NVIDIAのジェンスン・フアンが明かす、「国家レベルのAIインフラ構築」戦略

『WIRED』のイベント「The Big Interview」にNVIDIAのジェンスン・フアンがリモートで参加した。フアンは自身が世界各国を訪問し、各国政府に独自のAI基盤構築を提案している取り組みについて語った。
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『WIRED』主催のイベントに登場し、リモートインタビューに答えるNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン。Photograph: Tristan deBrauwere

人工知能(AI)の潜在能力に懐疑的な声が高まるなか、NVIDIAの最高経営責任者(CEO)であるジェンスン・フアンは、AIこそが社会を根本から変える力になると力説している。

AIの動向を一言で表現するならば、「過去60年間のコンピューティングの常識をリセットするものだ」とフアンは、『WIRED』のシニアライターであるローレン・グードに語った。ふたりの対談は、12月3日(米国時間)にサンフランシスコで開催された『WIRED』のイベント「The Big Interview」で実施された。

フアンはAIの能力は「想像を絶するもので、とても太刀打ちできるようなものではありません。この波に乗るか、あるいは乗り遅れるかのどちらかです」と語った。

つまり、「AIはエネルギーや通信のインフラのようなものだと、人々は気づき始めています。そして、これからはデジタルインテリジェンス向けのインフラができるのです」とフアンは語る。

しかし、現在フアンが直面している課題は、自身が掲げるビジョンをほかの人々、特に世界中の政府に同意させることができるかどうかだ。

フアンは、今回の『WIRED』主催のイベントに唯一、国外からリモートで参加し、インタビューに応じた。ちょうどタイに滞在中で、現地には少年時代に5年間住んでいたという。そして、まさにイベント開催当日に、タイの首相であるペートンタン・チナワットと会談し、共にタイで「世界トップクラスのAIインフラ」を構築することについて話し合ったばかりだと語った。

10カ国以上とAIインフラ構築へ

今年、フアンは自身の構想を普及すべく、世界各地を精力的に訪ねて歩いている。タイはそのツアーの最新訪問地である。フアンが各国政府に説いているのが、自国でAIインフラを構築し、自国でデータを処理し、自国でAIシステムを保有する必要性だ。そしてそれを達成するためには、当然のことながらNVIDIAのチップを購入すること。そうすることで、未来へ向けて各国独自の道を切り開くべきだと主張している。

この売り込みはかなりうまくいっているようだ。『Sherwood News』がまとめたデータによると、少なくとも10カ国がNVIDIAとAIのインフラ・プロジェクトを進めていく予定で、タイはこの協業相手先リストに新たに加わったことになる。フアン自身はインタビューのなかで、今年デンマーク、日本、インドネシア、インドを訪問したと語った。これらの国はすべて、NVIDIAのチップを使用して、国家独自の「ソブリンAI」システムを構築することを決定している。

世界各国政府に対する売り込みにフアンが成功しているのは、ふたつの傾向が反映されている。ひとつは、AIシステムの可能性に対する根本的な認識が高まってきていること。もうひとつは、スプリンターネットと呼ばれる、インターネットの世界で進む分断化だ。オンライン上で地理的境界が再構築されてしまうのだ。AIは最新のハイテク製品だが、チップやデータの目に見えない流れが、国家間の境界によって妨げられているケースもある。

日中間の緊張関係にも対応

国家間で目立つ緊張関係としてまず挙げられるのが、米国と中国の関係だ。ふたつの主要な技術大国は、来るべき技術革新の波のなかで、トップの座を獲得することを熱望している。両国が衝突すると、NVIDIAは必然的にその渦中に身を置くことになる。

この対談前日の12月2日、ジョー・バイデン政権は中国へのチップ部品とチップ製造技術の輸出を禁止する新たな規制を発表した。規制対象のひとつが、カスタマイズされたAIチップによく使われるメモリ部品である、広帯域幅メモリ(HBM)だ。NVIDIAのチップ「H20」は、輸出規制に違反せずに中国企業に販売できるように設計されたものだが、このチップにはHBMが搭載されている。同社は今回の規制強化を見越して、今年9月に早くも中国からの「H20」の受注を停止したと、中国メディアは報道している。

今回の輸出規制がNVIDIAに与える影響、特に同社のチップに搭載される部品に与える影響について質問されたフアンは、具体的な回答は避けた。しかし、「(バイデン)政権とのやりとりは素晴らしいものでした」と語り、サンフランシスコの観衆からの歓声に包まれた。

一方、ドナルド・トランプ大統領就任が近づいている。次期大統領がもたらしかねない政治的不安定さのなか、フアンは友好的な手をトランプにも差し伸べている。「トランプ大統領に連絡をして祝意を伝え、彼の成功を祈りました。そして政権が成功するために、わたしたちは全力を尽くすと彼に伝えました」とフアンは語った。

トランプは最近、メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税をかけ、中国からのあらゆる製品には10%の追加関税をかけると公約した。メキシコからの輸入品に対する25%の関税は、NVIDIAが同国で建設中の新しいチップ工場にも影響を与えるかねない。

フアンはトランプ政権も、「AIを社会の根本的な変化の源と捉える」という彼のビジョンに賛同してくれることを期待している。「新政権とトランプ大統領がこの業界に強い関心を抱いてくれるものと確信しています。わたしは喜んでサポートするし、できる限り何でも質問にはお答えするつもりです」とフアンは語った。

「ソブリンAI」を推奨する理由

しかし、NVIDIAはもうひとつの地政学的な緊張関係からも利益を得ようとしている。それは、AIをリードする米中両国、そしてそこで事業を展開する企業と、それ以外の国々との間に生じている緊張だ。米中という巨大勢力以外の国々は、競争から取り残されていると感じており、AI技術革命の恩恵を受けるためには、大国に頼らざるを得なくなっている。

米国と中国の企業がこれからの未来の姿を定義づけていくようになるのであれば、ほかの国々はAI時代に自国の利益を守れるかどうかを当然心配するだろう。それこそが、フアンの「ソブリンAI」への売り込みが世界中の政府から支持される理由である。

「各国はAIの驚くべき能力、そして自国にとってのAIの重要性を認識し始めています」とフアンは語る。「それぞれの国が保持するデータは、その国の社会の知識、文化、常識を記録したものなのです。そして希望や夢もです」

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

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