次期学習指導要領における教育課程の編成に関し、文部科学省は4月10日に開かれた中教審の教育課程企画特別部会第5回会合で、個々の児童生徒に着目した教育課程の特例として、新たに特定分野に特異な才能のある児童生徒や、不登校の児童生徒を対象にした特別な教育課程編成を認める方針を示した。日本語指導が必要な児童生徒に対する特別の教育課程も見直し、日本語の習得のみならず、デジタル技術や母語も生かして資質・能力を育成するものに改善する。

「2階建て」で柔軟な教育課程を実現

 中教審への諮問でキーワードとなっている柔軟な教育課程編成を巡っては、特別部会の前回会合で、特例校のような申請や審査を必要とせず、年間の総授業時数は維持しつつも、各学校・教育委員会の判断で一部の教科で標準授業時数を下回る教育課程を編成できる仕組みが提案されていた。それによって生み出された「調整授業時数」は、他の教科に上乗せしたり、学校で必要な教科の開設や「裁量的な時間(仮称)」に充てたりできる。

 この仕組みは学校として編成する教育課程の特例であったのに対し、今回テーマとなったのは、個々の児童生徒に着目した教育課程の特例だ。

 個々の児童生徒に着目した教育課程の特例は、現行制度でも障害のある児童生徒に対する通級による指導や、夜間中学を想定した学齢を超過した人に対するもの、外国にルーツのある児童生徒などに、日本語で学校生活を送れるようにするために必要な日本語指導を行うものなどがあるが、この日の会合で文科省は、新たに特定分野に得意な才能のある児童生徒や不登校の児童生徒を対象にした特例を設けることを提案。日本語指導が必要な児童生徒に対する特別の教育課程についても、学校生活で困らない程度の日本語指導にとどまらず、資質・能力の育成の観点からより充実させる方針を示した。

 文科省がイメージしているのは、大半の児童生徒を対象とする1階部分と、より支援ニーズが高い特定の児童生徒に対応した2階部分からなる複層構造だ(=図1)。

【図1】柔軟な教育課程の実現に向けた2階建てのイメージ
【図1】柔軟な教育課程の実現に向けた2階建てのイメージ

 これに対し、野口晃菜委員(UNIVA理事)は、現在行われている通級による指導では、通常の学級で困難を抱えている児童生徒がいたら、通常の学級でできる工夫を考える前に通級の対象にしてしまい、結果的に通級による指導を受ける児童生徒の増加を招いていると指摘。その上で「今回提案された特例は『うちのクラスに合わない子どもは別の場に行ったらいい』と排除を促すものではなく、むしろ、教室内の包摂を促すためのものでなければならない。あくまでも1階があった上での2階ということだ。1階でどこまで柔軟にできるかが論点になる」と話した。

伸ばすだけでなく包摂も重視したギフテッドの特例

 特定分野に特異な才能のある児童生徒は「ギフテッド」とも呼ばれ、その特異な分野を伸ばしていくために高度な内容を学習できるような機会をつくることが求められる一方で、認知・発達の特性などから、学校生活や学習に困難を抱えていることもある。

 そこで、新設される特例では、大学や研究機関などの外部と連携し、その児童生徒の興味・関心や特異な分野に応じて、学校に研究者が来て教えたり、学習環境や安全面の条件が整えば、児童生徒が大学や研究機関で学んだりできるようにし、それらを在籍校での学習と見なすことを検討している。

 ギフテッドの才能を伸ばす教育は世界各国で行われている。特に韓国やシンガポール、中国などのアジアの国々では、人材開発や理数分野の振興といった「才能教育」の側面が強く、通常の学校教育とは分離されているケースもみられる。

 しかし、日本が目指すのは他の児童生徒と一緒に学校生活を送る包摂型だ。得意な分野の学習は単なる早修を助長しないようにし、それ以外の学習は基本的に通常の教育課程で学ぶことを想定している。

 日本ではギフテッドの実態や支援ニーズの把握が遅れているため、当面は対象を一定範囲に限定し、運用状況を踏まえて拡充を検討することになりそうだ。

 文科省では今年度、ギフテッドの児童生徒や保護者を対象にした相談体制の構築を進める方針で、この日の会合ではギフテッドへの学習プログラムの提供に携わっている愛媛大学の隅田学教授が、その教育支援の考え方について発表した。

 隅田教授は、通常の学級で行われる授業でも、応用的な問題を用意したり、教科横断的な課題を設定したりすることで、ギフテッドの学習ニーズに応えられる場合があること、外部の専門家とのさまざまな形の連携事例を紹介しながら、教育支援をタイプ別に整理した。

 愛媛大学では4月から才能教育センターを開設し、附属校とも協働しながら、カリキュラム開発や全国的な相談支援体制の構築に乗り出している。隅田教授は「特異な才能のある児童生徒は全国各地に確実に存在する。実態が見えにくいから支援を後回しにするのではなく、政策的・制度的対応を先行させ、その可視化と包摂を同時に進めるべきだ」と強調した。

学びの多様化学校と同様の特例を想定

 不登校児童生徒を対象にした特例を新設することにした背景には、増加する不登校児童生徒の学習の保障として、教育支援センターが担っている機能や役割面での課題がある。

 近年、教育支援センターの設置数は増加傾向にある。一部で「校内フリースクール」と呼ばれるような、学校内の空き教室などを活用して不登校の児童生徒が過ごせるようにした教育支援センターは、2024年7月時点で公立小中学校の46.1%に設置されている。これに加え、教育委員会が設置した学校外の教育支援センターも23年度に1743カ所にまで増えた。

 こうした学校内外の教育支援センターは、不登校児童生徒の居場所の一つとして機能している。その半面、学習意欲を高めたり、学習の遅れを取り戻したりしながら、原籍校への復帰や進学を支援していくには、個別の指導計画などもないため、組織的・計画的な指導が十分できないこともある。

 さらに、教育課程の特例が存在しないために、不登校による学習の遅れから下学年の内容を学んでいるような場合であっても、現在の学年に基づく評価をしなければならず、学習意欲や進学に支障が生じているという課題もある。

 学校単位ではすでに「学びの多様化学校」の設置が全国的に進んでいるものの、その数はまだ少なく、実際にそこに通学できる児童生徒は限られている。そのため、新設される特例では、対象となる児童生徒の条件や特別な教育課程の内容・授業時数は学びの多様化学校と同様とし、校内の支援センターを含む学校の中だけでなく、教育委員会が設置し、教員免許を持っている職員がいるなどの要件を満たした校外の教育支援センターも対象にすることを想定している。

 学校内外の教育支援センターと連携し、個別の支援計画を作成することや、学習評価について、指導要録上に明確に位置付けることも視野に入れる。

 高校入試で特別の教育課程に基づく取り扱いとすべきかどうかも検討する。

 この点に関して髙島崚輔委員(兵庫県芦屋市長)は「最も重要なのは高校入試の内申点をどうするかという話だ。兵庫県は内申点の配分が半分なので、その結果として不登校の子たちは公立高校に進学しにくい。今でも学びの多様化学校はあるわけだが、この議論をどう受け止めて、高校入試をどう変えていくのか、都道府県教育委員会が問われている」と、高校側の早急な対応を呼び掛けた。

母語も生かして資質・能力を育成

 日本語指導が必要な児童生徒に対し、在籍校で学校生活や教科の学習に必要な日本語を学ぶために、取り出しで指導ができる教育課程の特例は14年度に制度化され、国際化に伴いそのニーズも年々増加している。

 しかし、その指導は漢字や文法を習得するなどの初期指導にとどまることが多く、各教科の内容を概念的に理解するといった資質・能力の育成に向けた取り組みは道半ばだ。児童生徒の実態によっては、母語の方が意味理解や概念の獲得に有効なこともあるが、実際にこの特例を定めた学校教育法施行規則の規定では日本語指導に重点が置かれ、資質・能力の育成や母語の力を活用した指導の観点は明確になっていない。

 こうした課題から、規定を改正し、日本語と母語の力を生かした「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」の一体的な育成が、この特例の目的であることを明確にする。その上で、「資質・能力の育成のための新たな日本語指導」(仮称)を体系的・専門的に実施できるよう、考え方や指導内容・方法などを示すことを検討する(=図2)。

【図2】「資質・能力の育成のための新たな日本語指導」が目指す子どもたちの学びのイメージ
【図2】「資質・能力の育成のための新たな日本語指導」が目指す子どもたちの学びのイメージ

 母語の力を引き出す上では、会話の補助や翻訳などができるデジタル技術や生成AIの活用が効果的だ。また、例えば「分析」や「比較」といった学習語彙(ごい)の習得が教科学習の鍵を握っているが、その習得に向けた指導方法の知見も不足している。これらのポイントについても、力を入れていく方針だ。

 この方向性について山本朝彦委員(横浜国立大学大学院教育学研究科教授・同学教育学部附属横浜小学校校長、前横浜市教育委員会学校教育企画部長)は「子どもたちの母語の力を活用しながら、今までそれぞれが培ってきたものや身に付けてきたものが発揮できるような集団づくりをしていくことが非常に大事だと思っている。特別なカリキュラムをつくるだけでなく、学びを支える人材の育成も組織的に進めていくことを期待している」と、指導する教員などの専門性を高めていく必要性を挙げた。

 内田隆志委員(東京都立三田高校校長、全国高等学校長協会会長)は「日本語教育の教材がどうしても、現場で教える際に不足している。特に高校の分野で学習差が生じているところでは非常に苦労している。例えば日本語学校と連携して、教材開発に関して何かしらの手だてができないか」と、教材の充実に向けた取り組みにも期待を寄せた。

 

【キーワード】

ギフテッド 特定の分野に特異な才能があったり、強い興味・関心を示したりする人。才能を「贈られた」という意味でGiftedと呼ばれている。その才能を伸ばす教育が課題となっているほか、その特性から、社会生活や他者とのコミュニケーションなどに困難を抱えているケースもある。

教育支援センター 不登校児童生徒のサポートを行うために教育委員会が設置している。学習支援を行い、不登校児童生徒の居場所の一つとなっている。学校外に設置されているケースのほか、近年は学校の中の空き教室を活用するなどして、開設するケースも増えている。

文中に「得意」とあったのを「特異」に修正しました。