲しいところです。鹿島や大林組など、創業者一族がある程度の株を保有していて、後継者の育成が進んでいない会社を買うつもりでしょう」
日本中が「中国人仕様」
資本家だけでなく、中流層たちも日本の資産を買い漁り始めた。7月1日、中国人向け個人観光ビザの発給要件が大幅に緩和され、富裕層に限られていた発給が中間層にまで拡大された。昨年の中国人観光客は100万人以上。観光庁は、'13年390万人、'16年600万人の来日を目指している。
典型的な中国人の観光コースは、秋葉原と銀座と富士山を巡るバスツアーだ。いまやそのすべてが「中国人仕様」になっている。
昨年6月、中国家電量販店最大手『蘇寧電器』の傘下に入ったラオックスの本店は、秋葉原のなかでももっとも多くの中国人観光客が来るエリアだ。
「小社のトップは『日本人も外国人も関係なく買い物ができる店を目指す』と話しています。中国人来客数は昨年比で約2・5倍です。スタッフの半数以上が中国人。
日本人スタッフには希望者向けに週に2回、中国語研修を行っています」(広報・北沢陽一氏)
彼ら中国人観光客の多くが買い物に利用しているのが「銀聯カード」。いわゆるデビットカードで、発行枚数は約21億枚。中国の人口は約13億人なので、ひとり2枚の銀聯カードを持っている計算になる。
「共産圏のため金貸しが存在せず、クレジットカードに必要な与信を判断する材料がなかった。ただ、最近では信用情報の整備が進み、銀聯のクレジットカードも富裕層を中心に普及しつつある。いまやVISAに匹敵する国際ブランド。『金儲けしたければ銀聯カード』と言われるほどです」(カード評論家・岩田昭男氏)
中国から日本のウェブサイトにアクセスし、銀聯カードでネットショッピングができるようになるのは時間の問題。そうなれば、ますます・日本買い・に拍車がかかるだろう。
家電製品を手にした彼らは銀座へ向かう。カルティエやブルガリなどの高級店を覗くと、決して店の雰囲気に似つかわしいとはいえないラフな服装の中国人が、高価な商品を吟味している。
「ウチだけではなくどの店も中国人だらけ。英語が堪能な中国人は多く、『同じものを3つ買うから値引きしろ』と無茶な要求をする客も多い」(ブランドの店員)
中国人観光客のなかには、傍若無人な行動に及ぶ者もいる。カジュアルファッションを取り扱う人気ブランド『アバクロンビー&フィッチ』は、アジア唯一の店舗だが、ここでは中国人の若者が店内のBGMに合わせて踊り、他の客の邪魔になっていた。
また、昼時の交通量の多い時間に、道路の真ん中でカメラを構える中国人の姿も目立つ。このような光景に「銀座の格が損なわれる」と嘆く声もあるが、銀座に勤める多くの人は"上客"を歓迎している。
買い物を楽しんだ彼らは、富士山へ。周辺のホテルは中国人観光客だらけだ。
「富士山ガーデンホテルだけではお客様をすべて受け入れることができず、今年6月に新館を建てました。ちなみに富士山に登る方はほとんどいません」((株)シーエイチアイ東京ベイプラザホテル営業担当・和田誠氏)
このホテルは収容客数400人。7月~9月までの予約状況は月に1万人ペースで、その約6割が中国人。ほかは台湾などアジア圏からの観光客が占めている。
南の玄関口・福岡には中国人が船で多数訪れる。今年だけで66隻のクルーズ客船が博多港に寄港予定だ。福岡市にある百貨店『岩田屋』営業政策部営業企画担当・井上浩氏はこう話す。
「朝礼で『いらっしゃいませ』などの挨拶を中国語でも練習しています。百貨店で好まれるのは、資生堂の化粧品。衣料品では『バーバリーブルーレーベル』が人気です」
不況に喘ぎ所得が減った日本人に代わり、"買い手"は中国人になった。膨れ上がった中国元が、日本を丸呑みにする日も近い。