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着なれた着物に手を通したような懐しさ
倉橋 由美子 / 長い夢路「倉橋由美子全作品〈6〉 ヴァージニア・長い夢路 (1976年)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
実家までのバスに乗ったときに、のんきな揺れ方が身体の記憶を呼びさまし、ああそうだな、ここに住んでいたときはしょっちゅうバスに乗っていたなと思い出して、なつかしい、となります。
......はないし、また、いきなりほっとするわけでもありません。故郷の風は、少しずつ身体にしみこんでくるもの。そしてなつかしさとは、感じるものではなく思い出してゆくもの。実家までのバスに乗ったときに、のんきな揺れ方が身体の記憶を呼びさまし、ああそうだな、ここに住んでいたときはしょっちゅうバスに乗っていたなと思い出して、なつかしい、となります。見慣れた低い建物のならぶ風景をながめ、東京とは明らかに違うゆったりした空気が身体にしみこみ、知らず知らずのうちに心をきつく締めつけていたベルトがゆるんで、ついに......
綿矢 りさ / 自然に、とてもスムーズに「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思うバス
町々の美しいあかりを見ると私はたまらなくなつかしくなった。何だか赤ん坊になって生れ故郷へ帰ったような気持ちになって
......も一々尋ねて見たがみんな無駄骨折りにおわった。そこに行ってどうするというつもりもなかったけれども只何となく自烈度かった。 夕方になって祇園の通りへ出たが、そこの町々の美しいあかりを見ると私はたまらなくなつかしくなった。何だか赤ん坊になって生れ故郷へ帰ったような気持ちになってボンヤリ立っていると向うから綺麗な舞い妓が二人連れ立って来た。その右側の妓の眼鼻立ちが鶴原の未亡人にソックリのように見えたので、私は思わず微笑しながら近付いて名......
たまらなく懐かしい
関連カテ懐かしい・懐かしく思う
長く留守にしていた故郷にようやく戻ってきたような奇妙な懐かしさ
......んどなく、夜の県道沿いにはちらほらと民家の明かりが見えはじめている。そして私たちが向かう先に、山の斜面を挟んで光が密集した一画がある。秋祭りの会場、宮水神社だ。長く留守にしていた故郷にようやく戻ってきたような奇妙な懐かしさを、私はふいに感じる。「三葉、サヤちんが代わってくれやと」「もしもし、サヤちん!」私はスマフォを自分の耳に当てる。「え~ん、三葉ぁ~!」 サヤちんは涙声だ。「ね......
新海 誠「小説 君の名は。 (角川文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
遠い昔のような、心もちがする。
......けである。 彼は、しばらく足をとめて、車を通りこさせてから、また片目を地に伏せて、黙々と歩きはじめた。―― (おれが右の獄の放免をしていた時の事を思えば、今では、遠い昔のような、心もちがする。あの時のおれと今のおれとを比べれば、おれ自身にさえ、同じ人間のような気はしない。あのころのおれは、三宝を敬う事も忘れなければ、王法にしたがう事も怠らなかった。そ......
芥川龍之介 / 偸盗 青空文庫関連カテ懐かしい・懐かしく思う
気が変になるほどなつかしい。
......るさい音を立てるので私はうっすら目を覚ました。シャワーの音、スリッパの音、お湯をわかす音、私はとても安心してまた眠りに落ちてゆく。いつもそうだった。なつかしい。気が変になるほどなつかしい。 私の泣き声は、向こうの部屋で眠る雄一に聞こえてしまっただろうか。それとも彼は今重く苦しい夢の中にいるのだろうか。 この小さな物語は、この悲しい夜に幕を開ける。......
吉本 ばなな / 満月 キッチン2「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
なつかしさが胸にこみ上げ、その姿形のすべてが心の中にある思い出の像と焦点を合わせる。
......が狂ったのだと感じた。叫び出すのをやっとのことでこらえた。 等がいた。 川向こう、夢や狂気でないのなら、こっちを向いて立っている人影は等だった。川をはさんで──なつかしさが胸にこみ上げ、その姿形のすべてが心の中にある思い出の像と焦点を合わせる。 彼は青い夜明けのかすみの中で、こちらを見ていた。私が無茶をした時にいつもする、心配そうな瞳をしていた。ポケットに手を入れて、まっすぐ見ていた。私はその腕の中で......
吉本 ばなな / ムーンライト・シャドウ「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
旧い記憶が香のようにしみこんだそれらの物
......いた手を休めて、部屋のまん中に立ってあたりを見回して見た。しぼんだ花束が取りのけられてなくなっているばかりで、あとは横浜を出た時のとおりの部屋の姿になっていた。旧い記憶が香のようにしみこんだそれらの物を見ると、葉子の心はわれにもなくふとぐらつきかけたが、涙もさそわずに淡く消えて行った。 フォクスルで起重機の音がかすかに響いて来るだけで、葉子の部屋は妙に静かだ......
有島武郎 / 或る女(前編) 青空文庫関連カテ懐かしい・懐かしく思う
私はまだ、あのころを懐かしむことができない。風人や椿のように、あのころとは違う世界に進んでいないからだ。
......だけど、ひげの剃りのこしが細いあごに残ってるし、喉ぼとけだって、こんなふうに盛り上がってはいなかった。「スーパーファミコンさ、よくやったじゃん、子どものころ」 私はまだ、あのころを懐かしむことができない。風人や椿のように、あのころとは違う世界に進んでいないからだ。「ヒーチャン、元気?」 イヤフォンを外して、たっぷりと時間をとってから、私は言った。「元気だよ。だけどおれは元気じゃない」「風人の好きな人は元気なのに、なんで風......
朝井 リョウ / もういちど生まれる「もういちど生まれる (幻冬舎文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
十万石の城下町でもあった桑名の情趣が、ここへ泊ると肌にせまってくるようなおもいがする
......られた料亭〔河文〕が経営をしている。 料理はいずれも念が入っている。 それよりも私が〔船津屋〕が好きなのは、姿かたちが変ったが、旧東海道有数の宿駅として知られ、十万石の城下町でもあった桑名の情趣が、ここへ泊ると肌にせまってくるようなおもいがするからだ。 尾張の宮から海上七里。伊勢湾の要港でもあった桑名の船着場には、伊勢神宮の一ノ鳥居が建ち、いまも残っている。そこの風致は護岸工事にそこなわれたけれども、......
遠く行き去った愛惜物が突然また再現したような喜悦に似た感情
......ってやって下さい。僕等は親子二人であなたから教えて頂き度いことがあるんです。頼みます」 この手紙には今までと違って、何か別に撃たれるところのものがあった。それに遠く行き去った愛惜物が突然また再現したような喜悦に似た感情が、今度は今迄のすべての気持を反撥し、極々単純に、直ぐにも逢う約束をかの女にさせようとした。逸作も青年の手紙を一瞥して、 「じゃまあ逢って見るさ。字の性質も悪くな......
岡本かの子 / 母子叙情 青空文庫関連カテ懐かしい・懐かしく思う
逆もどりしたいなつかしい気持ち
......は気の毒そうにみて、一週間あまりしかいない私達へ給料を十円ずつ封筒へ入れてくれた。 「また来て下さい、夏はいいんですよ。」 お君さんと違って家のない私は、又ここへ逆もどりしたいなつかしい気持ちで、マダム・ロアを振り返った。沈黙った女ってしっかりしているものだ。背広を着た彼女が、二階から私達を何時までも見送ってくれていた。 「よかったら家へいらっしゃいよ......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ懐かしい・懐かしく思う
ふっとなつかしく頭に浮んで来る。
......っている。養父さんは北海道へ行ってそれっきり。仲々思わしい仕事もないのであろう。私も口笛を吹いてみる。 ああ、そはかのひとか、うたげのなかに、女学校時代のことがふっとなつかしく頭に浮んで来る。宝塚の歌劇学校へ行ってみたいと思った事もあった。田舎まわりの役者になりたいと思った事もあった。初恋のひとは、同級の看護婦といっしょになってしまった。 ここから尾......
突然ものすごい懐かしさと親しみを感じた。戦友に会ったとき、こういう気持ちになるのかな、とさえ思った。
......ないのが彼女に対する礼儀だと思った。 彼の家にたどり着き、チャイムを押した。すぐに乙彦が顔を出した。「こんにちは。」 私は言った。「あがりなよ。」 彼は言った。突然ものすごい懐かしさと親しみを感じた。戦友に会ったとき、こういう気持ちになるのかな、とさえ思った。何だっていうんだろう、少しの期間かかわっただけなのに、何かをした、という充実感と、永遠に失ったという苦さが入り乱れていた。1日の密度が濃くて、行く夏が悲しくて、......
(家族の死)同じ家に長いこといなければ、たとえ血がつながっていても、なつかしい風景の一つとして遠ざかってゆく
......程度メンバーの秩序を保つことのできる人物が中心にひとりいれば、同じ家に暮らしてゆく人はいつしか家族になってゆく、そんな気がしはじめていた。 そしてもうひとつ。 同じ家に長いこといなければ、たとえ血がつながっていても、なつかしい風景の一つとして遠ざかってゆくのだ。 妹の、真由のように。 コーヒーを飲み、固いくるみのパンをかじりながら、いつのまにかそういうことを考えていた。 テーブルと朝の光という組み合わせが、私に家......
深夜の熱いコーヒーは、何か 懐かしい気がする。何でだろう? 子供のころを思い出す。子供のときは飲まなかったはずなのに、初雪の朝や台風の夜のように、訪れる度に恋しい。
......上がった。私はぎぎ、と音を立てていすを引き、どさっとすわった。立ち仕事なのですわると突然がくっと力が抜ける。腰のあたりの疲労がじわっと全身に広がるのがわかる。 深夜の熱いコーヒーは、何か懐かしい気がする。何でだろう? 子供のころを思い出す。子供のときは飲まなかったはずなのに、初雪の朝や台風の夜のように、訪れる度に恋しい。 母は言った。「由男ったらね。」「何?」「小説家になるって言うの。」 初耳だった。「そりゃまたどうして。」 私は言った。だいたい弟はまったくの現代っ子で、収入が......
「なつかしい」という言葉には、それ自体に目を細めてしまうようなまぶしい響きがある。
......ずいた。多分、雨が嫌いではなかった頃があったのだ。雨が新鮮に映り、いつもと違う世界を喜びをもって見つめた時が。「何か、懐かしいよね。」 幹子が言った。 そして、「なつかしい」という言葉には、それ自体に目を細めてしまうようなまぶしい響きがある。「えっ? 朔美? 感じ変わったね。」「えっ? ほんと?」「よく見ないとわかんなかった。」「新郎側の親戚かと思った。」 金ぴかの披露宴会場で、ひらひら着飾って真っ......
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
(久しぶりに会う友人)栄子を見たとき、会っていなかった時間をずっしり感じた。 彼女がものすごくハデになっていたのだ。 それはもう、私の記憶の百倍から二百倍くらいハデで、はじめ私は彼女を店がひけたホステスだとばかり思って
......たのか、と驚いた。声を聞いたとき、ついこの間会ったような感じがしたのだ。 しかし、「店が終わったら飲もうよ」ということになって、待ち合わせた近所の居酒屋について栄子を見たとき、会っていなかった時間をずっしり感じた。 彼女がものすごくハデになっていたのだ。 それはもう、私の記憶の百倍から二百倍くらいハデで、はじめ私は彼女を店がひけたホステスだとばかり思って見過ごし、だから彼女が私に手をふったことにびっくりしてしまった。 そう、居酒屋はがら空きで、蛍光灯の明かりだけがこうこうと光っていた。私は彼女を捜した。「外人の......
(故人の手紙を久しぶりに読み返して)文字、物言い、何もかもが 懐かしさのうねりとなって部屋に満ちる。
......てきたころだ。 人の話なんて、全然聞かなくなってきたころの真由だ。 ここにいる、忘れないで、と全身で表し続けることに疲れ果てていたころの。 真由だ、真由がいる。文字、物言い、何もかもが懐かしさのうねりとなって部屋に満ちる。母に読ませようかと思ったけれど、やめた。 こんなの読んだらまた「止められたかもしれない」という後悔がよみがえってしまう。 私ですら、今なら感じる。 死の匂い、絶......
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
(公衆電話)久しぶりに手に持った黄緑色の受話器は、懐かしい重さだった。
......たりと、互いの口調がなかなか定まらなかった。 蒔野は、大丈夫だと言ったが、「ちょっと、電話してくる。」と断って公衆電話を探しに行った。 テレフォンカードを買い、久しぶりに手に持った黄緑色の受話器は、懐かしい重さだった。どこに電話すべきか途方に暮れ、番号案内の104を思いついたが、タクシー会社の名前さえわからないのであれば、無駄だろう。知人に助けを求めるにも、そもそも、誰の電話......
昔通っていた学校まで足を延ばしてみたり、湖畔や旧市街を散歩したりしていると、自分の中にまだ残っていた十代の頃の感情が蘇って来るようだった。
......な湖畔の町という組み合わせは、想像していた通り、悪くはなかった。 慣れてくると、十代の頃のスイス人の友人と、二十年ぶりに再会するなど、生活にもゆとりが出てきた。昔通っていた学校まで足を延ばしてみたり、湖畔や旧市街を散歩したりしていると、自分の中にまだ残っていた十代の頃の感情が蘇って来るようだった。ジャン=ジャック・ルソーの生家の記念館にある小さな図書館で、静かに古い稀少本を読む時間に特別な喜びを感じた。 仕事は、コソヴォから逃れてきたロマの難民の強制送還......
あまりに変わっていなくて、ここで過ごした時間をたちまち思い出し、「懐かしい」という言葉が自然に私の口をついて出た。
......く来てくれたね」 泉ヶ原さんはすぐさま私たちを居間に通してくれた。広く大きな部屋。天井も壁もカーテンも、梨花さんとおしゃべりしていた革張りのソファもそのままだ。あまりに変わっていなくて、ここで過ごした時間をたちまち思い出し、「懐かしい」という言葉が自然に私の口をついて出た。「優子ちゃん、お久しぶりです」 聞き覚えのある声に顔を向けると、以前と同じく背筋がしゃんと伸びた吉見さんが立っていた。「あ、吉見さん。お元気ですか?」「ええ。さ......
瀬尾 まいこ「そして、バトンは渡された (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
なにもかもがいつも通りで、めまいがした。時間が止まっているようだ。
......に買い出しに行って、マツモトのシェイブアイスを食べた。 七色に光る氷、駐車場のごみすて場のすっぱい匂い。アイスを買う人の長い行列がお店からはみだしているところ、なにもかもがいつも通りで、めまいがした。時間が止まっているようだ。今にもトイレに行ったママが戻ってきそうな気がしたし、パパが車の中で待っているみたいな気がした。でも悲しいことに私の体はすっかり大きくなって、今の時間しか手に持つ......
よしもとばなな / まぼろしハワイ「まぼろしハワイ」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
劇場は驚くほど変わっていなかった。満員御礼の立て札、高い天井に響くロビーのざわめき、降り注ぐ柔らかな光、赤い地のキャストボード、薄紫色の絨毯、優美な階段、ステンドグラス、両膝をつき、胸の刻印を見せて叫び声を上げるジャン・バルジャンの写真……。何もかもが遠い記憶と重なり合った。
......る声でもう一度つぶやいた。不意にどこからか、ささやかな偶然が舞い降りてきた気がした。その偶然のしるしをそっと掌におさめるようにして、僕はチケットを受け取った。 劇場は驚くほど変わっていなかった。満員御礼の立て札、高い天井に響くロビーのざわめき、降り注ぐ柔らかな光、赤い地のキャストボード、薄紫色の絨毯、優美な階段、ステンドグラス、両膝をつき、胸の刻印を見せて叫び声を上げるジャン・バルジャンの写真……。何もかもが遠い記憶と重なり合った。 以前、『レ・ミゼラブル』を観た時は、伯母と一緒だった。僕はまだ高校生で、十七になったばかりだった。数えてみるといつの間にか、十一年もの月日が経っていた。 結婚......
ノスタルジックな興奮が体の底から込み上げて来る。
......ないわ。あなたは殺人罪に問われているのよ。裁判に勝つ見込みは薄いし……結局こっちを選ぶわ」 丘陵が割れて急に豊満な海が紺碧の色を眼前に広げた。わけのわからない、ノスタルジックな興奮が体の底から込み上げて来る。 不思議なことに女を恨む気持ちは小さくなっていた。 ──自分はあの結婚を望んでいなかったのかもしれない── 夫佐子が好きとか嫌いとかいうのではなく、結婚の結果と......
阿刀田 高 / 捩れた夜「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う
懐かしい声であった。 耳朶 を柔らかくくすぐる声。
......て、だが下っ腹にまだ若干の余裕があるようにも思えて結果、しょうことなしのぐずぐずを決め込んでいた。 そのとき桃子さんは確かに聴いたのである。おんで、おんでよ。 懐かしい声であった。耳朶を柔らかくくすぐる声。 反射的に飛び起き、何とも言えない笑顔を浮かべてあたりを見回した。かすかにうなずき、それからの桃子さんの動作は素早かった。七十を超した人とは思えぬ身のこなしでタ......
若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも (河出文庫)」に収録 amazon関連カテ懐かしい・懐かしく思う