中国、インド、日本などのアジア諸国が宇宙経済への進出を目指す中、新たに韓国も宇宙開発競争への参入を目指している。20年以内に独自の月面基地を築くという野心的な計画を掲げ、地球圏を超えた存在感の確立を視野に入れている。
7月17日に韓国国立研究財団で行われた公開会議にて、韓国航空宇宙庁(KASA)はロードマップを発表し、「低軌道および微小重力環境の探査、月面探査、太陽・宇宙科学ミッションを含む5つの中核ミッション」を掲げたと『The Korea Times』は報じている。
韓国、月への道筋を描く
KASAは以前から2032年までに月面にロボット着陸機を送り込む計画を立てていたが、新たなマスタープランはそれよりはるかに野心的だ。2040年までに新型の月面着陸機を開発し、2045年には月面経済基地の建設を目指している。
韓国は月面探査の分野でゼロからスタートするわけではない。2022年半ば、韓国は初の月探査機「タヌリ(Danuri)」をSpaceXのファルコン9ロケットで打ち上げた。タヌリはその年の後半に月周回軌道に到達し、現在も運用中で、搭載された観測機器で月の資源を調査している。さらに、KASAが将来のミッションで使用する宇宙技術の試験も目的としている。
このミッションは「韓国月探査計画」の第1フェーズにあたる。第2フェーズでは、2032年に前述のロボット着陸機に加え、新たな月周回機と20キログラムのローバーを打ち上げる予定。この際、SpaceXのロケットやアメリカ国内の発射台には依存せず、現在開発中のKSLV-IIIロケットを用いて、韓国南部にある羅老(ナロ)宇宙センターから打ち上げる計画となっている。
韓国地質資源研究院は、今後の宇宙資源採掘に向けた技術評価の一環として、廃坑となった炭鉱に試作型の月面ローバーを投入し、準備を支援している。
韓国版NASA、KASAが始動
KASAは2024年5月、韓国政府によってNASAの国内版として新たに創設された宇宙機関だ。1989年の設立以来、韓国の航空宇宙技術の開発を担ってきた韓国航空宇宙研究院(KARI)は現在、このKASAの傘下にある。また、国家宇宙研究機関である韓国天文研究院も同様にKASAの配下となっている。新たな特別機関と民間セクターの支援を得て、韓国は宇宙探査分野において世界のトップ5入りを目指している。
KASAは2045年までに火星への着陸モジュールを送り込む計画も見込んでおり、宇宙の安全保障を強化するために、太陽活動を監視する探査機の開発も進めている。これには2035年までに、太陽と地球の重力がつり合うことで物体が安定して存在できる位置(地球の公転軌道上で地球の60度前方にある「L4ラグランジュ点」)に、太陽観測衛星を配置する構想も含まれている。
もちろん、今世紀半ばまでに月面基地の建設や宇宙経済インフラの整備を目指しているのは韓国だけではない。NASAは「アルテミス計画」を通じて、今後10年以内に月面基地の設立を目指しており、政治的な対立がなければそれが実現する可能性もある。
中国もロシアなどの国々と協力し、2045年までに月面基地を建設する目標を掲げている。またインドも、2047年までに月面基地を設立することを目標とした構想を打ち出している。
(Originally published on wired.es, translated by Miranda Remington, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』による宇宙に関する記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版 VOL.56
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