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保護者対応はどこまでするべき? 改正法が問う「先生の専門性」とは 【学校をひらく 真下麻里子さん①】

教育話題

保護者対応はどこまでするべき? 改正法が問う「先生の専門性」とは 【学校をひらく 真下麻里子さん①】

【紙面では読めないフルバージョン配信中】 学校が地域や社会に開かれた存在となり、多様な人とつながることによって、どんな変化が起こるのでしょうか。 朝日新聞教育面で連載中の「学校をひらく」は、キーパーソンにじっくりと語ってもらうシリーズ企画です。先生コネクトでは、紙面では読めないフルバージョンを独占配信します。今回は、教員免許を持つ弁護士の真下麻里子さん 。NPO法人「ストップいじめ!ナビ」の理事を務め、全国の学校でいじめ予防の授業を続けています。4回連載の1回目です。

「教員の専門性の尊重」 重要だが……

  2025 6月に成立した改正教員給与特別措置法に基づき、教員の働き方改革を促す指針が同年 9月に改正されました。保護者からの不当要求への対応を「学校以外が担うべき業務」に位置付けるなど、教員の業務を削減する流れは今後加速するでしょう。教員の労働環境が改善されれば、その利益は子どもたちに還元されますから、この流れ自体は歓迎できるものです。

 ただ、単純に業務を削れば、それだけで直ちに仕事の質が高まり、教育者としての使命を果たせた実感が持てるわけではないでしょう。私は弁護士として教育現場に関わっていますが、〝教員の専門性の尊重〟が重要だと感じます。

 例えば、現場でしばしば見られるのが次のような場面です。

1つの相談の中に、要望が 6件も

 生徒 Aが「陰口や仲間はずれがつらい」と訴え、担任らが確認し、おおむね事実と判断。保護者に連絡すると、生徒 Aの保護者 Bは「 Aが安心できる環境を整えてほしい」と訴える。保護者 Cは「子どものケンカなのに、我が子( D)を悪者扱いするのはおかしい」と謝罪や指導を拒む。

 生徒 D本人は「謝りたいが、親( C F)に止められている」と担任に打ち明ける。そのうち生徒 Aが登校をしぶり始め、保護者らの不安が増し、保護者 Eが「なぜ Dらを厳しく罰しないのか」と学校に迫る。生徒 Dのもう一方の保護者 Fは「これ以上 Dを加害者呼ばわりするなら弁護士を立てる」と来校する。

  1件の相談に、異なる当事者からの要望が 6件集まっています。仲間はずれをした他の生徒・保護者らのものを加えれば、その数は簡単に数倍になります。全ての要望を満たした形での〝解決〟は、ほぼ不可能です。しかし、これを可能とすべく日々奮闘しているのが現在の教育現場です。

 「学校の先生の仕事って何だろう?」という問いがおのずとわいてきませんか?

先生がまず行うべきことは

 先に結論を述べると、このケースにおける先生の主な職責は、

「児童生徒の尊厳の保持」(いじめ防止対策推進法 1条)です。つまり、仲間はずれにされ、つらい思いをしている生徒 Aへの支援と、生徒 Dら仲間はずれを行った生徒たちへの指導などです。

 ここでいう支援は、まずは生徒 Aの安心・安全の確保です。また、生徒 Dらへの指導は、その場限りの謝罪をさせたり、厳しく罰したりすれば済むわけではありません。自分の行いが何を傷つけたのか、どうすればよかったのか、今後そのような行いをしないためにはどうすればよいのかなどを、適切な方法で検討させる必要があります。

 こうした取り組みは、生徒 Dらに「個人の尊厳(尊重)」を学ばせることにつながります。それは、まさに教育基本法 1条が掲げる〝平和で民主的な社会の形成者〟を育てる教育そのものです。

 つまり、そうした支援や指導などにこそ、教員の専門性が発揮されなければなりません。教員自身も、意識的にその習得のために研鑽を積む必要があります。

 しかし、そのような時間が十分に取れないのが実情です。先の例であれば、生徒 2人と向き合う時間よりも、保護者 4人の対応に多くの時間を割くことになるでしょう。そうしないと、〝解決〟に至らないからです。

保護者は「消費者」ではなく「協力者」に

 なお、いじめ防止対策推進法は、学校に「組織的な対応」を求めています。いじめに関する情報を一人で抱え込まず、校内の常設のいじめ対策組織(いじめ防止等の対策組織)に共有し、協力して対応することが大切です。担任だけでなく、複数の視点で子どもの状況を把握し、支援と指導などを行うことが、子どもの安心・安全につながります。

 そのためにも保護者には、〝消費者〟ではなく、〝協力者〟となってもらう必要があります。各立場に応じた丁寧な説明が肝要です。

 例えば、被害を訴えた側の保護者には、まず、何よりも子どもの安心・安全の確保が最優先であることを理解してもらうことが大切です。有事の際、大人側の不安や処罰感情が子どもの利益よりも優先されてはなりません。こうした点は、できる限り平時から全保護者に伝えておきたい内容です。

 早期終結よりも、丁寧な説明が大切

 また、教育では責任追及よりも「内省に向かわせること」が重要であり、そのためには時間を要することも丁寧に伝える必要があります。形式的な謝罪による早期の終結は、結果的に双方の利益にならないからです。

 他方、行為をした側の子どもや保護者には、内省を促すのは子どもを成長させるためであり、処罰そのものや〝加害者〟のレッテルを貼ることが目的ではないこと、内省を経ることで子どもが良い人間関係を築く力を身に付けられることなどを伝えるのが大切です。

 教員が法の枠組みを理解し、チームとして支え合いながら、子ども・保護者の双方に対して誠実に説明を重ねていくことは、現場を守り、子どもの尊厳を守るための実践的な専門性といえるでしょう。

 保護者や教員を含め、教育に関わる全ての大人は、子どもたちの未来のために、教育現場を〝教育活動に専念できる場〟にしていかなければなりません。私たち大人に何が求められるのか、次回以降検討していきます。

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保護者対応はどこまでするべき? 改正法が問う「先生の専門性」とは 【学校をひらく 真下麻里子さん①】

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【紙面では読めないフルバージョン配信中】 学校が地域や社会に開かれた存在となり、多様な人とつながることによって、どんな変化が起こるのでしょうか。 朝日新聞教育面で連載中の「学校をひらく」は、キーパーソンにじっくりと語ってもらうシリーズ企画です。先生コネクトでは、紙面では読めないフルバージョンを独占配信します。今回は、教員免許を持つ弁護士の真下麻里子さん 。NPO法人「ストップいじめ!ナビ」の理事を務め、全国の学校でいじめ予防の授業を続けています。4回連載の1回目です。

「教員の専門性の尊重」 重要だが……

  2025 6月に成立した改正教員給与特別措置法に基づき、教員の働き方改革を促す指針が同年 9月に改正されました。保護者からの不当要求への対応を「学校以外が担うべき業務」に位置付けるなど、教員の業務を削減する流れは今後加速するでしょう。教員の労働環境が改善されれば、その利益は子どもたちに還元されますから、この流れ自体は歓迎できるものです。

 ただ、単純に業務を削れば、それだけで直ちに仕事の質が高まり、教育者としての使命を果たせた実感が持てるわけではないでしょう。私は弁護士として教育現場に関わっていますが、〝教員の専門性の尊重〟が重要だと感じます。

 例えば、現場でしばしば見られるのが次のような場面です。

1つの相談の中に、要望が 6件も

 生徒 Aが「陰口や仲間はずれがつらい」と訴え、担任らが確認し、おおむね事実と判断。保護者に連絡すると、生徒 Aの保護者 Bは「 Aが安心できる環境を整えてほしい」と訴える。保護者 Cは「子どものケンカなのに、我が子( D)を悪者扱いするのはおかしい」と謝罪や指導を拒む。

 生徒 D本人は「謝りたいが、親( C F)に止められている」と担任に打ち明ける。そのうち生徒 Aが登校をしぶり始め、保護者らの不安が増し、保護者 Eが「なぜ Dらを厳しく罰しないのか」と学校に迫る。生徒 Dのもう一方の保護者 Fは「これ以上 Dを加害者呼ばわりするなら弁護士を立てる」と来校する。

  1件の相談に、異なる当事者からの要望が 6件集まっています。仲間はずれをした他の生徒・保護者らのものを加えれば、その数は簡単に数倍になります。全ての要望を満たした形での〝解決〟は、ほぼ不可能です。しかし、これを可能とすべく日々奮闘しているのが現在の教育現場です。

 「学校の先生の仕事って何だろう?」という問いがおのずとわいてきませんか?

先生がまず行うべきことは

 先に結論を述べると、このケースにおける先生の主な職責は、

「児童生徒の尊厳の保持」(いじめ防止対策推進法 1条)です。つまり、仲間はずれにされ、つらい思いをしている生徒 Aへの支援と、生徒 Dら仲間はずれを行った生徒たちへの指導などです。

 ここでいう支援は、まずは生徒 Aの安心・安全の確保です。また、生徒 Dらへの指導は、その場限りの謝罪をさせたり、厳しく罰したりすれば済むわけではありません。自分の行いが何を傷つけたのか、どうすればよかったのか、今後そのような行いをしないためにはどうすればよいのかなどを、適切な方法で検討させる必要があります。

 こうした取り組みは、生徒 Dらに「個人の尊厳(尊重)」を学ばせることにつながります。それは、まさに教育基本法 1条が掲げる〝平和で民主的な社会の形成者〟を育てる教育そのものです。

 つまり、そうした支援や指導などにこそ、教員の専門性が発揮されなければなりません。教員自身も、意識的にその習得のために研鑽を積む必要があります。

 しかし、そのような時間が十分に取れないのが実情です。先の例であれば、生徒 2人と向き合う時間よりも、保護者 4人の対応に多くの時間を割くことになるでしょう。そうしないと、〝解決〟に至らないからです。

保護者は「消費者」ではなく「協力者」に

 なお、いじめ防止対策推進法は、学校に「組織的な対応」を求めています。いじめに関する情報を一人で抱え込まず、校内の常設のいじめ対策組織(いじめ防止等の対策組織)に共有し、協力して対応することが大切です。担任だけでなく、複数の視点で子どもの状況を把握し、支援と指導などを行うことが、子どもの安心・安全につながります。

 そのためにも保護者には、〝消費者〟ではなく、〝協力者〟となってもらう必要があります。各立場に応じた丁寧な説明が肝要です。

 例えば、被害を訴えた側の保護者には、まず、何よりも子どもの安心・安全の確保が最優先であることを理解してもらうことが大切です。有事の際、大人側の不安や処罰感情が子どもの利益よりも優先されてはなりません。こうした点は、できる限り平時から全保護者に伝えておきたい内容です。

 早期終結よりも、丁寧な説明が大切

 また、教育では責任追及よりも「内省に向かわせること」が重要であり、そのためには時間を要することも丁寧に伝える必要があります。形式的な謝罪による早期の終結は、結果的に双方の利益にならないからです。

 他方、行為をした側の子どもや保護者には、内省を促すのは子どもを成長させるためであり、処罰そのものや〝加害者〟のレッテルを貼ることが目的ではないこと、内省を経ることで子どもが良い人間関係を築く力を身に付けられることなどを伝えるのが大切です。

 教員が法の枠組みを理解し、チームとして支え合いながら、子ども・保護者の双方に対して誠実に説明を重ねていくことは、現場を守り、子どもの尊厳を守るための実践的な専門性といえるでしょう。

 保護者や教員を含め、教育に関わる全ての大人は、子どもたちの未来のために、教育現場を〝教育活動に専念できる場〟にしていかなければなりません。私たち大人に何が求められるのか、次回以降検討していきます。

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