安部公房の名作『砂の女』を新たに舞台化 脚本・演出の山西竜矢と主演の森田剛に作品への想いを訊く
(左から)森田剛、山西竜矢
映像作品でも舞台作品でも難易度の高い役柄を全身全霊で演じ切り、演者として常に高い評価を得続けている森田剛。彼が2026年春、またもや衝撃の話題作に出演する。
取り組む作品は日本が世界に誇る小説家、安部公房の代表作である『砂の女』。今回の舞台化にあたり、脚本と演出を担当するのは若手注目株の脚本家で演出家、そして映画監督でもある山西竜矢だ。
本格的な稽古開始にはまだ間がある昨年末に、森田と山西に今作への想いを語ってもらった。
ーー今回『砂の女』を舞台化するにあたり、森田さんが参加することになったいきさつはどういった流れだったんでしょうか。
森田:まず『DEATH DAYS』(長久允監督、2022年)という映画があり、その映画のメイキング・ドキュメンタリー『生まれゆく日々』の監督、構成、テキストを手がけられていたのが、山西さんだったんです。メイキング自体の撮影は4日間ほどだったんですが、その時間をずっとご一緒して。その後も山西さんの映画を観たり、僕の出ている舞台を観に来ていただいたりしていて、それで今回『砂の女』を舞台でやるからということで、声をかけていただきました。
ーー山西さんとしては、『砂の女』を舞台化するから森田さんに声をかけたんですか、もしくは森田さんと一緒にやるから『砂の女』を選んだんでしょうか。
山西:ほとんど同時みたいな感じではありましたね。何をやろうか考えていて、『砂の女』がいいかも、ってなった時に「剛さんに声かけたら、ワンチャン出てくれたりしないかな?」みたいな流れだったというか。今、剛さんもおっしゃいましたが、長久監督と剛さんが二人でやられていた映画のメイキングフィルムをドキュメンタリー映画として撮るにあたって演出と構成を僕がやっていた期間中にじっくり会話ができていたので、おこがましいんですがすぐに剛さんのお顔が浮かんだんです。それで、お声がけさせていただいたら受けてもらえたという。
山西竜矢
ーーその時どう思われましたか。
山西:「あ、いけた!」「いいんですか?」みたいな気持ちでした。もちろん、お芝居されている姿も観てきましたし、世代的にもさまざまなテレビ番組でずっと拝見してきた方なので、なんだか不思議な感覚でした。でも、とにかく嬉しいというのが一番でしたね。
ーー森田さんは、どういった点からOKを出されたんですか。
森田:実は、お声がけいただいたのが別の舞台(『台風23号』2024年)の稽古から本番の時期と重なっていたんです。そんなこともあって、なかなか次の作品のことが考えられずにいたんですが、山西さんがその舞台の本番を観に来てくれることになったので、じゃあその日に決めようと密かに思っていたんです。
山西:え、そうだったんですか?
森田:それで終演後に挨拶に来ていただいた時に「じゃあ、やりますか!」と。
山西:剛さんが急に「じゃあ、やっちゃう?」って言ってくださって「舞台の出演って、こんな感じで決まるんだったっけ? こんなに疲れているタイミングで?」って思った記憶があります(笑)。
森田:その日から動き出した感じでしたね。でもやっぱり、最初の出会いの時の4日間の撮影が大きかったと思います。つまり、既にお互いの人となりがわかっている状態でのオファーだったので、僕としては何の不安もなく「ぜひぜひ!」という気持ちでした。
森田剛
ーー作品が『砂の女』だったということに関してはどう思われましたか?
森田:面白いなと思いました。当時、自分が興味を持っていた題材でもありましたし。男と女が狭い空間の中で、変な話、監禁されているほうと見守るほうになるという、そういう話に興味があったんです。その時の自分にぴったりだったというか、とても面白そうに思えたし、山西さんが『砂の女』をやるということ自体に興味も湧きましたし。
ーー山西さんとしては『砂の女』という作品に対して何か思い入れがあったんですか?
山西:そもそも、安部公房がすごく好きで。自分が作品づくりをする際にも多大に影響を受けていて。それもあり、今回舞台をやることになった時にすぐ『砂の女』がやってみたいな、という想いに駆られました。映画化も舞台化もされている作品ではありますが、このタイミングで、新たに舞台として立ちあげてみたいと思ったんです。
ーー自ら上演台本を書くにあたっては、特にどんなことを意識されましたか。
山西:基本的には原作の小説に忠実に、ということと。あと僕の場合は、自分が演出するということを想定しながら脚本を書きたいタイプなので、そこは意識しました。劇作家の方にもいろいろタイプがあって、自分への宿題みたいな感じでまず書いて、それに立ち向かう形で自ら演出する方もいらっしゃいますけど。僕はある程度想定したい方で。逆に言うと、どう演出するかを最初に思いつけないものはやりたいと思えないかもしれないです。なので、『砂の女』をやりたいと思ったのも……。
ーー「こういう風に演出したい」という気持ちが先にあった、と?
山西:はい。いくつか空間演出のアイデアが思い浮かんだことが決定打になったかもしれません。今回は、シンプルだけど大胆、みたいなことが美術も含めて演出としてできたらいいなと思っています。
ーー森田さんは今の段階で、主人公の仁木順平をどう演じたいなと思われていますか。
森田:今は、まったく考えていないですね。
(左から)森田剛、山西竜矢
ーー稽古が始まってみないと、ということはいつもおっしゃるのでわかっていましたが、念のため聞かせていただきました(笑)。
山西:いつも「まったく考えていない」と答えているんですか(笑)。
森田:だって、本当に今はまだ何も考えられないので(笑)。
山西:正直過ぎます(笑)。でも確かに稽古が始まらないことには、わからないことが多いですよね。
森田:わからないですよ。自分がまずできるのは、セリフをちゃんと入れていくということ。セリフを覚えているうちに、この場面はこうしてみたいと思うこともありますけど、それも実はいらない気もするし。
ーー実際に稽古してみないと、それが合っているかどうかも判断できないですしね。
森田:相手の芝居がどういう方向なのかにもよりますし。それこそ山西さんの演出も舞台で受けるのは初めてだから、今の時点では本当にわからないんです。
山西:僕もそう思います。演出も同じで、色々考えていても、いざ稽古場で役者さんと合わせると大きく変わることが多々あります。
山西竜矢
森田:といっても、本当にまるで何も考えていないとどうにもならないから、まったくのゼロではダメで。その塩梅が難しいんですけどね(笑)。
ーー山西さんは今回キャスティングを、どういう基準、狙いで選ばれたんでしょうか。
山西:普段はいわゆる小劇場で、会話劇というかナチュラルな、いわゆる現代口語寄りのものを基本的にはやっているんですね。映像も撮りますし、どちらかというとリアルなお芝居に接することが多い。でも、もともと僕は役者をやっていて、以前所属していた劇団はどちらかというと大劇場に合わせた芝居をやっていたので、ナマっぽい芝居だけが好きなわけではなくて。今回は、自分としては初めてのプロデュース公演で、かつ原作がある作品をやらせていただくので、それなら大きな劇場に向けての演出をやってみたいという気持ちがありまして。それに沿ったキャスティングにしたい、という想いはありました。身体性とか発声で、広い舞台空間をきちんと埋め尽くせているお芝居をされているのを何度も拝見していた方たち、そういう意味で尊敬と信頼をすごくしている舞台の役者さんたちと、今回はご一緒したいと思ったんです。変な言い方ですが、今までで一番、「“演劇らしい演劇”をやってみよう」という気持ちがあるので、それがキャスティングにも影響している気がします。もちろん、これまでもずっと演劇はやってきているんですけど。
『砂の女』
ーーでも、確かに演劇ならではの魅力が詰まった作品にはなりそうですね。ちなみに藤間爽子さんには、どういうことを期待していますか。
山西:素晴らしい役者さんですし、舞台に立っている時というか、空間にいる時の重みみたいなものが、ちょっと他の方にないものを持たれている人だと以前から思っていました。『砂の女』という作品自体が、先ほど剛さんもおっしゃっていましたけど“監禁された”状態でのなんだかちょっと陰湿なバトルみたいな話だと思うんですが。そういう意味では剛さんを監禁できるような強い圧力を持った方じゃないとダメだという気持ちもあり、藤間さんだったらそういう二人のバトルが想像できるなと思ったんです。
ーー森田さんは藤間さんのことはご存知だったんですか?
森田:いや、申し訳ないですが存じ上げなくて。だけど聞いてみると、会う人会う人「すごい人だよ」とおっしゃる。でも、何がすごいかはあまり言ってくれないんです(笑)。
ーー具体的なことは何も?(笑)
森田:「とにかくすごい」としか。でもなんとなくわかってきました、人とは違うものを持っていて、それがすごいんだろうなと。
ーー実際に、お会いしてみての印象はいかがでしたか。
森田:きっちり、はっきりしていて気持ちのいい方だな、と思いました。今回『砂の女』をやるにあたって、すごく考えていらっしゃる感じでしたし。この作品って実際、難しいとは思うんですよ。ずっと、ほぼ二人で空間を埋める作業をするのは、やはり大変だろうなと思うので。そこはお互いに出せるものを出し合って、ちゃんと空間が埋まるようにということは意識してやりたいなと思っています。
ーー舞台上に、二人しかいない時間も長そうですしね。
森田:それも、本当に二人きりというわけでもないですからね。設定として監視の目があったりもするから。
ーー謎めいた村人たちが遠くからも見ているかもしれない、見ていないかもしれない。つまりまったくの密室ではない、そういうことも意識させなきゃいけないから。
森田:そういうことです。
森田剛
山西:またそれが、舞台だということも大きいですね。そこは、本当は劇場であって出入りができる場所なので。監禁モノを舞台でやる時、一番難しいのがそこなのではないかと思っています。現実では出たり入ったりできる場所で、その嘘を信じ切らせないといけないから。その点は演出としてもしっかり頑張らなきゃなと思っています。
ーー周りは砂だらけだということも表現しなければならないから、それもまた難しそうですね。お客さんに想像していただかなければならない。
山西:そうなんです。本当に砂を持ち込んで作り込むこともできないので。そこもまた、演劇的な面白さを活かしつつ、演出していきたいと思っています。
ーーでは最後に、お客さまに向けてお誘いのメッセージをいただければと思います。
山西:僕自身はまだまだ若輩者ではありますが。安部公房の『砂の女』という、そもそもとても面白い傑作の原作を、剛さん始め素晴らしいキャスト陣、スタッフ陣を集めて作れることになりましたので、ここはぜひとも楽しみにしていただきたいです。自分で言うのもなんですが、こうして面白い、素晴らしいキャストやスタッフに恵まれる才能だけは、自分にはあると思っているので。
ーーそれって、素敵な才能ですね(笑)。
山西:そうなんです(笑)。だから今回のこの作品は現時点で決まっていること、集まっている要素だけでもつまらないものにはならない自信がすごくあります。ぜひ、観ていただきたいです、劇場でお待ちしています!
森田:僕も、何の不安もないです。気負いみたいなものもないですし。
山西:アハハハ。いいんですか? 二人とも不安なく挑んでるけど、実際やってみたら意外と僕たち相性悪くて、めっちゃうまくいかないとかになったら、どうします?(笑)
森田:その時はその時だと思うんで大丈夫(笑)。だけど、絶対にほかでは体験できない感覚を、今回の舞台で感じてもらえると思うんですよね。少しでも興味がある人は、ぜひ劇場に来ていっぱい想像しながら観てください。舞台って、すぐ目の前でナマのお芝居を目撃できることが一番の醍醐味だと思いますので、そういう体験をこの作品で味わってもらえたら嬉しいです。
(左から)森田剛、山西竜矢
■森田剛
ヘアメイク:高草木剛(VANITÉS)
スタイリング:松川 総
衣装クレジット:ジャケット ¥71,500、Tシャツ ¥17,600 ともにキャプテン サンシャイン(tel03-6712-6830) 他 スタイリスト私物
■撮影協力:COFFEE BAR 桟敷
取材・文=田中里津子 撮影=荒川 潤
公演情報
原作:『砂の女』安部公房
キャスト:森田剛 藤間爽子 大石将弘 東野良平 永島敬三 福田転球
企画・制作: レプロエンタテインメント
製作: 「砂の女」製作委員会
協力: Abe Kobo Official through Japan UNI Agency, INC.
©1962 安部公房
公式 HP:https://stageoffical.com/sunanoonna/
公式 X :@sunanoonna_
日程:2026年3月19日(木)~4月5日(日)
会場:紀伊國屋ホール
主催:「砂の女」製作委員会
提携:紀伊國屋書店
一般発売:2月7日(土)~
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全席指定11,000円
【仙台公演】
日程:2026年4月8日(水)18:30開演
会場:電カホール
主催:ニイタカプラス
一般発売:2月7日(土)~
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11,000円
日程:2026年4月11日(土)15:00開演
会場:SG GROUPホールはちのへ(八戸市公会堂)
主催:青森朝日放送、ニイタカプラス
共催:アート&コミュニティ
一般発売:2月7日(土)~
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全席指定S席11,000円、A席7,700円
日程:2026年4月18日(土)~4月20日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール
主催:「砂の女」大阪公演事務局
一般発売日:3月15日(日)~
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全席指定11,500円