OpenAIを退社したミラ・ムラティ、AGIに対する楽観的な姿勢は変わらず

元OpenAIの最高技術責任者(CTO)であるミラ・ムラティが『WIRED』主催のイベント「The Big Interview」に登壇。ムラティは自身のスタートアップについて、まだ立ち上げの最中であるとしながらも、汎用人工知能(AGI)が最大の関心事であると語った。
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ミラ・ムラティ。Photograph: Tristan deBrauwere

OpenAI幹部のミラ・ムラティは、実現には数十年を要する可能性があるとしながらも、人工知能(AI)システムが最終的には人間と同様に幅広い認知タスクを実行できるようになるだろうと語った。これは、汎用人工知能(AGI)として広く知られている技術的マイルストーンである。

AGIは「十分に実現可能」

「いまなら、十分に実現可能だと感じます」。12月3日(米国時間)、サンフランシスコで開催された『WIRED』のイベント「The Big Interview」に登壇したムラティはこう語った。これはムラティが9月にOpenAIの最高技術責任者(CTO)を退任した後、初のインタビューとなった。

ムラティは『WIRED』のスティーブン・レヴィに対し、より強力な生成AIモデルの開発が困難を極めているというAI業界での最近の議論について、それほど懸念していないと語った。

「いまある証拠からすれば、進歩は今後も続くと考えられます」とムラティは言った。「それに反する証拠は、そこまでありません。AGIレベルのシステムを実現するのに新しいアイデアが必要かどうかは、わかりません。わたしは進歩が続くことについて、かなり楽観的です」

この発言は、OpenAIを離れた後も、ますます高性能なAIシステムを世に送り出す方法を見つけようとする、彼女の変わらぬ関心を反映している。ロイター通信は10月、ムラティがAIスタートアップを設立し、独自モデルの開発に取り組んでおり、ベンチャーキャピタルから1億ドル以上の資金調達を行なう可能性もあると報じた。ムラティはこの日、自身のスタートアップについて詳細を明らかにすることを避けた。

「どんなものになるのか、いま考えているところです。いま、まさにその最中です」と彼女は語った。

ムラティは航空宇宙産業でキャリアをスタートさせ、その後、イーロン・マスク率いるテスラ電気自動車(EV)の「モデルS」と「モデルX」の開発に参画。VRスタートアップであるLeap Motionで製品とエンジニアリング部門を統括した後、2018年にOpenAIに入社し、ChatGPTやDall-Eなどのサービスの管理を担当した。OpenAIでは最高幹部となり、昨年、最高経営責任者(CEO)であるサム・アルトマンの去就を巡って取締役会が混乱した際には、暫定的に経営の舵取りを任されていた

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12月3日(米国時間)、サンフランシスコで開催された『WIRED』のイベント「The Big Interview」に登壇したミラ・ムラティ(左)と、『WIRED』エディター・アット・ラージのスティーヴン・レヴィ。Photograph: Tristan deBrauwere

ムラティが辞任した際、アルトマンは彼女が困難な時期に支えとなったことを称賛し、彼女がOpenAIの成長に大きく貢献したとした。

AI技術は「両面性をもっている」

ムラティはOpenAIを去った理由を公には明らかにしておらず、個人的な探求を推し進めるのにふさわしいタイミングだと感じたからとだけ語っている。最近では、数十人の初期メンバーがOpenAIを去っているが、その理由の一部は、アルトマンが純粋な学術研究よりも収益の創出に重点を置くようになったことへの不満である。ムラティは『WIRED』のレヴィに、退職者の多さに対する「(世間の)関心が強すぎる」とし、AI開発の中身そのものについては十分な関心が払われていないと語った。

彼女が特に注目すべき分野として挙げたのは、AIモデルの訓練に使用する合成データの生成技術と、それを支えるコンピューティングインフラへの投資拡大だ。彼女によれば、これらの分野でのブレークスルーが、いずれAGIの実現につながるとされている。

ただし、これは純粋な技術の問題だけではない。「この技術は本質的に善でも悪でもありません。両面性をもっています」と彼女は話した。そして、AGIの到来に向けて適切な準備を整えるには、社会全体でAIモデルを望ましい方向へ導いていく必要があると強調している。

(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)

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雑誌『WIRED』日本版 VOL.54
「The Regenerative City」

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