CESで異彩を放った「家電メーカー」
2026年のCESで、数多くのAI関連展示が並ぶ中、強く印象に残った企業がある。それが中国家電大手のハイセンス(Hisense、海信集団)だった。理由は単純ではない。AIを使ったデモが派手だったからでも、話題性のある製品を出していたからでもない。会場で目にしたのは、冷蔵庫、洗濯機、空調、調理家電といった一見すると成熟しきった家電群に、複数のAIエージェントを明確な役割分担で展開している姿だった。しかし、本当の意味で「脅威」を感じたのは、その視覚的・表面的な印象ではない。むしろ、展示の背後にある設計思想を想像したときである。
この企業は、どのようなデータを取得しようとしているのか。そのデータを使って、どのような価値を提供しようとしているのか。そして、その価値をどのような事業として積み上げようとしているのか。そこまで思考を進めたとき、ハイセンスの展示は、単なる「AI家電の進化」ではなく、生活の現場を起点にした新しい事業モデルの提示に見えてきた。
単なる「安売り」の会社ではない
冷蔵庫は、単なる保管装置ではなく、家庭の食材の流れと判断を記録する装置になる。洗濯機は、衣類を洗う機械ではなく、生活リズムや失敗の履歴を蓄積する装置になる。空調は、温度を制御する機器ではなく、人の快適さとエネルギー消費のバランスを学習する装置になる。それらが個別に存在するのではなく、一つのプラットフォーム上で結び付けられ、役割を持ったAIエージェントとして連携する。
この構造が意味するのは、「便利な家電が増える」ことではない。生活の中で行われてきた判断そのものが、データとして蓄積され、再利用され、事業価値に転換されていくということだ。CES2026でハイセンスを見て感じたのは、「価格競争力のある家電メーカー」という従来のイメージからは、もはや完全に逸脱した存在になりつつある、という感覚だった。
本稿では、なぜハイセンスのAIエージェント展開が、単なる製品進化ではなく、生活データを起点とした価値創造と事業構想として脅威に映ったのか。その理由を、何をAI化しているのか、どのような消費者データを取得し、それをどう分析し、どのような価値とビジネスにつなげようとしているのか、という視点から整理していく。

