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風に吹き寄せられた落ち葉のような共同生活
辻井 喬 / 暗夜遍歴 amazon関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
世間から隔離されたような貧しい暮らし
関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
細々とその日の口をぬらす
宇野 千代 / おはん amazon関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
一人で食いつないでいくのがやっと
関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
端のかけた茶碗
......においがしていた。 「臭せえ、臭せえ」 「そよ、俺だちだもの。ええ加減、こったら腐りかけた臭いでもすべよ」 赤い臼のような頭をした漁夫が、一升瓶そのままで、酒を端のかけた茶碗に注いで、鯣をムシャムシャやりながら飲んでいた。その横に仰向けにひっくり返って、林檎を食いながら、表紙のボロボロした講談雑誌を見ているのがいた。 四人輪になっ......
小林多喜二 / 蟹工船 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
着ている衣服はいつも誰かのおさがり
関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
蛆虫そのままの生活
......にはこの上ない良い地盤だった。――こうなれば、監督も糞もあったものでない! 皆愉快がった。一旦この気持をつかむと、不意に、懐中電燈を差しつけられたように、自分達の蛆虫そのままの生活がアリアリと見えてきた。 「威張んな、この野郎」この言葉が皆の間で流行り出した。何かすると「威張んな、この野郎」と云った。別なことにでも、すぐそれを使った。――......
小林多喜二 / 蟹工船 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
生活はぎりぎりのものだった。
関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
生活のどん底まで沈み切った十年の月日
......にかけておらにかなうものは一人だっていねえ」 君はあたりまえの事を言って聞かせるようにこう言った。私の前にすわった君の姿は私にそれを信ぜしめる。 パンのために生活のどん底まで沈み切った十年の月日――それは短いものではない。たいていの人はおそらくその年月の間にそういう生活からはね返る力を失ってしまうだろう。世の中を見渡すと、何百万、何千万の人々が、こんな......
有島武郎 / 生まれいずる悩み 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
貧しかった。だから、食べものの好き嫌いがないのかもしれない。
......、その点はみとめてあげるが、ドライヴをしていても露店の「アイスクリン」というのを買いたがる。物心のつかぬ前に父母に死に別れた父は、おばあさんの手一つで育てられ、貧しかった。だから、食べものの好き嫌いがないのかもしれない。でも車をちょっと止めてアイスクリームを買ったりするのは、買いぐいのクセがこどものときからあったのかもしれない。*久留米に行ったとき、父の仕事をしている青年が、屋......
上の学校へは行けずに、十三歳のときから世の中へ出て行ったほど貧しかった
......らぶ。 すこしおごろうというときは、母がデパートの食品売場で買って来たカツレツで〔カツ丼〕をつくったり、牛肉で白いシチューをつくったりした。 私も弟も、とうてい上の学校へは行けずに、十三歳のときから世の中へ出て行ったほど貧しかったが、ただの一度も、ひもじいおもいをしたことはない。 いつも腹いっぱいに食べ、そのころは、東京の町の何処にでもあった草原や空地や材木置場や石置場ではねまわり、喧嘩......
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
終戦直後の物資欠乏時代
......の食物や調味料は、むかしの味覚と無縁のものだ。 そしてまた塩も醤油も油も、いかに貴重なものであったかが、いまさらにおもい知らされる。 また私たちが、かえりみて、終戦直後の物資欠乏時代に、この結解料理を食べたらどのようにおもったろう。 すばらしい御馳走であったことは、うたがう余地もない。 凍豆腐が出てから、二度目の酒が出る。 百目蝋燭の灯がゆ......
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)戦後
三度の食事もろくに摂れなかった
......になるといいなあ」「そんな世の中が、やって来るかしらん」 空腹を抱えて語り合ったことが、つい昨日のようにおもわれてくる。 おでんはおろか、敗戦国民のわれわれは、三度の食事もろくに摂れなかったのだ。 さて……。〔四千両〕の序幕で、富蔵が芋の田楽に唐辛子を添え、通りがかりの中間に食べさせるところがあって、その中間が富蔵に「お前の味噌は、めっぽうけえ味が......
池波 正太郎「むかしの味 (新潮文庫)」に収録 amazon関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
もらった銭は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
......てふところに入れて持っていたことはございませぬ。どこかで仕事に取りつきたいと思って、仕事を尋ねて歩きまして、それが見つかり次第、骨を惜しまずに働きました。そしてもらった銭は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。それも現金で物が買って食べられる時は、わたくしの工面のいい時で、たいていは借りたものを返して、またあとを借りたのでございます。それがお牢にはいってからは、仕事を......
森鴎外 / 高瀬舟 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
掘立小屋同様の所に寝起きをいたして
......弟といっしょに、西陣の織場にはいりまして、空引きということをいたすことになりました。そのうち弟が病気で働けなくなったのでございます。そのころわたくしどもは北山の掘立小屋同様の所に寝起きをいたして、紙屋川の橋を渡って織場へ通っておりましたが、わたくしが暮れてから、食べ物などを買って帰ると、弟は待ち受けていて、わたくしを一人でかせがせてはすまないすまないと......
その子供が幼い心にも、彼らの諦めなければならない運命のことを知っているような気がしてならなかった。
......してその顔色の悪い子供も黙って、馴れない手つきで茶碗をかきこんでいたのである。彼はそれを見ながら、落魄した男の姿を感じた。その男の子供に対する愛を感じた。そしてその子供が幼い心にも、彼らの諦めなければならない運命のことを知っているような気がしてならなかった。部屋のなかには新聞の付録のようなものが襖の破れの上に貼ってあるのなどが見えた。 それは彼が休暇に田舎へ帰っていたある朝の記憶であった。彼はそのとき自分が危く涙を......
(米がない)朝も晩も、かぼちゃ飯で、茶碗を持つのがほんとうに淋しかった。
......ひたしてしまった。私の周囲は朝から晩まで金の話である。私の唯一の理想は、女成金になりたいと云う事だった。雨が何日も降り続いて、父の借りた荷車が雨にさらされると、朝も晩も、かぼちゃ飯で、茶碗を持つのがほんとうに淋しかった。 この木賃宿には、通称シンケイ(神経)と呼んでいる、坑夫上りの狂人が居て、このひとはダイナマイトで飛ばされて馬鹿になった人だと宿の人が云っていた。毎朝早く、町の......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
三畳の部屋に豆ランプのついた、まるで明治時代にだってありはしないような部屋の中に、明日の日の約束されていない私
......!) 夜。 新宿の
旭町の木賃宿へ泊った。
石崖の下の雪どけで、道が
餡このようにこねこねしている通りの旅人宿に、一泊三十銭で私は泥のような体を横たえることが出来た。
三畳の部屋に豆ランプのついた、まるで明治時代にだってありはしないような部屋の中に、明日の日の約束されていない私は、私を捨てた島の男へ、たよりにもならない長い手紙を書いてみた。
みんな嘘っぱちばかりの世界だった 甲州行きの終列車が頭の上を走ってゆく 百貨店の屋上のように寥々とし
......
ピエロは高いところから飛び降りる事は上手だけれど、飛び上って見せる芸当は容易じゃない、だが何とかなるだろう、食えないと云うことはないだろう……。
......伸々と手足をのばして枕の下に入れてある財布にさわってみた。残金は一円六十五銭也。月が風に吹かれているようで、歪んだ高い窓から色々な光の虹が私には見えてくる。――ピエロは高いところから飛び降りる事は上手だけれど、飛び上って見せる芸当は容易じゃない、だが何とかなるだろう、食えないと云うことはないだろう……。 (十二月×日) 朝、青梅街道の入口の飯屋へ行った。熱いお茶を呑んでいると、ドロドロに汚れた労働者が駈け込むように這入って来て、 「姉さん! 十銭で何か食わしてくん......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
電車を見ていると死ぬる事を考えるなり。
......みようかしら。電車に乗らないで、堀ばたを歩いていると、何となく故郷へ帰りたくなって来た。目当もないのに東京でまごついていたところで結局はどうにもならないと思う。電車を見ていると死ぬる事を考えるなり。 本郷の前の家へ行ってみる。叔母さんつめたし。近松氏から郵便が来ていた。出る時に十二社の吉井さんのところに女中が入用だから、ひょっとしたらあんたを世話してあげよ......
長雨で、飢えにひとしい生活をしている
......さん夫婦を想い出すなり。春だと云うのに、桜が咲いたと云うのに、私は電車の窓に凭れて、赤坂のお濠の燈火をいつまでも眺めていた。 (四月×日) 父より長い音信が来る。長雨で、飢えにひとしい生活をしていると云う。花壺へ貯めていた十四円の金を、お母さんが皆送ってくれと云うので為替にして急いで送った。明日は明日の風が吹くだろう。安さんが死んでから、あんなに軽便な猿股......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
イエスであろうと、お釈迦さまであろうと、貧しい者は信ずるヨユウなんかないのだ。宗教なんて何だろう!
......いる。涙がまるで馬鹿のように流れている。信ずる者よ来れ主のみもと……遠くで救世軍の楽隊が聞えていた。何が信ずるものでござんすかだ。自分の事が信じられなくてたとえイエスであろうと、お釈迦さまであろうと、貧しい者は信ずるヨユウなんかないのだ。宗教なんて何だろう! 食う事にも困らないものだから、あの人達は街にジンタまで流している。信ずる者よ来れか……。あんな陰気な歌なんか真平だ。まだ気のきいた春の唄があるなり。いっそ、銀......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
朝から晩まで働いて、六十銭の労働の代償をもらってかえる。土釜を七輪に掛けて、机の上に茶碗と箸を並べると、つくづく人生とはこんなものだったのかと思った。ごたごた文句を言っている人間の横ッ面をひっぱたいてやりたいと思う。
......、女工達に報告すると、芝居だろうと云ったり、正月の着物でも買いに行ったのだろうと云ったり、手を働かせながら、女工達の間にはまちまちの論議が噴出した。 七時半。 朝から晩まで働いて、六十銭の労働の代償をもらってかえる。土釜を七輪に掛けて、机の上に茶碗と箸を並べると、つくづく人生とはこんなものだったのかと思った。ごたごた文句を言っている人間の横ッ面をひっぱたいてやりたいと思う。御飯の煮える間に、お母さんへの手紙の中に長い事して貯めていた桃色の五十銭札五枚を入れて封をする。たった今、何と何がなかったら楽しいだろうと空想して来ると、五円の......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
美しい街の鋪道を今日も私は、私を買ってくれないか、私を売ろう……と野良犬のように彷徨してみた。
......て行きました。 ああ真暗い頬かぶりの夜だよ。 土を凝視めて歩いていると、しみじみと侘しくなってきて、病犬のように慄えて来る。なにくそ! こんな事じゃあいけないね。美しい街の鋪道を今日も私は、私を買ってくれないか、私を売ろう……と野良犬のように彷徨してみた。引き止めても引き止まらない切れたがるきずなならばこの男ともあっさり別れてしまうより仕方がない……。窓外の名も知らぬ大樹のたわわに咲きこぼれた白い花には、小さい白......
鼠も出ない有様
......をなめていると、めまいがしそうに嬉しくなってくる。一口位は残しておかなくちゃ変よ。腹が少し豊かになると、生きかえったように私達は私達の思想に青い芽を萌やす。全く鼠も出ない有様なのだから仕方もない――。 私は蜜柑箱の机に凭れて童話のようなものをかき始める。外は雨の音なり。玉川の方で、絶え間なく鉄砲を打つ音がしている。深夜だと云うのに、......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
イビツな男とニンシキフソクの女では、一生たったとて白い御飯が食えそうにもありません。
......夜だと云うのに、元気のいい事だ。だが、いつまでこんな虫みたいな生活が続くのだろうか、うつむいて子供の無邪気な物語を書いていると、つい目頭が熱くなって来るのだ。 イビツな男とニンシキフソクの女では、一生たったとて白い御飯が食えそうにもありません。 * (七月×日) 胸に凍るような侘しさだ。夕方、頭の禿げた男の云う事には、「俺はこれから女郎買いに行くのだが、でもお前さんが好きになったよ、どうだ......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
(求職)私は風の吹く夕べの街へ出て行った――。女給入用のビラの出ていそうなカフエーを次から次へ野良犬のように尋ねて
......料理店でも行ってかせぐかな。」 切なくあきらめてしまった私は、おきゃがりこぼしのだるまのように、変にフラフラした体を起して、歯ブラシや石鹸や手拭を袖に入れると、私は風の吹く夕べの街へ出て行った――。女給入用のビラの出ていそうなカフエーを次から次へ野良犬のように尋ねて、只食う為めに、何よりもかによりも私の胃の腑は何か固形物を欲しがっているのだ。ああどんなにしても私は食わなければならない。街中が美味しそうな食物で埋っているでは......
こんなに生活方針がたたなく真暗闇になると、ほんとうに泥棒にでもはいりたくなってくる。
......々と働いたところで、月に本が一二冊買えるきりだ。わけもなく飲んで食ってそれで通ってしまう。三畳の部屋をかりて最小限度の生活はしても貯えもかぼそくなってしまった。こんなに生活方針がたたなく真暗闇になると、ほんとうに泥棒にでもはいりたくなってくる。だが目が近いのでいっぺんにつかまってしまう事を思うと、ふいとおかしくなってしまって、冷たい壁に私の嗤いがはねかえる。何とかして金がほしい。私の濁った錯覚は、他愛......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
ああ何と云う生きる事のむずかしさ 食べる事のむずかしさ。
......みと大きいあくびをした。 * (七月×日)
丘の上に松の木が一本 その松の木の下で じっと空を見ていた私です。 真蒼い空に老松の葉が 針のように光っていました ああ何と云う生きる事のむずかしさ 食べる事のむずかしさ。 そこで私は 貧しい袂を胸にあわせて 古里にいた頃の あのなつかしい童心で コトコト松の幹を叩いてみました。
この老松の詩をふっと思い出すと、とても淋しくて、黒ずんだ緑の......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
長い間、苦労ばかりして来たのでよく人をうたがう
......だろうかと思う。私は菓子折をそこへ置くと、蜜柑山に照りかえった黄いろい陽を浴びて村道に出た。あの男は、かつてあの口から、こんなことを云ったことがある。 「お前は、長い間、苦労ばかりして来たのでよく人をうたがうけれども、子供になった気持ちで俺を信じておいで……」 一月の青く寒く光っている海辺に出ると、私はぼんやり沖を見ていた。 「婆さんが、こんなものをもらう理由はないか......
寝転んで新聞を見ていると、きまって目の行くところは、芸者と求妻と、貸金と女中の欄が目についてくる。
......事を一人でおくのはもったいないって、若い女が一人でゴロゴロしている事は、とてもそんだってさア。」 三階だてのこのガラガラのアパートが、火事にでもならないかしら。寝転んで新聞を見ていると、きまって目の行くところは、芸者と求妻と、貸金と女中の欄が目についてくる。 「お姉さん! こんど常盤座へ行ってみない、三館共通で、朝から見られるわよ、私、歌劇女優になりたくって仕様がないのよ。」 ベニは壁に手の甲をぶっつけながら、リゴレ......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
働き死にをしに生れて来たようで、厭になる
......いだろうお君さんの気持ちが胸に響くなり。 「あの子と一緒に間借りでもしようかとも思うのよ、でも折角、父親がいて離すのもいけないと思って我慢はしてるのだけれど、私、働き死にをしに生れて来たようで、厭になる時があるわよ。」 「ね、小母さん! ホテルって何?」 フッと見ると波止場のそばの橋の横に、何時か見たホテルと云う白い文字が見えた。 「旅をする人が泊るところよ。」 「......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
ああ金に引きずりまわされるのがとても胸にこたえてくる。
......りに来なければ十円近くの金は、私が帳場に立て替えなければならないし、転んでも只では起きないカフエーのからくりを考えると厭になる。結局は客と女給の一騎打ちなのだ。ああ金に引きずりまわされるのがとても胸にこたえてくる。店の女達が、たかるだけたかっておいて、勘定になると、裏から逃げ出して行った昨夜の無銭飲食者の事を思うと、わけのわからないおかしさがこみ上げて来て仕方がなかった。......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
乞食と隣りあわせのような私
......。めちゃくちゃに狂いたい気持ちだった。めちゃくちゃにひとがこいしい……。ああ私は何もかもなくなってしまった酔いどれ女でございます。叩きつけてふみたくって下さい。乞食と隣りあわせのような私だ。家もなければ古里も、そしてたった一人のお母さんをいつも泣かせている私である。誰やらが何とか云いましたって……、酒を飲むと鳥が群れて飛んで来ます。樹がざわざわ......
(食べるものがない)果てしもなく砂に溺れた私の食慾は、風のビンビン吹きまくる公園のベンチに転がるより仕ようがない。
......かざしていると、その本の群立が、大きい目玉をグリグリさせて私を嗤っているように見える。障子の破れが奇妙な風の唄をうたっていた。ああ結局は、硝子一重さきのものだ。果てしもなく砂に溺れた私の食慾は、風のビンビン吹きまくる公園のベンチに転がるより仕ようがない。へへッとにかく、二々が四である。たった一枚のこっている、二銭銅貨が、すばらしく肥え太ったメン鶏にでも生れかわってくれないかぎり、私の胃のふは永遠の地獄だ。歩いて......
朝から晩まで食べる事ばかり考えている
......と云う事が問題だ。どっさりとね……。 ナポレオンのような戦術家が生れて、どいつにもこいつにも十年以上の牢獄を与える。人民はまるでそろばん玉みたいだ。不幸な国よ。朝から晩まで食べる事ばかり考えている事も悲しい生き方だ。いったい、私は誰なの? 何なのさ。どうして生きて動いているんだろう。 うで玉子飛んで来い。 あんこの鯛焼き飛んで来い。 苺のジャムパン飛んで......
苺のジャムパン飛んで来い。
......る事ばかり考えている事も悲しい生き方だ。いったい、私は誰なの? 何なのさ。どうして生きて動いているんだろう。 うで玉子飛んで来い。 あんこの鯛焼き飛んで来い。 苺のジャムパン飛んで来い。 蓬莱軒のシナそば飛んで来い。 ああ、そばやのゆで汁でもただ飲みして来ようか。ユーゴー氏を売る事にきめる。五十銭もむつかしいだろう……。 良心に必要なだけの満足......
キャベツばっかり食べている。ソースをかけて肉なしのキャベツをたべる。
......ッカサンはまだネルの着物を着ている。洗いざらしたネルの着物で、ことことさっきからキャベツを刻んでいる。部屋の隅に板切を置いて、まことにきれいな姿なり。 私たちはキャベツばっかり食べている。ソースをかけて肉なしのキャベツをたべる。それはねえ、ただ、まぼろしの料理。夢のなかの出来事さ。粉挽も見た事がない。魚はもちろん、魚屋の前は眼をつぶって、息を殺して通る。あいなめに、鯛に、さばに、いさき......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
蚊帳のない暮しむきなので、皿におがくずを入れていぶす。へやの中がいぶる。
......オニイルを読む。家主の大工さんが、夜どおし、ろくろをまわして、玩具のコマをつくっている。どのひとも、夜も日もなく働かねば食えない世の中なり。蚊がうるさいけれど、蚊帳のない暮しむきなので、皿におがくずを入れていぶす。へやの中がいぶる。それでも蚊がいる。丈夫な蚊だ。うるさい蚊だ。オッカサンに浴衣を買ってやりたいと思うけど仕方がない。 (八月×日) 爽やかな天気だ。まばゆいばかりの緑の十二社。池の......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
卑屈になって、何の生甲斐もない自分の身の置き場が、妙にふわふわとして浮きあがってゆく。胴体を荒繩でくくりあげて、空高く起重機で吊りさがりたいような疲れを感じる。
......くいりついている。何をさせても下手な人なり。葱も飴色になっている。強烈な母の我執が哀れになる。部屋の隅にごろりと横になる。谷底に沈んで行きそうな空虚な思いのみ。卑屈になって、何の生甲斐もない自分の身の置き場が、妙にふわふわとして浮きあがってゆく。胴体を荒繩でくくりあげて、空高く起重機で吊りさがりたいような疲れを感じる。お父さんとは別れようかのと母がぽつんと云う。私は黙っている。母は小さい声でこんななりゆきじゃからのうとつぶやくように云う。私は、男なぞどうでもいいのだ。もっとす......
この世の中に奇蹟はないのだ。皇族に生れて来なかったのが身のあやまり……。
......を買って来て飯を焚く。隣りの駄菓子屋の二階の学生が大正琴をかきならしている。何処からともなく蕎麦のだしを煮出している匂いがする。胃袋がぶるぶる顫えて仕方がない。この世の中に奇蹟はないのだ。皇族に生れて来なかったのが身のあやまり……。私は総理大臣にラブレターを出してみようかと思う。夜、ゴオゴリの鼻を読む。鼻が外套を着てさすらってゆく。そして、しょうことなく、だらしなく読者に媚を呈して、嘘をと......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)
(貧しい片親の暮らし)母は私に自分のことは自分でしろとか、家事を手伝えとか言ったことは一度もありません。ただ、自分一人の力で立っている母の後ろ姿を見ていると、そこに寄りかかってはいけないと、子ども心に強く感じることができました。何て言うのでしょう? 家庭が人を支える土台だとすれば、私と母は水面にほんの少しだけ頭を出している石の上に二人で乗っているようなもので、どちらか一人でもバランスを崩してしまうと、二人して水の中に放り出されてしまう、そんな感じでした。
......は、片親という同じ境遇にあったからです。しかし、マイナスな意味合いではありません。周りの同年齢の子どもたちよりも、精神年齢がうんと高くなるという点においてです。母は私に自分のことは自分でしろとか、家事を手伝えとか言ったことは一度もありません。ただ、自分一人の力で立っている母の後ろ姿を見ていると、そこに寄りかかってはいけないと、子ども心に強く感じることができました。何て言うのでしょう? 家庭が人を支える土台だとすれば、私と母は水面にほんの少しだけ頭を出している石の上に二人で乗っているようなもので、どちらか一人でもバランスを崩してしまうと、二人して水の中に放り出されてしまう、そんな感じでした。それでも、ちゃんと二人で乗っていた。 正幸くんとお母さんも初めはそんなふうに見えました。正幸くんは一人で登校することも、お母さんが仕事から帰ってくるまで留守番す......
湊 かなえ / 罪深き女「ポイズンドーター・ホーリーマザー (光文社文庫)」に収録 amazon関連カテ生活苦・貧しい暮らし(日々)家族