『USA Today』、自社サイト用チャットボット導入で生成AI時代に対応

米メディア大手のGannettは、『USA Today』に記事内容の要約などを提供するチャットボット「DeeperDive」を導入したと発表した。従来の検索機能に代わる、新たな読者体験の実現を目指す。
『USA Today』、自社サイト用チャットボット導入で生成AI時代に対応
Photograph: Gil C/ Shutterstock

『USA Today』を傘下にもつ米メディア大手のGannettは、9月15日(米国時間)、新たな対話型の人工知能(AI)ツール「DeeperDive」を発表した。『USA Today』など全米で220以上の新聞やオンラインメディアを発行する同社は、読者が記事内容の要約や報道から得られる洞察を確認し、関連コンテンツの紹介を受けるための仕組みを整えたとしている。

「これからは、読者の皆さんが気になることや知りたいことを、わたしたちのプラットフォーム上で、信頼できるAI回答エンジンに直接尋ねられるようになります。しかも、その性能はとてもいいです」と、『USA Today』などを発行するGannettの最高経営責任者(CEO)、マイク・リードは語った。この発言は、ニューヨークで開かれた『WIRED』主催のAI Power Summitの場でなされた。同イベントには、テック業界や政治、メディアの主要人物が集まり、AIの未来について活発な議論が交わされた。

現在、多くのパブリッシャーがAIとの関係に苦慮している。なぜなら、各社が提供するコンテンツを学習したチャットボットが記事を要約し、従来は検索エンジンから流入していた読者を奪っているからだ。

リードは、グーグルの「AI Overview」の登場で、業界全体の出版社へのトラフィックが大幅に減少していると指摘する。Gannettだけでなく、「すべての出版社が同じ映画を観ています(=同じ状況に直面しています)」と、リードはDeeperDiveの発表前に開催されたAI Power Summitで語った。「SEOに依存するコンテンツ配信モデルには、将来的にリスクがあることが見えてきました」

Gannettは、ほかの出版社と同様に、アマゾンPerplexityなどのAI企業と契約を結び、自社コンテンツをライセンス供与している。また運営する各サイトをクロールしてコンテンツを不正取得しようとするウェブスクレイパーを積極的にブロックしている。

読者の質問に即答、関連記事も提示

DeeperDiveは、生成AIと同じ技術を活用して、新しい方法で読者とつながることで、その関心を得ようとする、出版業界の“賭け”ともいえる。

同ツールは、従来の検索ボックスに代わり、利用者が知りたくなるような質問を自動で提案する。例えば、DeeperDive公開初日の画面には「トランプ大統領のFRB政策は経済にどう影響するか?」といったプロンプト(質問例)が表示されていた。

実際、DeeperDiveは読者の質問に対して簡潔な回答を生成し、あわせて『USA Today』をはじめとするGannett傘下の各ニュースサイトから関連記事を提示できる。さらにリードは、DeeperDiveが事実に基づいた正確な情報のみを参照し、オピニオン記事からはデータを引いてこないことが極めて重要だと強調する。「わたしたちは純粋なジャーナリズムだけに目を向けています」

『USA Today』のホームページに掲載された「DeeperDive」のインターフェイス。通常の検索ボックスに代わり、チャットボット型の入力欄が表示されている。

『USA Today』のホームページに掲載された「DeeperDive」のインターフェイス。通常の検索ボックスに代わり、チャットボット型の入力欄が表示されている。

Photograph: USA Today

またリードは、DeeperDiveを通じて読者の関心事をより深く把握できることにも期待しているとも語った。「それは収益面でも助けになるでしょう」

Taboolaの技術を活用、購買支援への展開も

DeeperDiveは、広告テクノロジー企業のTaboolaが開発したツールだ。同社の最高経営責任者(CEO)であるアダム・シンゴルダによると、複数のオープンソースモデルを微調整してDeeperDiveを構築したという。

シンゴルダによると、DeeperDiveは、Taboolaのネットワーク全体──約1万1,000の出版社を横断し、1日6億人超の読者データから得られる知見──を活用しているという。「回答はすべてパートナー各社の記事を根拠に生成し、文章ごとに出典を明記する仕組みになっています」とシンゴルダは語る。また複数の情報源で内容が食い違う場合には、出力を控えるように設計されているという。

GannettのリードCEOはDeeperDiveの発表に先立ち、Taboolaと協力して、読者が買い物をする際の判断を支援する「エージェント型ツール」の可能性も探っていることも明かした。「わたしたちの読者は、もともと購買意欲が高いです。次のステップはここだと考えています」

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

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