2023年に武力紛争が勃発したスーダン。多くの人々が国内外へ避難する中、エジプトにあるスーダン人向けの教科書店には、母国の新しい教科書が並ぶ。紛争の混乱の中でも教科書の改訂が続けられている。教科書は散り散りになったスーダン人教師と生徒たちをつなぐ学びのよりどころとなっている。
スーダンの教育
スーダンでは初等・中等学校(日本の小・中・高校に相当)の教科書は、基本的に教育省とカリキュラム・教育研究国立センターによって作成されてきた。授業はアラビア語で行われ、教科書も基本的にはアラビア語で書かれているが、英語や中等学校の理系科目については英語で書かれている。
19年の革命後、文民政権によって教育改革が推進され、時代遅れで教師中心的だと国際的に指摘されてきた教授内容の見直しが進められた。しかしその最中の21年に軍のクーデター、23年には武力紛争が勃発し、教育を取り巻く状況もまた混乱に陥った。
それでも、国際NGOなどの支援によって、紛争勃発後も国が新しい教科書を改訂し続けている。現時点では、旧来のカリキュラムを最小限の改訂で教科書の内容に反映させ、政府軍が管理する治安の比較的安定した州において、新しい教科書が導入されている。
エジプトでスーダンの新教科書を購入する
エジプトでは、多くのスーダン人がエジプトの公立学校ではなく、コミュニティスクールに通っている。コミュニティスクールはスーダンのカリキュラムを導入する私立学校で、スーダンの教科書を使って教えている。教科書の入手方法は一様ではなく、学校が一括購入して子どもに貸与する場合もあれば、保護者が購入する場合もある。前者の場合は、子どもは学年末に学校に返さなければならない。25年10月、筆者は個人向けの教科書店を訪問した。
筆者が訪問したのは、エジプトの首都カイロにあるファイサル地区の教科書店だ。ここは、カイロの中でもスーダン人が多い地域である。スーダン人の増加をビジネスチャンスと捉えたエジプト人が商売を始めていた。売り手は各自で印刷しているようで、教科書の値段は店によって異なる。

筆者が訪問した教科書店では、例えば100ページほどの5年生の宗教科目(イスラム教)の教科書が全ページカラー印刷で、60ポンド(約180円)で売られていた。カイロでは500ミリリットルの水が6ポンド(約18円)程度なので、決して安い買い物ではないといえる。富裕層が住む地区に行けばこれらの教科書の値段は上がるという。そして同じ教科書でも印刷品質にばらつきがあるのは、ご愛嬌といったところだろうか。

紛争下で教科書が果たす役割とは
スーダンでは全ての教師が完全な資格を持っているわけではない。公務員教師が不足する地域では、自身も限られた教育しか受けてこなかった無資格の人が、地元の保護者団体によって雇われることもある。また、都市部の私立学校でも、高学歴ではあるものの無資格の人が採用されることも少なくない。こうした状況では、教科書が必ずしも十分に活用されていないという課題が生じる。エジプトのコミュニティスクールにおいても同様の問題が指摘されている。
さらに、教科書が全ての子どもに行き渡っているとはいえない状況がある。スーダン全土でみると、初等学校段階では、算数は2人で1冊、アラビア語は3人で1冊、理科は4人で1冊を共有していた。中等学校段階では、数学と英語の教科書は平均2人で1冊共有していたという統計もある。紛争下において、新教科書が使用されているのは政府軍が管理するエリアのみである。このように教科書の所有状況には差があり、課題は多い。
それでも、教科書は、紛争で散り散りになったスーダン人教師と子どもたちをつなぐ学びの源になっている。紛争という不安定な状況の最中においても、教科書の改訂に多くの人々が尽力していることは、スーダンの教育を支える動きとして注目に値する。









