メタの巨大データセンター誘致──ルイジアナ州の税優遇と住民の懸念

ルイジアナ州は、メタのAIデータセンター向け発電施設を急ぎ承認し、税制優遇も約束している。しかし、マーク・ザッカーバーグの会社が掲げる300〜500人規模の雇用創出は不透明で、反発が強まっている。
Mark Zuckerberg chief executive officer of Meta Platforms Inc. center arrives for the 60th presidential inauguration in...
メタ・プラットフォームズの最高経営責任者(CEO)、マーク・ザッカーバーグ。Photograph: Saul Loeb; Getty Images

ルイジアナ州の都市計画当局は、メタ・プラットフォームズがリッチランド郡に建設を進める巨大なデータセンターに電力を供給するための天然ガスタービン3基の設置を急ぎ承認した。延べ床面積は約400万平方フィート(約37万平方メートル)に及び、完成後には2ギガワット超の電力を消費すると見込まれている。

8月20日(米国時間)、ルイジアナ州公益事業委員会は、電力会社のEntergy Louisianaが運営する発電所の建設を、4対1の賛成多数で可決した。この決定に対して、公聴会ではメタの事業計画への反対意見が相次ぎ、審議が拙速だったとの批判が上がったほか、電気料金の上昇や水不足への懸念も表明された。

『WIRED』が確認した文書によると、州当局はメタに対し、地元労働者のフルタイム雇用を明確に保証することなく、税制優遇や各種インセンティブを与えることに同意していた。

拙速な承認に批判

今回の計画に反対する人々が怒りを示したのは、その拙速な承認プロセスだ。Entergy Louisianaは2024年に申請書を提出し、当初は10月に採決が行われ、委員会の行政法判事が追加の勧告を出す時間が確保されるはずだった。ところが同社は「反対していた一部の関係者が同意に転じた」として、採決を8月に前倒しする動議を提出。結果として、修正の余地がないまま決定が下されることになった。

さらに批判派は、建設費の負担構造にも欠陥があると警鐘を鳴らす。メタのデータセンター建設に不可欠なガス発電所や送電線の建設費について、Entergy Louisianaが公共料金利用者に転嫁する負担額の上限が設けられていないためだ。巨大なAIデータセンターが電気料金を押し上げるリスクは、すでに問題視されている。メタはガス発電所建設に充てる30年ローンのうち、前半の15年分の返済を担うことには合意したが、送電線の建設費は最終的に一般利用者が負担する見通しだ。

「委員会には費用上限といった条件や合理的なセーフガードを付けてほしかったです。ところが、下されたのは極めて失望的で理解に苦しむ決定でした」と、Entergy Louisianaの申請に反対してきた米市民団体、「憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)」でエネルギーアナリストを務めるポール・アルバジェは語る。

一方、計画支持派は投資効果を強調。承認投票の場で、Entergy Louisianaとルイジアナ州の経済開発担当者は、メタの試算を引用し、このプロジェクトが100億ドル(約1兆4,800億円)規模の投資を呼び込み、300〜500人規模の高賃金雇用をもたらす可能性があると繰り返し主張した。Entergy Louisianaは、24年に提出した当初の申請書でも、リッチランド郡の住民の4人に1人が貧困ライン以下で暮らしている現状を挙げ、計画承認の根拠としていた。

「住民を貧困から救い出すのに、これ以上の好機はありません。地域住民により質の高い雇用を提供できる絶好のチャンスです」とルイジアナ州北西部を代表する経済開発会社、Grow NELAの最高経営責任者(CEO)で、Entergy Louisianaのガス発電所計画を支持する証言をしたロブ・クリーブランドは公聴会で訴えた。

メタの雇用誓約

地元メディア「Nola.com」が1月に報じたところによると、ルイジアナ州の政治家たちは、24年後半にメタの誘致を実現するために都市計画法の改正を図り、ブロードバンド向けの税制優遇をデータセンター向けの免税措置へと切り替えた。しかし、市民に経済開発策を検証する時間はほとんど与えられず、メタ自身も公聴会への法的参加義務がなかったことから、ほぼ沈黙を保った。

実際には、承認されたEntergy Louisianaの新ガス発電所や5億5,000万ドル規模の送電線、変電所の改修(これも8月20日に承認された)は、すべてメタのために建設され、その一部はルイジアナ州の納税者が全額負担する形となる。批判者らが求めた関連資料の開示も進まず、7月に行なわれた召喚状の請求を含め、開示を迫る試みはいずれも不発に終わった。

『WIRED』が確認した州とメタが昨秋締結した税制優遇契約のひとつには、データセンターの事業主体であるメタの子会社Laidleyが、地元採用を優先する義務は明記されていなかった。条件として定められているのは、すべての雇用が現地で充足されることだけだ。(Entergy Louisianaによると、メタは今年4月に、地元採用に向けて「協調的努力をする」との書簡を州公益事業委員会へ提出したが、この約束に拘束力はない)。

またこの税制優遇契約では、州のインセンティブを受けるために雇用される人材が必ずしも常勤である必要はないことも判明した。契約上「フルタイム雇用」とは、40時間労働を週単位で満たせばよく、複数のパートタイム勤務の合算でも認められる仕組みになっている。

メタが最高水準の税制優遇──総額の80%にあたる減免──を受けるためには、35年までにこの「フルタイム」雇用500件ほど確保する必要がある。ただし、これらの雇用には医療保険への加入が義務づけられ、給与水準は平均年8万2,000ドルと定められている。加えて同契約では、メタが州内で10億ドルを投資するごとに、1万ドルの「事務手数料」を支払う条項も盛り込まれている。

州経済開発当局の報道官ケビン・リッテンは『WIRED』の取材に対し、依然としてメタが従来の発表通り500人の常勤職を創出することを期待していると語った。「メタはデータセンターで500人の新規直接雇用を生み出すと見込んでいます。経済開発の観点では、これは安定したフルタイム雇用を意味します」

不透明な雇用見積もり、拙速な採決

批判派によると、Entergy Louisianaは採決に向けた過程でも、メタの雇用人数に関する詳細を明らかにすることを避け、どのような職種が創出されるのか、あるいは300〜500人という見積もりがどのように算出されたのかについて説明を拒んだという。『WIRED』の取材に対し、Entergy Louisianaは、経済開発団体のGrow NELAの影響評価報告書を示すのみで、直接的な質問には答えなかった。

「雇用数の算出根拠を繰り返し求めましたが、Entergy Louisianaは何人が雇用されるのかを、まったく把握していませんでした」と、申請に反対してきたUnion of Concerned ScientistsとAlliance for Affordable Energy(電力料金適正化同盟)を代理する弁護士、スーザン・スティーヴンス・ミラーは語る。

それでもEntergy Louisianaは8月7日に提出した文書で、複数の当事者との最終合意の採決を急ぐよう求めた。メタの子会社やテック業界は、「事業開始までのスピードこそが、競争力に不可欠と考えている」とし、「委員会には、ビジネスの新たなスピードに対応しながら、州内のほかの利用者の利益とバランスを取る柔軟性と機動力がある」と主張した。

また同社は、公聴会で十分な証言が提出され、市民にも質問の機会が与えられたと説明。そのうえで迅速な採決は「このプロジェクトをルイジアナ州に確保するか、それとも事業スピードに対応できる他州に持っていかれてしまうか、その分かれ目だ」とも訴えた。

8月20日の公聴会では、市民からメタの雇用確約について質問が相次いだが、具体的な説明はほとんど得られなかった。『WIRED』が確認したメタとルイジアナ州の合意文書はいずれも委員会の公開資料には含まれていない。

地元雇用に保証なし

昨年11月、エネルギー業界誌『Power』はメタの雇用インセンティブを示した6ページの要旨を公開した。しかしその内容には、雇用がパートタイムとして認められるかどうかといった詳細や、『WIRED』が確認した93ページに及ぶ正式合意の内容は含まれていなかった。

消費者団体「Alliance for Affordable Energy」や「Union of Concerned Scientists」も、この合意文書の全文を『WIRED』から送られるまで一度も目にしていなかったと証言している。

ルイジアナ州在住のアンジェル・ブラッドフォード・ローゼンバーグは、8月20日の承認会合で発言し、データセンターの水使用量が地域農家に及ぼす影響への懸念を表明した。あわせて、創出される雇用が地域経済にもたらす効果についても次のように疑問を呈した。

「地元企業が繁栄してほしいと願っています。しかし、一般的にデータセンターでの恒常的な雇用は12〜15人程度にすぎません。それなのに500人も採用すると言われています。本当に地元の雇用になる保証はあるのでしょうか? モンローやレイビル、デリー、ホリーリッジの人々を採用するのか、それとも500人と言うだけで、外から人を連れてくるのでしょうか?」

実際、メタとルイジアナ州当局との間で結ばれた税制優遇措置の協定には、地元雇用の保証は盛り込まれていない。州経済開発局のケビン・リッテンは『WIRED』に対し、州内の全企業が利用可能な別の税制優遇措置──給与支出の6%を還付する「クオリティ・ジョブ・リベート」や、今後導入予定の「ハイ・インパクト・ジョブ・プログラム」──には、地元雇用要件が含まれていると説明した。

地元採用の壁、専門職は州外頼み

非営利団体Good Jobs Firstでデータセンター向けの税優遇を調査しているリサーチアナリストのカシア・タルチンスカによると、多くのデータセンターは技術職について州外から専門人材を雇用しているという。サーバー管理を担う高技能・低技能の技術者に加え、警備員やメンテナンス要員などを合わせて雇用し、建設期間中には、サーバー設置を担う専門の電気技師が州から州へと移動するケースが多いと説明している。

こうした事情から、タルチンスカはメタに限らず、ほかのテック企業もデータセンター契約の交渉において地元雇用を保証することに慎重だと指摘する。「一部の職種では、地域社会の人々が備えていないスキルを必要とすることを、彼らは理解しているのです」とタルチンスカは語る。

メタの広報担当者トレイシー・クレイトンは、『WIRED』の取材に対し、「労働力をできる限り地元で調達し、地域社会に直接的な貢献をする努力を続けています」とコメントした。

さらにクレイトンは、パートタイムの建設職については契約業者が「地元人材の採用に取り組んでおり」、来年初めには情報フェアを開催する予定だと語った。また恒常的なデータセンターの職種としては、「技術オペレーターや電気技師、空調・暖房スペシャリスト、物流スタッフ、警備員など」を採用する計画を明らかにした。

税優遇と引き換えの厳しい雇用条件

ルイジアナ州とメタが結んだ協定では、同社がリースする公共用地が通常の課税対象外となることが明記されている。そのうえで、同社が「代替納付金(PILOT)」を支払う選択肢が設けられている。これは地方政府が条件付きで税優遇を提供する際によく使われる仕組みだ。今回の協定では、メタに対し売上税と固定資産税の双方で免除措置が認められている。

固定資産税の免除を最も低い水準で受けるには、メタは州内に50億ドルを投資し、フルタイム換算で300人の雇用を創出する必要がある。この場合、課税評価額の40%を支払うことになる。一方、32年12月までに少なくとも100億ドルを投資すれば、最大水準の免除が適用され、固定資産税は課税評価額の20%にとどまる。

協定には雇用達成のタイムラインも盛り込まれており、メタが税優遇を得るには段階的な雇用条件を満たす必要がある。最高水準の固定資産税免除を受けるには、30年までにフルタイム換算で300人、32年までに450人、33年までに475人、そして34年12月末までに500人を雇用しなければならない。

このルイジアナ州の協定は、他州の税優遇措置と比べても厳しい。Good Jobs Firstによると、全米のデータセンター向け税優遇のほぼ半数には、新規雇用の要件が存在しないという。

全米で広がる税優遇

一方で、ミラーは「大企業であるメタを誘致するのに、そもそも税優遇は不要だったのではないか」と懸念を示す。「誰もが税金を避けたいものですが、優遇措置があるからといって、リッチランド郡で人を雇うわけではありません」

ルイジアナ州はすでに24年、メタ誘致を狙って税制優遇措置を改正し、データセンター向けの免除を新設した。最新版の制度では、29年7月1日までにフルタイム換算で50人を雇用し、少なくとも2億ドルを投資すれば、州内での設備購入にかかる売上税が全額免除されると規定している。『WIRED』が確認した別の契約書には、この措置がリッチランド郡のデータセンターにもPILOT協定と併用されることが明記されていた。

Good Jobs Firstによると、少なくとも10州が1件あたり1億ドル超のデータセンター向け補助を提供しており、その結果、各州で少なくとも1億ドル規模の税収損失が生じていると推定されている。合計すれば年間30億ドル以上の税収をデータセンターのために放棄している計算になる。

テキサス州では25年、データセンター補助金の見積もりを1億3,000万ドルから10億ドルへと修正。ジョージア州では24年に補助金の一時停止法案が可決されたものの、ブライアン・ケンプ知事が拒否権を行使した。

形式は賃貸、実態は購入契約

メタのデータセンター建設地となるリッチランド郡ホリーリッジのフランクリン・ファーム跡地は、もともとルイジアナ州が経済開発プロジェクトのために取得した土地だ。州はメタとの定期借地契約で、この1,400エーカー(約5.7平方キロメートル)の区画を1,200万ドルで貸与する。これは契約書によると、州が土地を取得・維持するのに要したコストに相当するという。

さらに、メタが年間73万2,000ドルを「賃料」として支払うことも定められているが、契約上これは「基本購入価格への充当」とされている。つまり、30年契約のうち16年余りが経過するころには、メタは土地を事実上取得できることになる。

ただし、将来的な土地売却価格は、メタが最低限の投資や雇用条件を満たさなければ高くなる。契約書の例では、州内での投資額が50億ドルではなく40億ドルにとどまった場合、最終的な土地価格は1,900万ドルに跳ね上がるとされている。また、ルイジアナ州経済開発局は、28年までに37億5,000万ドル以上を投資し、「フルタイム」換算で225人を雇用しなければ、土地を取り戻す権利を留保している。

メタによる今後の土地購入について問われると、クレイトンは「この用地に関する将来計画については、追ってお知らせします」と答えるにとどまった。

だがメタの進出はすでに地価を押し上げている。ホリーリッジ近郊の4,000エーカーの土地は1億6,000万ドルで売りに出されており、1エーカーあたり4万ドルとなる。これは、ルイジアナ州がデータセンター用地に支払った価格の4.5倍以上にあたる。

計画頓挫の可能性

ただし、メタがデータセンター計画を遅らせたり、中止したりする可能性への不安も残る。州とのPILOT契約には、同社のスケジュールが「市場動向や需要、競争、建設に必要な熟練労働者の確保、天候条件といった、借主の管理を超えた要因」に左右されると明記されている。

「データセンターが乱立しすぎているのではないか」とミラーは懸念を示す。「その結果、いずれは所有者に放棄される施設も出てくるでしょう」

もしビッグテック各社がデータセンター投資を引き揚げれば、メタといえども買い手を見つけられなくなる可能性があるとミラーは指摘する。「結果的に、州はコンピューターで埋め尽くされた倉庫を抱えることになりかねません」

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

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