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アメリカ大陸最古の岩絵は4000年以上、メソアメリカ文明の宇宙観に影響を与え続けた

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(著)

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Image credit:Carolyn E. Boyd / K.L. Steelman et al. 2025
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 アメリカとメキシコの国境沿いに広がる荒涼とした渓谷に、途方もない時間をかけて描かれた壮大な記録が眠っていた。

 エジプトのピラミッドが建設される前から、ある一つの厳格なルールを守り続けた巨大な岩絵が見つかったのだ。

 今から5700年以上前、狩猟採集民たちが描き始めたこの記録は、そこから4000年以上もの間途絶えることなく続き、彼らが見上げていた宇宙と世界観を刻んだ「石の図書館」となった。

 彼らはなぜ、これほど長い間、同じ手順で絵を描き続けたのか。最新の科学が解き明かした事実は、後のアステカ文明にもつながる、アメリカ大陸最古の宇宙観がこの地で脈々と受け継がれていたことを証明するものだった。

この研究は『Science Advances』誌(2025年11月26日付)に掲載された。

175世代にわたり描かれた岩絵は「古代の図書館」

 アメリカ・テキサス州立大学のキャロリン・ボイド教授らの研究チームは、ニューメキシコ州からテキサス州を南下し、メキシコ国境のリオグランデ川へと注ぐペコス川の下流域、「ローワー・ペコス・キャニオンランズ」と呼ばれる渓谷地帯の12の遺跡を対象に大規模な調査を行った。

 調査で判明したのは、「ペコス・リバースタイル」と呼ばれる独特な岩絵の様式が、およそ5800年前から5300年前頃に出現し、そこから約1400年前まで続いていたという事実だ。

 その期間は4000年以上に及び、日本でいえば縄文時代の前期から、平安時代頃まで脈々と続いていたことになる。

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アメリカとメキシコの国境沿いの岩絵は4000年以上もの間、描き続けられていた Image credit:Steelman et al., Sci. Adv. 11, eadx7205

 ボイド教授は、この発見に衝撃を受けた一人だ。

 「率直に言って、壁画の制作が4000年以上も続いていたこと、そしてその間ずっと、同じルールに基づいた描画手順が守られ続けていたことに驚きました」と語っている。

 ボイド教授は、この渓谷地帯を「175世代もの異なる時代の人々によって書かれた何百冊もの本を収蔵する古代の図書館」に例えている。

 石灰岩の壁に描かれた物語は、彼らの知識や信仰を記録した書物のような存在だったのだ。

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ペコス川渓谷の巨大壁画の1つ / Image credit:KL Steelman et al. 2025

巨大な壁画に描かれた謎めいた図像

 この地域には200以上の壁画が残されているが、その多くは巨大だ。中には幅が150m、高さが15mにも及ぶものがあり、当時の人々が足場やはしごを使って描いていたことがうかがえる。

 そこには、動物や人間のような姿、そして謎めいたシンボルの数々が描かれている。

 たとえば、ウサギの耳や鹿の角のような頭飾りをつけ、黒い槍投げ器を持ち、赤い投げ矢と杖を手にした人間のような姿も描かれている。

 この槍投げ器はアトラトルと呼ばれ、槍をより遠くへ強く投げるための狩猟道具だ。

 また、植物の種子のさやに似た「聖なる包み」と呼ばれる楕円形の物体も頻繁に描かれている。これらを描いたのは、定住せずに移動生活を送っていた狩猟採集民と考えられる。

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(A) アメリカ・テキサス州ローワー・ペコス地域の遺跡に描かれた人型の岩絵。U字型の頭部やウサギ耳状の頭飾り、アトラトル(投槍器)とダート、手首と肘の装飾、槍や杖、束状の道具、腰まわりの房飾りなど、ペコス・リバースタイルの代表的な特徴がまとめて見られる。(B) 同じ遺跡にある全長67mの壁画のうち39m部分を再現したデジタルイラストで、構図の複雑さがよくわかる。(C) 遺跡の壁を多数の写真から立体的に再現し、ゆがみを補正して作られた正面から見た状態のイメージ”。Image credit:Carolyn E. Boyd / K.L. Steelman et al. 2025

「黒→赤→黄→白」科学が証明した同一の描画ルール

 岩絵の年代を正確に知ることは、考古学において非常に難しい課題の一つだ。しかし今回、研究チームは最先端の技術を駆使してその謎に挑んだ。

 彼らは、壁画に使われた顔料に含まれるわずかな有機物(おそらく鹿の骨髄やユッカなどの植物の汁)を抽出し、加速器質量分析という高精度の方法で年代を測定した。さらに、岩の表面を覆う鉱物の膜の年代も調べることで、二重の裏付けを取った。

 そして、壁画の分析から驚くべき事実が浮かび上がってきた。

 研究チームが500箇所以上の色の重なりを顕微鏡で調べたところ、彼らは常に決まった順序で色を塗っていたことが判明した。

 そのルールとは、「黒、赤、黄、白」の順に塗ること。

 まず黒で下描きや基本を描き、次に赤、黄色と重ね、最後に白で仕上げる。この手順は4000年以上の間、ほとんど例外なく守られ続けていた。

 長い歴史の中では、気候が乾燥したり湿潤になったり、使う石器が変わったりといった変化があったはずだ。

 それにもかかわらず、壁画を描くルールだけは頑なに守られた。これは、彼らにとってこの壁画が単なる装飾ではなく、絶対に崩してはいけない儀式的な意味を持っていたことを示している。

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(A) テキサス州ローワー・ペコス地域の岩陰遺跡の一つでは、翼を持ち束状の道具を携えた人型像が放射性炭素年代測定で約2960年前(校正年代で約3370〜2860年前)と判定され、この遺跡の壁画はおよそ2995〜2800年前に描かれたと推定されている。(B) 別の遺跡では、赤い枝角に黒い点が付いた人型像が約2050年前(校正年代で約2125〜1870年前)と測定され、この壁画はおよそ1990〜1925年前に描かれたと推定されており、研究で確認された中でも新しい時期の「束状の道具」の例の一つである。Carolyn E. Boyd / K.L. Steelman et al. 2025

古代メソアメリカ文明へと続く「宇宙観」

 では、彼らがそこまでして守り抜こうとしたものとは何だったのか。研究者たちは、それが彼らの「宇宙観」だったと考えている。

 それは、世界がどのように生まれ、時間はどう流れるのか、そして自分たちは宇宙の中でどういう存在なのかという、その文化独自の哲学的な世界観のことだ。

 彼らの宇宙観には、天地創造の物語や、時間が円環を描いて循環するという概念などが含まれていた。

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岩絵の1つ Image credit:Carolyn E. Boyd / K.L. Steelman et al. 2025

 興味深いことに、この古代の信仰体系の要素は、後の時代に栄えたアステカなどのメソアメリカ文明や、現代のメキシコの先住民族であるウィチョル族の信仰の中にも見出すことができるという。

 メソアメリカ文明とは、紀元前1200年頃から16世紀頃まで、現在のメキシコや中央アメリカで栄えた文明のことだ。

 研究チームは、これらの絵画はアメリカ大陸全体に広がる信仰体系の最も古い視覚的な記録であり、後にメソアメリカ文明の中核となった思想かもしれないと述べている。

 約5800年前から続くこの伝統は、エジプトのピラミッドが建設されてから現代に至るまでの時間よりも長い期間、守られ続けてきた。

 狩猟採集民たちが岩壁に込めた祈りや世界観は、今もなお「生きて呼吸し、感情を持った祖先の神々」であり、宇宙の創造と維持に関わり続けている存在となっている。

References: The Oldest Rock Paintings in the Americas Conveyed a Message for 4,000 Years and Influenced the Cosmologies of Mesoamerican Civilizations / Science / Shumla

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この記事へのコメント 20件

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  1. タイトルすぐ下の画像、右下の黒いやつ
    黒いコートに派手なシルクハットのおっさんかと思った

    • -1
    1. 左右に伸ばした両手にバヨネット持たせたら
      エエエエエエエエイメェエエエエエエエン!

      • -1
  2. 果たしてこれは人なのかって位独特な雰囲気あるね。
    とても興味深い。

    • +10
    1. 他の文明もそうだけど薬を使って集団幻覚を見て書いてるんじゃないか?

      • +4
  3. 古事記が歴史書でありながら神話であるように、これは彼らの民族の歴史を絵外なものなんじゃないかな
    当時の人達はきっと洞窟の中で松明で照らしながら、自分たちがどのように生まれてきてここで何をしているのかを子孫に語り伝えてたんだろうな

    • +2
  4. ウサ耳のキャラ、米国アニメ「アドベンチャー・タイム」のフィンだよね、、、

    • +1
  5. 絵というのはそう簡単には変化しないので驚くほどのことじゃない。
    見たものを脳を通して変換し、概念化して手を使って再現する、という技術はほぼ後天的な能力で、もちろん向き不向きはあるにせよ、今の絵画技術は気の遠くなるような技術の積み重ねよって育まれたもの。
    だから、絵の発展は文化的多様性による刺激が重要で、何らかの要因があってそこに障壁があると進化しない。
    中国を中心とする東アジアは戦国期あたりからずっと同じ・・・つまり紙や竹に墨で主線を引き、そこに天然由来の顔料で着彩する、という技法を現代においても続けている。西洋の絵画技法を取り入れつつも概念はそこまで進化していない。
    特に中国大陸においては少なくとも2000年間で進歩と言える部分は金彩と水墨画が融合した金泥水墨が漢代に生まれたことぐらいで、これは師弟制度と尚古主義が文化障壁となったからだ。

    • -6
  6. 黒は下書き、赤と黄色が清書で、白は仕上げの修正って感じなのかな
    なんとなく分る気がしないでもない
    赤が清書のラインで黄色が面っぽい
    にしても教科書ノートの落書きぽいなー、少年の創作って感じがする

    • +1
  7. 成人の儀式の場で手形を残し続けたところとかあるし(インデアンの伝承)
    フランスだかの水中洞窟などは子供のものもあるから部族の一員の証とも(こちらは煮炊きや残飯が見つかっていて住居だった)

    こちらはどう使っていたのだろう

    • +7
  8. 洞窟の比喩というプラトンの寓話がある。洞窟に住む人が影を見て現実を想像するシーンだ。この壁画は縦に長く横に短い絵が多い。おそらくは洞窟の壁に伸びた人間の影(縦に長く横に短い影)そのままを模写したのだ。考古学者は光学博士を連れてくるべきだったのだ

    • +6
    1. なるほど影を描いてるというなら納得できる
      影絵トレスってわけだ、それなら永代に渡って画風が固定されるね
      影を捕まえて保存したかったというなら、なかなかロマンチックだなー

      • +4
  9. タイムマシンがあるならば、古代人に美術の教育してみたい。壁画をめっちゃ写実的にしてみたい。

    • -8
  10. 後世に伝わった意図は果たして正しかったのかは神のみぞ知る。

    • +2

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