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【千と千尋の神隠し】ソープランドが舞台という説は本当? 宮崎駿監督らジブリスタッフの証言を調べてみた

スタジオジブリの大人気作品で噂される「裏設定」を詳しく検証してみました。

『千と千尋の神隠し』の1シーン(スタジオジブリ公式サイトより)

宮﨑駿監督のアカデミー賞受賞作『千と千尋の神隠し』が日テレ系の金曜ロードショーで1月2日午後9時から地上波放送されます。
  
老若男女を問わずに人気を集め、数あるスタジオジブリ作品の中でもトップの316億円の興業収入を誇ります。2001年の公開時には『タイタニック』を抜いて、日本で上映された映画の中でも歴代トップに躍り出ていました(現在は3位)。
  
そんな大人気作品で噂される「裏設定」について検証してみました。

千尋が働く「湯屋」が現代のソープランドをモチーフという説を映画評論家が提唱していた

10歳の少女である千尋(ちひろ)が不思議な世界に迷い込み、神々が客として集まる湯屋(公衆浴場)で千(せん)という名前で働くストーリーです。
  
千尋が働く湯屋は「油屋」という名前の奇抜な建物なのですが、現代日本の性風俗店の一種「ソープランド」をモチーフにしているという説があります。

映画評論家の柳下毅一郎は、2002年の対談本『ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判』(洋泉社)の中で以下のように指摘しています。
  
「千尋のことを湯婆婆が『今日からお前は千だ!』ていうのも源氏名でしょ。だから、どこをどう見ても10歳の少女をソープランドで働かせる話なんですよ」(柳下さん)

『千と千尋の神隠し』の部隊となる湯屋「油屋」(スタジオジブリ公式サイトより)

宮﨑駿監督自身の発言は?複数あるも「匂わせ」程度だった

これだけなら、あくまで推測と片づけることもできそうです。しかし、この本の中で柳下さんは証拠として、映画雑誌のインタビューでの宮﨑監督の発言を挙げました。『PREMIERE』2001年9月号(アシェット婦人画報社)に掲載されたものです。

ここでは千尋と両親が迷い込む不思議な街について、宮﨑監督が以下のように解説していました。
 
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「僕が子供のころには、新宿にだって文字通り赤いランタンがともっているような街がありましたからね。意図的にそういうものをというより、ちょっと古くて、いつの間にかみんな忘れてしまっている盛り場を描いているんです」

「もともと日本は、性に対してあっけらかんとしたものでしたから。ヨーロッパ人から、なんて貞操観念がないんだと呆れられて性道徳を押しつけられるまではね」

「柳田國男の民俗学も触れなかった部分です。若衆宿も性的なものであってね。何もそれを復活しようと言ってるわけじゃないんですが、いまの世界として描くには何がいちばんふさわしいかといえば、それは風俗営業だと思うんですよ」

「日本はすべて風俗営業みたいな社会になっているじゃないですか。いま女性たちは売春靴に似合いそうな人がものすごく増えてる国なんじゃないかと思いますね」
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宮﨑監督は明言は避けつつも、赤いランタンが灯る風俗営業の世界をモチーフに「不思議な街」を描いてると述べていました。

宮崎監督の発言はこれだけではありません。『ロマンアルバム 千と千尋の神隠し』(徳間書店)に掲載されたインタビューの中でも風俗営業を匂わせる趣旨の発言をしています。
 
「湯屋には大浴場がありませんでしたが、その理由は?」と聞かれて「そりゃあ、色々いかがわしいことをするからでしょうね(笑)」と答えていました。

千尋が迷い込んだ不思議な街。赤いランタンが灯っている(スタジオジブリ公式サイトより)

宮﨑駿監督が作画スタッフに「ソープランド」と解説。演出助手の証言とは?

これらの宮﨑監督の発言は、いずれも千尋が働く湯屋がソープランドであると明言しているわけではなく「匂わせ」程度に留まっています。
 
しかし、宮﨑監督に近い複数の関係者からは「湯屋はソープランドである」という証言が出ています。その一人は、当時スタジオジブリで『千と千尋の神隠し』の演出助手を担当したアニメーターの宮地昌幸さんです。
 
2001年発行の別冊コミックボックス『千と千尋の神隠し』千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)。このムックに宮地さんの制作日誌が掲載されています。制作が佳境に入った「2000年3月頃」の欄に以下の記述が見つかりました。
 
「作画打ち合わせの時の事。原画さんに手っ取り早く物語のあらすじを解説する宮崎さんが、『この映画は要するに、 ソープランドに勤める娘の話ですね(笑)』と言っていたのを思い出す。ならば『千』は源氏名になるのか。僕は爆笑しながら感心しきりだった」
 
宮﨑監督自身が「ソープランドに勤める娘の話」と原画スタッフに伝えていたという内容。上映直後に発行された関連書籍の内容ということを考えると、信頼のおける証言と考えられます。

別冊コミックボックス『千と千尋の神隠し』千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)

鈴木敏夫プロデューサーも「宮さんの中では、ソープランドなんでしょう」と明かしていた

そして、宮﨑監督の右腕として知られるスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫さんもラジオ番組の中で、宮﨑駿監督がソープランドを念頭に湯屋を描いていたという趣旨の証言をしています。
 
映画監督の大根仁さんとの2013年の対談を収録した『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ 4』(復刊ドットコム)の文字起こしから引きましょう。
 
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鈴木さん「 いやもう、これ、ほんとに大した話じゃなくてね。ぼくの知り合いに某書店の偉い人がいて、 こいつがほんとにキャバクラが大好きで。『お前、何でそんなところばっかり行くの?』って言ったら、 キャバクラの女の子って、もともと、コミュニケーションがそんなに上手じゃないんだと。でも、そういう子に限って、そういうところで働きたがる。ところが、要求される仕事内容は、コミュニケーションをとることでしょ。そうすると、やってるうちに元気になっちゃう――っていう話を聞いて、そのまま宮さんに、雑談として話したんですよ。そしたら、そこから『千と千尋』の発想が生まれちゃった」
 
大根さん「あははは(笑)」
 
鈴木さん「だから、あの映画に出てくる湯屋って、あれ、ようするに風俗のつもりなんですよ、宮さんにとっては」
 
大根さん「そうですね。キャバクラにも見えるし、まあ、ソープランドという解釈すらできますよね」
 
鈴木「そうですよ。宮さんの中では、ソープランドなんでしょう。なかなかそういうところへ恥ずかしくて行けない人だから、想像でね(笑)。でも、神様を接待するっていうのは、言いかたは品がいいけど、何をやってるかといったら、そういうことですものね」
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キャバクラ勤務でコミュニケーションが上手くなった女性のエピソードから『千と千尋の神隠し』の発想が生まれたという言葉にもビックリですが、ジブリ幹部から「風俗」「ソープランド」という裏設定が明かされたのにも驚きますね。映画公開からこの時点で10年以上たっているため、思い切って打ち明けたのか、それともポロっと漏らしてしまったのでしょうか。

『千と千尋の神隠し』の1シーン(スタジオジブリ公式サイトより)

宮﨑駿監督が「裏設定」を明言しなかった理由は?

国会図書館で無数の資料を閲覧していって分かった事実は上記のようなものでした。結論としては「湯屋=ソープランド」説の信憑性は高そうです。
  
宮﨑監督自身がそれを匂わせるような発言をしているほか、当時のスタジオジブリの演出助手や、現在はスタジオジブリ代表を務める鈴木敏夫プロデューサーからもそれを裏付ける証言が見つかりました。
 
ただ、公式設定として表立って語られることはなかった理由もなんとなく分かってきました。宮崎監督自身が公式には『千と千尋の神隠し』は10歳くらいの少女たちに向けた映画と訴えていたからです。
 
2001年に発行された「キネ旬ムック『千と千尋の神隠し』を見る40の目」(キネマ旬報社)を見てみましょう。このムックには、同年3月に東京たてもの園(東京都小金井市)で実施された製作報告会での宮﨑監督の発言が「10歳のガールフレンドたちに向けた映画」の見出しと共に以下のように掲載されていました。
 
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「僕には、毎年夏に僕の山小屋で一緒に過ごす10歳くらいのガールフレンドが5人ほどいます。その子たちが楽しめる映画を作ろうと思ったのが、今回の作品を作ることになったきっかけです」
 
「これまで、僕らは『となりのトトロ』のような幼児のためのものとか、少年が旅に出かけていく『天空の城ラピュタ』、思春期の子が自分を抱えて生きていく『魔女の宅急便』といった作品を作ってきました。でも 10歳くらいの、思春期前期の女の子たちに向けたものはまだ作っていませんでした」
 
「それでガールフレンドたちが僕の山小屋に置いていった『なかよし』や『りぼん』といった少女マンガを読んだりもしました。しかしそこには恋だの愛だのといったことしか描かれていない。その時、この国は恋だの愛だのしか彼女たちに供給していないと感じたんです」
 
「でも実際、僕のガールフレンドを見ていると、彼女たちが心の中で抱えているものや、願っていることはそういうことではないんじゃないかと思ったんです。だったら彼女たちが主役になる物語ができないか、そう思いました」
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ちなみにここで言うガールフレンドとは、『PREMIERE』2001年9月号に掲載された鈴木さんの発言によると、鈴木さんを初めとする宮﨑監督の友人の娘達のことだそうです。実際にその子たちが千尋のモデルになったとしています。
 
「10歳の少女たちのための映画」という公式見解と、「風俗営業で働く少女を描く」という矛盾した裏設定。そもそも風俗営業を描いた映画であることを明示していたら、親が子供に安心して見せる映画にはならず、大ヒットにも繋がらなかったかもしれません。
 
『千と千尋の神隠し』をめぐって、宮﨑監督が表立ってはソープランドの裏設定を明かさなかったことには、そんな事情があったのかもしれません。

油屋から旅立つ千尋の姿(スタジオジブリ公式サイトより)