グーグル、「Gemini in Chrome」提供開始。AIブラウザ本格普及へ一歩

グーグルは世界で最も使われているブラウザ「Google Chrome」にGeminiを統合し、米国で提供を開始した。検索やリサーチの支援に加え、今後は「AIエージェント」機能の導入も予定されている。
グーグル、「Gemini in Chrome」提供開始。AIブラウザ本格普及へ一歩
PHOTO-ILLUSTRATION: WIRED STAFF; GETTY IMAGES; COURTESY OF GOOGLE

世界で最も利用されているブラウザであるChromeに、グーグルは複数の新しい人工知能(AI)機能を追加する。なかでも目を引くのは、チャットボットGeminiを起動するための新しいボタンだ。そのほかにも検索やリサーチ、質問への回答をAIでサポートするツールが導入される。さらに、グーグルはカーソルを操作できる「エージェント型」ツールもChrome向けに準備している。

ブラウザに搭載された「Gemini in Chrome」は生成AIを使い、ページ上のコンテンツに関する質問に答えたり、複数のタブにまたがる情報をまとめたりすることができる。Google Chrome版Geminiは、5月にまずグーグルの有料会員向けに提供された。現在、AIに特化した機能は米国で英語版のブラウザを使うすべてのデスクトップユーザーに提供されている。ブラウザを更新すると表示されるようになる。

モバイル端末では、AndroidユーザーはすでにChromeアプリ内でGeminiの一部機能を利用できる。グーグルは、近いうちにiOS版Chromeも更新する予定である。

AIツールの浸透

わたしが2023年に、生成AIツールを搭載したウェブブラウザについて書いたとき、それはまだ主流から外れた試みにすぎなかった。新しいツールで実験したり、ユーザー数を増やすきっかけになる機能を見つけたりしようとしていたのは、一部の挑戦的な開発者や変革を目指す人たちだけだったのである。しかし、こうした取り組みは、圧倒的に多くのユーザーを抱えるChromeの前では、取るに足らないほど小さな動きにすぎなかった。

それから2年後、市場で最も使われているブラウザがChromeである状況は変わらないものの、AIツールはインターネット全体にすっかり浸透している。そしてその多くはグーグル製でもある。とはいえ、今日という日は、GeminiがChromeに深く組み込まれたことで、「AIブラウザ」という概念が本当の意味で主流のものになったのだ。

グーグルのGemini戦略

グーグルにおけるGeminiの戦略は、GmailからGoogle ドキュメントに至るまで、できる限り多くの自社サービスと統合することにある。したがって、より幅広いユーザーに向けてChromeをAI化する動きは特に驚くべきことではない。

それでも、この大規模な展開は反発を招く可能性が高い。2025年に入って大量に投下され続けてきたAI機能にうんざりしている人や、環境面の理由、あるいは自分の行動がアルゴリズムの学習に使われたくないという理由で、AIの利用を避けたいと考える人もいるからだ。Geminiのオプションを表示したくないユーザーは星のようなGeminiのアイコンをクリックして、Chromeのブラウザの右上から外すことができる。

ブラウザ上部に新しく搭載されたアイコンを押すとGeminiが起動する。これらの変更は、まず米国のユーザーから順に反映される。

ブラウザ上部に新しく搭載されたアイコンを押すとGeminiが起動する。これらの変更は、まず米国のユーザーから順に反映される。

Video: Google

9月末までに、グーグルはチャットボット型の検索機能「AIモード」をChromeのアドレスバー(グーグルが「オムニボックス」と呼ぶ部分)に組み込む計画を立てている。これにより、ユーザーはAIモードのボタンやキーボードショートカットを使ってGeminiを呼び出し、表示されているウェブページに基づくプロンプトの提案を受けられるようになる。

この機能は任意であり、ユーザーがアドレスバーにクエリを入力して通常のGoogle 検索を実行する機能を置き換えるものではない。とはいえ、生成AIはどこにでも浸透していて、避けられないように感じるかもしれない。検索結果の上部にはほぼ確実に「「 AI による概要 (AI Overviews)」が表示されるからだ。

まだ導入はされていないが、今後数カ月のうちにChromeに「AIエージェント」機能が追加される予定もある。これにより、たとえばユーザーはGeminiに「Instacartに商品を追加する作業」などを依頼できるようになる。指示を受けた生成AIはバックグラウンドで動作し、クリック操作を通じて食料品を選び、ユーザーが最終的に購入を確定する前に選んだ品目を提示する。この仕組みの一部は、グーグルが以前「Project Mariner」の実験のデモ動画で示したものに似ている。

今年初め、OpenAIが公開した類似のエージェント機能(当時はOperatorと呼ばれていた)を試したとき、その作業は雑で時間もかなりかかった。鈍臭い幽霊がブラウザのなかを彷徨っているかのようだったのだ。個人的には、過去に似たような機能を試した経験からすると、Chromeのエージェント機能の精度についても懐疑的である。展開当初は、興味深いが実用性には乏しいものになるのではないかと考えている。

「AIによる概要」は、より埋め込まれたインタラクティブなものになる。

「AIによる概要」は、より埋め込まれたインタラクティブなものになる。

Video: Google

AIブラウザ元年

2025年に入ってからというもの、主要なソフトウェアのリリースには必ず何かしらの生成AI要素が盛り込まれている。ブラウザも例外ではない。あなたのブラウザにもAI機能を! あなたのブラウザにもAI機能を! そちらにも!というような感じだ。

たとえば、The Browser Companyというスタートアップは、数年前からArcというブラウザでAI機能を提供してきた。同社は6月にそれを「Dia」にリブランドし、新しいAI機能を多数搭載して公開している。別の有望なAIスタートアップであるPerplexityは、今年、自社の生成AIを検索エンジンに深く組み込んだ新しいブラウザ「Comet」の立ち上げに注力してきた。さらに、OpenAIもいずれ独自のAIブラウザを発表するのではないかと噂されている

AI特化の新機能がGoogle Chromeに展開されるのと同時に、スマートフォン向けのGeminiアプリがそれまでトップだったChatGPTに取って代わって、iOSの無料ダウンロードランキングで首位に躍り出た。このアプリは、グーグルが最新の画像生成モデル「Nano Banana」を公開したことをきっかけに人気が急上昇したのだ。

新しいツールを試すのが好きなアーリーアダプターは、おそらくすでに好奇心から別のAIブラウザをダウンロードしているだろう。しかし、グーグルがChromeにGeminiを組み込んだことで、数百万人のユーザーが自分のブラウザで初めて、こうしたAI機能を目にすることになる。米国では次の数週間、「Geminiって一体何なの?」と尋ねる親戚からの電話が増えることだろう。

GeminiはすでにAndroid版Chromeに統合されており、iOS版にもまもなく搭載される予定である。

GeminiはすでにAndroid版Chromeに統合されており、iOS版にもまもなく搭載される予定である。

Video: Google

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)

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