「御門」の顔を決定づけた高畑勲監督のアドバイスとは?
物語後半に登場する重要キャラである御門(みかど)。デジタル大辞泉によると、これは天皇の尊称に当たります。
かぐや姫が貴族5人のプロポーズを拒んだことを受けて、御門は姫が自分の元に来たがっていると考えて、宮廷に出仕するよう命じます。姫が出仕を断ったため、自らお忍びで翁の屋敷を訪れて、姫を連れ去ろうとするシーンもあります。
この御門の造形ですが、端正な顔立ちの一方、極めて長くてとんがったアゴが特徴的です。作品内で描かれた世界での最高権力者とも言える人物を、なぜこのような造形にしたのでしょうか?
そのヒントが、美術資料集『THE ART OFかぐや姫の物語』(徳間書店)に書かれていました。この映画の人物造形・作画設計を手掛けた田辺修さんが、各キャラクターのデザインについてコメントしているコーナーがあります。
その中で「御門」のキャラ設定については以下のように振り返っていました。
「最もきれいな顔にしたくて、一時は石作皇子(いしつくりのみこ)として描いたキャラを御門にしようかとも考えたのですが、悩んでいたところ、高畑さんが『美男だけどーヶ所バランスを崩してみたらどうか。たとえばアゴとか』と言われ、このように決まりました」
なんと高畑監督からのアドバイスで「美男だけどーヶ所バランスを崩す」というのが狙いだったようです。田辺さんはその上で以下のように続けています。
「声を担当された中村七之助さんが、若々しい声でもありましたので、より高貴で清潔感がある造形になりました」
アゴだけバランスを崩したほかは、声に合わせて高貴な造形にしたとのことでした。
高畑監督が多大な影響を受けた「天皇の肖像画」とは?
実は高畑監督が「御門」の造形を考える上で参考にしたかもしれない絵があります。
それが鎌倉時代末期から室町時代にかけて生きた花園天皇(はなぞのてんのう)を、当時の画家・藤原豪信(ふじわらのごうしん)が描いた肖像画です。すでに出家した42歳の姿を描いたものですが、おでこが広く、目尻が下がった、どこかとぼけた表情をしています。かつて天皇だった人物は、威厳とは無縁な描線で描かれています。
高畑監督はこの国宝指定された「花園天皇像」を学生時代にみて大きなショックを受けて、「線や人物でものを捉えようとすることの意味」を考えるきっかけになったそうです。著書『一枚の絵から 日本編』(岩波書店)の中で、この絵について以下のように語っています。
「はっきり言おう。この絵をはじめて見た人の多くは、この顔にあまり高い知性を感じない。むしろ、変わった面白い顔だな、と思う。では戯画に見えるのか。そうは見えない。絵自体に真面目さ、 あえて言えば品格があるから。天皇像と知ればなおさらである。誰も、画家が天皇を戯画化しようとしたのだとは思わない」
「この絵の左には紙が足してあって、『予の陋質(ろうしつ)を法印豪信図く所也』云々と花園天皇自身が『極め書き』をしているのだ。『おれの醜い特質(ぱっとしない顔立ち)を法印豪信が描いたものだ』ほどの意味だろうか」
「『あらぬさまに』誇張したわけではなく、豪信はあくまでも『真を画かんと』して『あからさまに』描き、こういう絵になった。しかもそれを、描かれた本人は怒るどころか、むしろ快く受け入れている。おそらくこの天皇は自分の顔貌を美男だとも賢そうだとも思っていなくて、しかし、虚栄心や権威主義からは自由な人だったのだろう、この絵をカリカチュアだとは決して思わず、自分によく似ている、自分をよく捉えている、と認めた。それを知ると花園天皇が好きになる」



