⚠️
このページは 新デザイン に変更中です。表示や操作が旧ページと異なる場合があります。
いまにも水に溶けてしまいそうな淡い紅色がほんのりと水面に浮かぶ
金魚は、とても優雅に、とても楽しげにガラス鉢を泳いでいた。夏の光が水の中に揺れていた。
関連カテ金魚
初夏の陽光は《…略…》金魚の硝子箱を横から照らして、底の玉石と共に水を虫入り水晶のように凝らしている。
(遠くを泳いで)飛行機の翼燈のようにちいさくなった金魚
二匹の金魚はいくつかのひれを微妙に動かしながら、ガラスで作られた池の中を涼しげに行き来していた。夏の光がその鉢の中で不思議な屈折を見せ、神秘に満ちた深海の一部をのぞき込んでいるような錯覚を起こさせた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon関連カテ金魚
人間に一ばん自由に美しい生きものが造れるのは金魚
......があなたなら嬉んで金魚屋さんになりますわ」 真佐子は漂渺とした、それが彼女の最も真面目なときの表情でもある顔付をして復一を見た。 「生意気なこと云うようだけれど、人間に一ばん自由に美しい生きものが造れるのは金魚じゃなくて」 復一は不思議な感じがした。今までこの女に精神的のものとして感じられたものは、ただ大様で贅沢な家庭に育った品格的のものだけだと思っていたのに、この娘......
超現実に美しく魅惑的な金魚
......たゆたい、体色は塗り立てのような鮮かな五彩を粧い、別けて必要なのは西班牙の舞妓のボエールのような斑黒点がコケティッシュな間隔で振り撒かれなければならなかった。 超現実に美しく魅惑的な金魚は、G氏が頭の中に描くところの夢の魚ではなかった。交媒を重ねるにつれ、だんだん現実性を備えて来た。しかし、そのうちG氏の頭の方が早くも夢幻化して行った。彼は財力......
小さいかっぱ虫に鈍くも腹に穴を開けられて、青みどろの水の中を勝手に引っぱられて行く、脆いだらしのない赤い小布の散らばったものを金魚だと思っていた。
......に見るようになった。復一は「はてな」と思った。彼は子供のときから青年期まで金魚屋に育って、金魚は朝、昼、晩、見飽きるほど見たのだが、蛍の屑ほどにも思わなかった。小さいかっぱ虫に鈍くも腹に穴を開けられて、青みどろの水の中を勝手に引っぱられて行く、脆いだらしのない赤い小布の散らばったものを金魚だと思っていた。七つ八つの小池に、ほとんどうっちゃり飼いにされながら、毎年、池の面が散り紅葉で盛り上るように殖えて、種の系続を努めながら、剰った魚でたいして生活力がありそうもな......
金魚よりむしろ闘魚に似て活溌だった。
......、ワシントン水産局の池で発生してむこうの学者が苦心の結果、型を固定させたという由緒付の米国生れの金魚、コメット・ゴールドフィッシュさえ備えられてあった。この魚は金魚よりむしろ闘魚に似て活溌だった。これ等の豊富な標本魚は、みな復一の保管の下に置かれ、毎日昼前に復一がやる餌を待った。 水を更えてやると気持よさそうに、日を透けて着色する長い虹のような脱糞をした......
金魚の鰭だけが嬌艶な黒斑を振り乱して宙に舞った
......絞り縮めて来た。 復一は半醒半睡の朦朧状態で、仰向けに寝ていた。朦朧とした写真の乾板色の意識の板面に、真佐子の白い顔が大きく煙る眼だけをつけてぽっかり現れたり、金魚の鰭だけが嬌艶な黒斑を振り乱して宙に舞ったり、秀江の肉体の一部が嗜味をそそる食品のように、なまなましく見えたりした。これ等は互い違いに執拗く明滅を繰り返すが、その間にいくつもの意味にならない物の形や、不......
(金魚鉢の)覆いを取ると、眼を開いたまま寝ていた小石の上の金魚中での名品キャリコは電燈の光に、眼を開いたまま眼を醒して、一ところに固っていた二ひきが悠揚と連れになったり、離れたりして遊弋し出す。身長身幅より三四倍もある尾鰭は黒いまだらの星のある薄絹の領布や裳を振り撒き拡げて、しばらくは身体も頭も見えない。やがてその中から小肥りの仏蘭西美人のような、天平の娘子のようにおっとりして雄大な、丸い銅と蛾眉を描いてやりたい眼と口とがぽっかりと現れて来る。
......とき、くったりして窓際へ行き、そこに並べてある硝子鉢の一つの覆いに手をかける。指先は冷血していて氷のようなのに、溜った興奮がびりびり指を縺して慄えている。やっと覆いを取ると、眼を開いたまま寝ていた小石の上の金魚中での名品キャリコは電燈の光に、眼を開いたまま眼を醒して、一ところに固っていた二ひきが悠揚と連れになったり、離れたりして遊弋し出す。身長身幅より三四倍もある尾鰭は黒いまだらの星のある薄絹の領布や裳を振り撒き拡げて、しばらくは身体も頭も見えない。やがてその中から小肥りの仏蘭西美人のような、天平の娘子のようにおっとりして雄大な、丸い銅と蛾眉を描いてやりたい眼と口とがぽっかりと現れて来る。 二三年前、O市に水産共進会があって、その際、金牌を獲ち得たこの金魚の名品が試験所に寄附されて、大事に育てられているのだ。すでに七八歳になっているので、ちょっと......
人が金魚を作って行くのではなく、金魚自身の目的が、人間の美に牽かれる一番弱い本能を誘惑し利用して、着々、目的のコースを進めつつあるように考えられる。
......しかし、金魚は、この喰べられもしない観賞魚は、幾分の変遷を、たった一つのか弱い美の力で切り抜けながら、どうなりこうなり自己完成の目的に近づいて来た。これを想うに人が金魚を作って行くのではなく、金魚自身の目的が、人間の美に牽かれる一番弱い本能を誘惑し利用して、着々、目的のコースを進めつつあるように考えられる。逞ましい金魚――そう気づくと復一は一種の征服慾さえ加っていよいよ金魚に執着して行った。 夏中、視察に歩いて、復一が湖畔の宿へ落付いた半ヶ月目、関東の大震災が報ぜ......
花どきが来て、雄魚たちの胸鰭を中心に交尾期を現す追星が春の宵空のように潤った目を開いた。
......方をでも手に入れて来るのであった。彼の信じて立てた方針では、完成文化魚のキャリコとか秋錦とかにもう一つ異種の交媒の拍車をかけて理想魚を作るつもりだった。 翌年の花どきが来て、雄魚たちの胸鰭を中心に交尾期を現す追星が春の宵空のように潤った目を開いた。すると魚たちの「性」は、己に堪えないような素振りを魚たちにさせる。艦隊のように魚以上の堂々とした隊列で遊弋し、また闘鶏のように互いに瞬間を鋭く啄き合う。身体に燃......
(交尾期の金魚は)闘鶏のように互いに瞬間を鋭く啄き合う。
......を現す追星が春の宵空のように潤った目を開いた。すると魚たちの「性」は、己に堪えないような素振りを魚たちにさせる。艦隊のように魚以上の堂々とした隊列で遊弋し、また闘鶏のように互いに瞬間を鋭く啄き合う。身体に燃えるぬめりを水で扱き取ろうとして異様に翻り、翻り、翻る。意志に礙って肉情はほとんどその方へ融通してしまった木人のような復一はこれを見るとどうやらほんのり......
童女型の稚純を胴にしてそれに絢爛やら媚色やらを加え
......った。 これを二年続けて失敗した復一は、全然出発点から計画を改めて建て直しにかかった。彼は骨組の親魚からして間違っていたことに気付いた。彼の望む美魚はどうしても童女型の稚純を胴にしてそれに絢爛やら媚色やらを加えねばならなかった。そして、これには原種の蘭鋳より仕立て上げる以外に、その感じの胴を持った金魚はない。復一のこころに、真佐子の子供のときの蘭鋳に似た稚純な姿が思い......
差し込む薄日に短い鰭と尾を忙しく動かすと薄墨の肌からあたたかい金爛の光が眼を射て、不恰好なほどにも丸く肥えて愛くるしい魚の胴が遅々として進む。
......を小気味よげに復一に話した。 それを他人事のように聞き流しながら、復一は関西から届いた蘭鋳の番いに冬越しの用意をしてやっていた。菰を厚く巻いてやるプールの中へ、差し込む薄日に短い鰭と尾を忙しく動かすと薄墨の肌からあたたかい金爛の光が眼を射て、不恰好なほどにも丸く肥えて愛くるしい魚の胴が遅々として進む。復一は生ける精分を対象に感じ、死灰の空漠を自分に感じ、何だか自分が二つに分れたもののように想えて面白い気がした。復一は久し振りに声を挙げて笑った。すると宗十郎が......
一度沈みかけてまた水面に浮き出して来た美魚が、その房々とした尾鰭をまた完全に展いて見せると星を宿したようなつぶらな眼も球のような口許も、はっきり復一に真向った。
......なった。 「意識して求める方向に求めるものを得ず、思い捨てて放擲した過去や思わぬ岐路から、突兀として与えられる人生の不思議さ」が、復一の心の底を閃めいて通った時、一度沈みかけてまた水面に浮き出して来た美魚が、その房々とした尾鰭をまた完全に展いて見せると星を宿したようなつぶらな眼も球のような口許も、はっきり復一に真向った。 「ああ、真佐子にも、神魚華鬘之図にも似てない……それよりも……それよりも……もっと美しい金魚だ、金魚だ」 失望か、否、それ以上の喜びか、感極まった復一の体は池の......
西班牙の舞妓のボエールのような斑黒点がコケティッシュな間隔で振り撒かれ
......きと背肉の盛り上りを持ち胸と腹は琉金の豊饒の感じを保っている。 鰭は神女の裳のように胴を包んでたゆたい、体色は塗り立てのような鮮かな五彩を粧い、別けて必要なのは西班牙の舞妓のボエールのような斑黒点がコケティッシュな間隔で振り撒かれなければならなかった。 超現実に美しく魅惑的な金魚は、G氏が頭の中に描くところの夢の魚ではなかった。交媒を重ねるにつれ、だんだん現実性を備えて来た。しかし、その......
窓の色硝子の光線をうけて鉢の金魚は鱗を七彩に閃めかしながら泳いでいる。
......」と言った。 琵琶湖の水が高い河になって流れる下を隧道に掘って通っている道を過ぎて私たちは草津のうばが餅屋に駆け込んだ。硝子戸の中は茶釜をかけた竈の火で暖かく、窓の色硝子の光線をうけて鉢の金魚は鱗を七彩に閃めかしながら泳いでいる。外を覗いてみると比良も比叡も遠く雪雲を冠っている。 「この次は大津、次は京都で、作楽井に言わせると、もう東海道でも上りの憧憬の力が弱まっている宿々だ」 主人は餅を......
岡本かの子 / 東海道五十三次 青空文庫関連カテ金魚