目指すべきコンテンツの在り方と、その敵
2020.05.22
クリエイター
この記事の制作者たち
九条林檎さんに、VTuber業界で今話題のトピックを解説してもらう連載「おしえて、九条林檎様!」。まる1年にわたって毎月様々な話題でお送りしてきた本連載は、今回が最後の更新となります。最終回のテーマは「VTuberとIP」です。
みずほ銀行や矢野経済研究所による調査において、IP(※1)としての可能性に期待が寄せられているVTuberは日々多くのコンテンツとコラボしています。漫画やゲームといったメディアミックス展開も増加しており、街中に溢れる広告でVTuberの姿を見かけることも多くなりました。
VTuberのIPとしての価値が拡大していくかどうかは、業界の発展にも直結する重要な要素です。最終回らしく業界の先を展望しつつ、未来を考える上でも重要な“VTuberのIPとしての可能性”について聞きました。
(※1)IP。Intellectual Propertyの略称で、知的財産を意味する。広範な創作物やアイデアなどの総称。漫画などに登場するキャラクターは、キャラクターIPと呼ばれる

目次
- VTuber本人よりも面白い漫画もアニメもゲームも、まだ存在しない
- 「賛否両論あるかもしれない」ぶいすぽっ!アニメへの期待
- VTuberとAIVTuberの間にある壁、人間によるナラティブの不在
- VTuberと企業の方向性の違いが生まれるどうしようもない理由
- 新しい可能性を切り開くかもしれない、新世代のVTuber
──最近はアニメ化されたり、ゲーム化されたりするVTuberも増えていて、VTuberをキャラクターIPとしてより幅広く展開しようとする動きが顕著だと感じます。林檎さんはこの動きをどう見ていますか?
九条林檎 VTuberの2次元性が功を奏した結果ではなかろうか。前回に引き続きまたしても我の好きなK-POPを引き合いに出すんだが、著名なK-POPグループのいくつかはアイドルを主役にしたアプリゲームもリリースしていて、ファンからは一定の支持を得ている。しかし、VTuberほどゲームとの親和性はないように感じているんだ。
実写の方をイラストや3Dモデルにすると目鼻などの描き方に解釈が違うとか、本人のように感じられにくいといったデメリットが出てきやすい。
その点VTuberは、いわゆる2次元の世界であれば普段活動しているほぼそのままの姿でゲームや漫画、アニメに登場できるし、姿が変わらなければ本人だと感じられやすいからな。この親和性の高さは強みだ。
──確かに多少は衣装が変わったりするでしょうが、実写の方よりよほど受け入れられやすいですね。しかし、もともとの設定や性格が大なり小なり薄れてしまうことに反発は生まれないのでしょうか?
九条林檎 実際に本人が出演して動画収録またはリアルタイムに話しているものしか本人とは認めない原理主義的な方もいるから、受け入れられない者も無論いるだろう。逆に我のように、漫画やアニメを通して推しのifが見たい者もいる。
とはいえ、二次創作的な切り口なら何でも受け入れられるわけではなかろう。極端な例を出せば、コンテンツを制作する方にVTuberの見た目、元々の設定といった資料のみをただ渡してキャラクター像をつくってもらっても、それはそのVTuberにはなり得ないからだ。
今までの何時間にも及ぶコンテンツによってVTuberは形成されているので、あくまでもその蓄積から「その人がこうだったらどうするか」を誠実に描くことが重要に思われる。
──では演者としての立場から、IP化について留意するべきことはありますか? アニメや漫画は、極端に言えば演者が必要のない形式です。
九条林檎 監修者の一人としてブランド/キャラクター像を大きく外れたものができあがらないようにチェックしていくしかないな。もし我が参加する機会があれば、関係者と相談して九条林檎から大幅に外れた表現が出てこないことを確かめて、そしてファンの者たちが喜んでくれるならやりましょうとゴーサインを出すだろうか。
監修者としてのVTuberが存在しない例で言えば、湊あくあ氏や紫咲シオン氏のように、ホロライブから卒業された後も明確にIPが会社に残っている方のグッズは確かに理論上出そうと思えば発売できるし、似たような話でVTuberが監修をさせてもらえないケースも実際少なくない。
その延長線上で漫画やアニメにまで登場させることもできなくはないだろうが、あまりおすすめはできないな。
──ファンからの反発は容易に想像できますね。
九条林檎 うむ、反発だけでなくそもそもファンの方々に見たいと思っていただけるような、本人の魅力を十二分に表現した芯食ったキャラクターにできず、そのコンテンツのクオリティがあまり高くない状態で完成してしまう可能性が高い。
つまりとんでもない鬼才クリエイターが現れて、演者を必要としない大ヒットコンテンツをつくる可能性はかなり低いと見る。今のところ、IP活用とは言っても、タレント本人よりもヒットした漫画もアニメもゲームも出てきていない。それは一つの答えだと思う。
──演者を必要としないプロジェクトで興味深いのが、ぶいすぽっ!のアニメプロジェクトです。ぶいすぽっ!所属のVTuberが登場する全12話のアニメを制作するプロジェクトで、声をメンバーが担当するバージョンと、プロの声優が担当するバージョンがつくられる予定です。
VTuberにとっての核である演者が変わった時にファンがどう受け止めるかが論点になりそうで、公式サイトにも「賛否両論あるかもしれない」と書かれています。
九条林檎 ファンの反応はなんとも未知数だな。しかし生配信を主とするタイプのVTuber本人の魅力というのは生配信の中で生まれる偶然のような出来事、ファンとのやり取り、とっさのリアクションによるところが大きいのは確かだ。
さくらみこ氏の特徴的な口調であるとか、宝鐘マリン氏の一度聞いては忘れられぬ声だとか、演者の個性こそ愛される要因だと我は思っているんだが、それがアニメになると希釈されてしまうのは否めない。
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