シニア層の転職は何が難しいか。中高年の男性を長年取材しているジャーナリストの若月澪子さんは「取材から見えてくる典型的な弱点は『自己評価が甘い』こと。これまで企業の肩書で生きてきた人ほど、自分の価値を見誤りやすい」という――。

「自己責任」の冷たい海で溺れる

そもそもホワイトカラーのシニア転職は、難易度が極めて高い領域にある。

そこでサラリーマンの多くは「60歳定年」を迎えると、同じ会社で非正規として働き続け、65歳から年金受給を開始するのが、事実上「定年後のスタンダード」になっている。

その一方で、60歳を待たずに早期退職したり、定年後は会社に残らない選択をしたりと、長年勤めた会社を離れる人もいる。ところがそれは、冷たい海に真っ裸で飛び込んでいくようなものである。

組織に守られていた人にとって、年金受給開始までの期間は「自己責任の海」だ。この海に飛び込む備えが万全でない人は、貯金を切り崩しながら「自分探し」に溺れることになる。

「自己責任の海」で溺れる人には、次のようなパターンがある。

1 別の会社に転職するが、スキルが伴わず、もしくは企業風土が合わず短期で退場
2 「自分の力で何かやりたい」と資格を取得しまくる
3 独立しようと看板を掲げるも、マネタイズできず「持続不可能」で終わる
4 「投資話」を持ちかけられ、なぜか大金を差し出す

中高年男性に取材をしていると、この無情の海で溺れる人には驚くほどよく出会う。

窓の外を眺めるシニア男性の後ろ姿
写真=iStock.com/Sentir y Viajar
※写真はイメージです

「想定よりかなり少ない」退職金1000万円

「現役時代は年収1200万円でしたが、退職してからは想定外のことばかり。まあ、今はそれを楽しんでいますよ」

こう話すのは、大手ハウスメーカーに30年以上勤務し、最後はグループ内の子会社を57歳で早期退職した埼玉県在住のAさん(61歳)。ラフなトレーナー姿、白髪交じりの無精ひげを生やした、人のよさそうなシニア男性である。

ただしシニア世代の「楽しんでいます」は、たいていの場合「こんなはずじゃなかった」と言い換えもできる。

退職前のAさんは「技術事務」として取引先を束ねる部長という立場にあり、ゆくゆくは潤沢な退職金と年金で安定したシニア生活を送るつもりだった。

【Close-up:失敗しない転職】はこちら
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ところが会社人生が終わりに近づいた頃、思わぬ事態が起こる。

コロナ禍で建築現場の仕事が激減し、発注先の工務店などの苦情をAさんが一手に引き受けるハメになった。これをきっかけに経営陣との折り合いも悪くなり、ストレスで心筋症を発症したのである。

「早期退職を希望したのですが、『途中で投げ出すのか』と反対されました。それでも強引に退職したため退職金は減額になり、想定よりだいぶ減らされた。もっともらえると思ったのに」

退職金の額を聞いてみると、税別で1000万円くらい振り込まれたという。ちなみに年金は65歳から受給する予定で、その額は月30万円くらいではないかとのことだった。