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世の中のあらゆる不幸に見舞われたように舌が硬ばり、口をきくことができない
ジュール・ルナール / にんじん amazon関連カテ絶望・希望がない
おおいようもない終末感が暗い夕闇のように胸にしずみこむ
希望なき零落の海から希望なき安心の島にと漂着する
国木田 独歩 / 武蔵野 amazon関連カテ絶望・希望がない
死にかかった希望を胸のなかに抱く
佐藤 春夫 / 怪奇探偵小説名作選〈4〉佐藤春夫集―夢を築く人々 amazon関連カテ絶望・希望がない
混迷と悲哀とが、足許に底知れぬ大きな口を開ける
徳永 直 / 太陽のない街 amazon関連カテ絶望・希望がない
(死にたいと思いながら生きる)巨大な鯨に吞まれ、その腹の中で生き延びた聖書中の人物のように、つくるは死の胃袋に落ち、暗く淀んだ空洞の中で日付を持たぬ日々を送ったのだ
......できていない。具体的なきっかけはあったにせよ、死への憧憬がなぜそこまで強力な力を持ち、自分を半年近く包み込めたのだろう? 包み込む──そう、まさに的確な表現だ。巨大な鯨に吞まれ、その腹の中で生き延びた聖書中の人物のように、つくるは死の胃袋に落ち、暗く淀んだ空洞の中で日付を持たぬ日々を送ったのだ。 彼はその時期を夢遊病者として、あるいは自分が死んでいることにまだ気づいていない死者として生きた。日が昇ると目覚め、歯を磨き、手近にある服を身につけ、電車に乗......
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon関連カテ絶望・希望がない
(死にたいと思いながら生きる)木の枝に張りついた虫の抜け殻のように、少し強い風が吹いたらどこかに永遠に飛ばされてしまいそうな状態で、辛うじてこの世界にしがみついて生きてきた
......ようだ。 死にかけているように見えたとしても、それは仕方ないかもしれない。彼は鏡の前で自らにそう言い聞かせた。ある意味では、おれは実際に死に瀕していたのだから。木の枝に張りついた虫の抜け殻のように、少し強い風が吹いたらどこかに永遠に飛ばされてしまいそうな状態で、辛うじてこの世界にしがみついて生きてきたのだから。しかしそのことが──自分がまさに死にかけている人のように見えることが──つくるの心をあらためて強く打った。そして彼は鏡に映った自分の裸身を、いつまでも......
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon関連カテ絶望・希望がない
十七歳の心に巣食う、この何者にもなれないという枯れた悟り
綿矢 りさ / インストール amazon関連カテ絶望・希望がない
心は妙にしんと底冷えしたように刺々しく澄み切っている
もう何年も忘れていた絶望という感情が両手を広げて僕に近づいてきた。
......。それは神谷さんという人物が、どのような男だったかを再確認させるような大きな事件だった。もちろん、世界からすれば取るに足らない瑣末な笑い話だったかもしれない。 もう何年も忘れていた絶望という感情が両手を広げて僕に近づいてきた。古い友人と再会したかのように懐かしく思った。 おもむろにセーターを脱いだ神谷さんの、両胸が大きく膨らんでいたのだ。 左右に巨乳と呼んで差し支えない程の乳房が揺れ......
男が肩を落とす。ありとあらゆる希望が滑って落ちていくような、なで肩だ。
......った。ただ、おそらく、そのように実行されているのだろう、とは推察できる。政治家や金持ちというものは、たとえ死人に対してだって、借りは作りたくないはずだからだ。 男が肩を落とす。ありとあらゆる希望が滑って落ちていくような、なで肩だ。 ペンをつかんで、便箋をめくっている。 遺書を書かせるのも、仕事の一部だった。家族にのみ遺書を書く者もいれば、政治家や上司に宛てて書き残す者もいる。自由に書かせ......
鳥井の今の心の内は、からからに干からびた砂漠そのものだ、と思った。果てがなく、精神が乾燥し、方向感覚を失っている。《…略…》これからどう歩き出せばいいのか、途方に暮れている。
......は呼吸すら堪えているのだろうか。僕たちは顔を見合わせた後で、うな垂れる。 僕の頭には、広大な、赤とも白ともつかない地面が延々と広がる、砂漠の光景が浮かんでいた。鳥井の今の心の内は、からからに干からびた砂漠そのものだ、と思った。果てがなく、精神が乾燥し、方向感覚を失っている。砂漠には、スーパーサラリーマン行きの標識など立っていないし、水場がどこなのか、夜を凌ぐ場所がどこなのかも分からない。鳥井はベッドの上で、無表情のまま、仰向けになっていたが、きっと同時に、砂漠に座り込んで、茫然とした表情で、肩を落としているのかもしれない。これからどう歩き出せばいいのか、途方に暮れている。「果たして」と考えずにはいられなかった。果たして、この、鳥井の砂漠を潤すことができるのだろうか、と。 西嶋の顔を見やる。使命感と意地が漲ってはいたが、策はなさそ......
(希望がない)せっかく涌いた希望も泡のようにたわいもなくはじけてしまった。
絶望が、心の中にぎざぎざと鋸(のこぎり)のような歯を立てる。
平林 たい子 / 施療室にて「こういう女・施療室にて (講談社文芸文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
(夫を)見送るウメは、まるで胸の中のもの全部をこそげとられて了(しま)ったような、絶望的な、うつろな気持だった。
妻たち(網野菊)「現代日本文学全集〈第39〉平林たい子,佐多稲子,網野菊,壷井栄集 (1955年)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない出会いと別れ
絶望的なものが満ち潮のように押しよせてきた
壺井 栄 / 二十四の瞳 amazon関連カテ絶望・希望がない
まるで雲の上にいるかのように、現実感がない一日を僕らは過ごした。
......うな気分だった。まったく実感がなかった。いまでもトムさんが、ワインボトルを片手に「飲もうよ!」とダイニングに入ってくる気がした。でもトムさんは帰ってこなかった。まるで雲の上にいるかのように、現実感がない一日を僕らは過ごした。 最後の日、僕らはイグアスの滝に向かった。 空港から車で三十分。そこから二時間歩き〝悪魔の喉笛〟に到着した。あの香港映画にも登場した、世界最大の滝の頂上だ。 そ......
喪失感、孤独感、そんな言葉では追いつかないほどの絶望
関連カテ絶望・希望がない
もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。
......のように立ちあがりました。そして誰にも聞こえないように窓の外へからだを乗り出して、力いっぱいはげしく胸をうって叫び、それからもう咽喉いっぱい泣きだしました。 もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。そのとき、 「おまえはいったい何を泣いているの。ちょっとこっちをごらん」いままでたびたび聞こえた、あのやさしいセロのような声が、ジョバンニのうしろから聞こえまし......
宮沢賢治 / 銀河鉄道の夜 青空文庫関連カテ絶望・希望がない
出口のない鉛の箱のような絶望
関連カテ絶望・希望がない
室全体が、私の身体と一緒にだんだんと地の底へ沈んで行くように感じた。
......生れかわって遣り直す 忰と嫁の将来を頼む 二十日午後一時 Mより W兄 足下 私の手から号外が力なくヒラヒラと辷り落ちた。それと同時に室全体が、私の身体と一緒にだんだんと地の底へ沈んで行くように感じた。 私はヨロヨロとよろめきながら立ち上った。吾ともなくヨチヨチと南側の窓に近付いた。 向うの屋根から突き出た二本の大煙突の上に満月がギラギラと冴え返っている。......
身体中の水分という水分がじりじりと干上がっていく感覚があった。焦りと絶望感が肌の下をじんわりと広がってくる。
......が痛くなった。絶望だ。絶望が、雪子の目の前の景色をすべて消し去ろうとしているようにも思えた。 あと二百秒もすると、成瀬たちが銀行から出てくる。どうすればいい。 身体中の水分という水分がじりじりと干上がっていく感覚があった。焦りと絶望感が肌の下をじんわりと広がってくる。 またしてもわたしのせいではないか。歯を食いしばった。「どうして俺がこの車に乗り込んできたか、分かるか?」「あなたたちのほうが何枚か上手だったからじゃない」乱暴......
奈落の闇に突き落とされる
関連カテ絶望・希望がない
おでこが急に重くなりました。拒否してるのに規格外の大きな塊がこめかみを通ろうとする。頭痛に耐えながら指でもみほぐす。
......まの部屋を追い出されたら、住む場所がどこにもない。だから、おれがアキヨといっしょに住むことを樹理恵がどうしても嫌なら、別れるしかない」 沈。撃沈。もういいです。おでこが急に重くなりました。拒否してるのに規格外の大きな塊がこめかみを通ろうとする。頭痛に耐えながら指でもみほぐす。「だからなんでそうなるの。どうしてアキヨさんのために、私たちが別れなきゃならないの。彼女とは別れたんでしょ。まだ好きなの?」「いや、愛しているのはもちろん君だけ......
自分の力だけでは閉塞感から脱することが出来ないから、天変地異を期待する。
関連カテ絶望・希望がない
屍体になった自分の身体が、底の暗いカムサツカの海に、そういうように蹴落されでもしたように、ゾッとした。
......くのはイヤだ、イヤだってしてるようでな……眼に見えるようだ」 ――漁夫が漁から帰ってきた。そして監督の「勝手な」処置をきいた。それを聞くと、怒る前に、自分が――
屍体になった自分の身体が、底の暗いカムサツカの海に、そういうように蹴落されでもしたように、ゾッとした。皆は
ものも云えず、そのままゾロゾロタラップを下りて行った。「分った、分った」口の中でブツブツ云いながら、
塩ぬれのドッたりした
袢天を脱いだ。
表には何も......
呆然として、もうなにも言えなかった。目に映るものがすべて、巨大なポスターに印刷された写真のように厚みをなくした。音も消え、暑さもわからない。 気がつくと、僕はふらふらとした足取りで歩きだしていた。「カズ、どこ行くんな」というチュウさんの声が、耳には確かに入っているのに、頭には届かない。 「カズ、ちょっと待て、こら」 体の重みが腰に伝わらない。地面を踏みしめる感触がない。
......会うことになって……だから、私、名前も知らないし、なにも知らないんです、ほんとです……勘弁してください、お金ですか、出します、出しますから、会社や家には……」 呆然として、もうなにも言えなかった。目に映るものがすべて、巨大なポスターに印刷された写真のように厚みをなくした。音も消え、暑さもわからない。 気がつくと、僕はふらふらとした足取りで歩きだしていた。「カズ、どこ行くんな」というチュウさんの声が、耳には確かに入っているのに、頭には届かない。「カズ、ちょっと待て、こら」 体の重みが腰に伝わらない。地面を踏みしめる感触がない。「逃がしてええんか? おい、カズ、聞いとるんか?」 大通りに出た。新宿駅前のスクランブル交差点を渡った。駅ビルに入った。オレンジカードでJRの切符を買った。山手......
早く区切りがほしくて、そうだ雄一に会えばとりあえず、と思う。雄一にくわしく話を聞けば。でも、それがどうしたというのだろう。なにになるのだ。闇の中で冷たい雨がやむ程度のことだ。希望なんかではない。もっと巨大な絶望に流れ込む、小さな暗い流れだ。
......はない。きっとその時も自分が悲しい暗い気分の中を生きているだろう、そのことが心からいやだった。胸の内が嵐なのに、淡々と夜道を歩く自分の映像がうっとうしかった。 早く区切りがほしくて、そうだ雄一に会えばとりあえず、と思う。雄一にくわしく話を聞けば。でも、それがどうしたというのだろう。なにになるのだ。闇の中で冷たい雨がやむ程度のことだ。希望なんかではない。もっと巨大な絶望に流れ込む、小さな暗い流れだ。 さんざんな気持ちで田辺家のドアチャイムを押した。いつの間にか十階までエレベーターに乗らずに歩いて階段で上っていたので、はあはあ息をついていた。 雄一がなつかし......
真夜中の底にひとりで突き落とされる。
......るかもしれない。とりあえず話を聞いてくれることもありうる。そんな幸福を考えて期待するのがこわかった。すごくな。期待しておいて、もしみかげが怒り狂ったら、それこそ真夜中の底にひとりで突き落とされる。こんな感情を、わかってもらうように説明する自信も、根気もなかった。」「あんたって本当にそういう子ね。」 私の口調は怒っていたが、目があわれんでしまった。年月が二......
自分がなんだかとてつもなく巨大なものと戦っているような気がした。そして、もしかしたら自分は負けるかもしれないと生まれて初めて心から思った。《…略…》人が出会ういちばん深い絶望の力に触れてしまったことを感じた。
......て着替える頃だった。寒く、ただ寒く、体中がほてっているのに手足はしんしん冷えていた。悪寒が走り、ぞくぞくして体中が痛んだ。 私はふるえながら薄闇の中で目を開けて自分がなんだかとてつもなく巨大なものと戦っているような気がした。そして、もしかしたら自分は負けるかもしれないと生まれて初めて心から思った。 等を失ったことは痛い。痛すぎる。 彼と抱き合う度、私は言葉でない言葉を知った。親でもない自分でもない他人と近くにいることの不思議を思った。その手を胸を失って、私は人がいちばん見たくないもの、人が出会ういちばん深い絶望の力に触れてしまったことを感じた。淋しい。ひどく淋しい。今が最悪だ。今を過ぎればとりあえず朝になるし、大笑いするような楽しいこともあるに違いない。光が降れば。朝が来れば。 いつもいつもそう思って......
目の前で世界が急に暗くなった。電灯の光も見えないほどに頭の中が暗い渦巻きでいっぱいになった。
......くなってから一週間ぐらいになるから、何かの熱病にかかったとすれば病気はかなり進んでいたはずだ。ひょっとすると貞世はもう死ぬ……それを葉子は直覚したように思った。目の前で世界が急に暗くなった。電灯の光も見えないほどに頭の中が暗い渦巻きでいっぱいになった。えゝ、いっその事死んでくれ。この血祭りで倉地が自分にはっきりつながれてしまわないとだれがいえよう。人身御供にしてしまおう。そう葉子は恐怖の絶頂にありながら妙にし......
有島武郎 / 或る女(後編) 青空文庫関連カテ絶望・希望がない
胃の腑の焼けるような焦躁と絶望に陥り
......、その時の生活の肉体的結果かもしれない。妻と呼ぶ女は一度は貰ったが、すぐ別れた。その後、女を替えて同棲すること一再ではなかったが、いずれも長つづきがしなかった。胃の腑の焼けるような焦躁と絶望に陥り、安静を求めながら、どの女との生活も俺を落ちつかせてくれなかった。気違いじみた、訳の分らぬ怒りが後頭部から匍い上ってくると、突然、手当り次第に乱暴を働くものだか......
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない慌てる・焦る
膝頭から力がぬけて、そこまで行くのに水の中を歩くようだった。
......るように消えた。彼は車体の下に鈍い衝撃を感じた。 車を下りたとき、外灯の光の当った三メートルばかり向うの道路の上に人間の黒い姿が横たわっているのが見えた。桑木は膝頭から力がぬけて、そこまで行くのに水の中を歩くようだった。 彼は寝ている人の傍に寄って声をかけたが返事がなかった。中年の勤め人ふうの男だった。抱きあげるつもりで頭に手をやると、その頭から真黒い水がこぼれた。外灯や、ほか......
松本 清張 / 与えられた生「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない元気のない歩き方
運命に叩き伏せられたその絶望を支えにしてじりじり下から逆に扱き上げて行くもはや斬っても斬れない情熱の力
......女はうめくべく唄の一句毎の前には必らず鼻と咽喉の間へ「フン」といった自嘲風な力声を突上げる。「フン」「セ・モン・ジゴロ……」である。 これに不思議な魅力がある。運命に叩き伏せられたその絶望を支えにしてじりじり下から逆に扱き上げて行くもはや斬っても斬れない情熱の力を感じさせる。その情熱の温度も少し疲れて人間の血と同温である。 彼女の売出しごろには舞台の背景に巴里の場末の魔窟を使い相手役はジゴロ(パリの遊び女の情人)に扮し......
最後の誇りも希望も毮り落されてしまう
......そのため、父は母の歿後、後妻も貰わないで不自由を忍んで来たのであったが、蔭では田舎者と罵倒している貝原から妾に要求され、薫と男女関係まであることを知ったなら父の最後の誇りも希望も毮り落されてしまうのである。 うっかり打ちあけられるものではない……。だが都会人の気の弱いものが、一たん飜ると思い切った偽悪者になることも、小初はよく下町で見受けている例である。......
岡本かの子 / 渾沌未分 青空文庫関連カテ絶望・希望がない
茫然と―― 何もかも真っ暗だ。 ただ、幻みたいに、見えるのは、自分の為した罪の結果だけだった。
......蝋より白い死の顔は――その唇は、鬼灯をつぶしたような血の塊を含んでいた。 「しまった……し、しまった……」 重心を失ったかの如く、雲霧は、よろよろと腰をついた。 茫然と―― 何もかも真っ暗だ。 ただ、幻みたいに、見えるのは、自分の為した罪の結果だけだった。――いやその一つのみではなく、今日まで為した無数の諸悪や業も、彼の弱味に、今こそつけ込んで、この土蔵の中の四角な闇に、げたげたと嘲笑っているかとも感じられた。 ......
(好転しない病で絶望と倦怠の日々を過ごしており、療養のため)日を浴びるときはことに、太陽を憎むことばかり考えていた。結局は私を生かさないであろう太陽。しかもうっとりとした生の幻影で私を瞞そうとする太陽。おお、私の太陽。私はだらしのない愛情のように太陽が癪に触った。
......なっても変改されない。そしてはじめ心に決めていた都会へ帰る日取りは夙うの昔に過ぎ去ったまま、いまはその影も形もなくなっていたのである。私は日を浴びていても、否、日を浴びるときはことに、太陽を憎むことばかり考えていた。結局は私を生かさないであろう太陽。しかもうっとりとした生の幻影で私を瞞そうとする太陽。おお、私の太陽。私はだらしのない愛情のように太陽が癪に触った。裘のようなものは、反対に、緊迫衣のように私を圧迫した。狂人のような悶えでそれを引き裂き、私を殺すであろう酷寒のなかの自由をひたすらに私は欲した。 こうした感情は......
梶井基次郎 / 冬の蠅 青空文庫関連カテ絶望・希望がない太陽
(医者が大病を宣告する)堯にはじめてそれを告げたとき、彼の拒否する権限もないそのことは、ただ彼が漠然忌み嫌っていたその名称ばかりで、頭がそれを受けつけなかった。
......いった風景が現われるのだった。 何人もの人間がある徴候をあらわしある経過を辿って死んでいった。それと同じ徴候がおまえにあらわれている。 近代科学の使徒の一人が、堯にはじめてそれを告げたとき、彼の拒否する権限もないそのことは、ただ彼が漠然忌み嫌っていたその名称ばかりで、頭がそれを受けつけなかった。もう彼はそれを拒否しない。白い土の石膏の床は彼が黒い土に帰るまでの何年かのために用意されている。そこではもう転輾することさえ許されないのだ。 夜が更けて夜番の撃......
梶井基次郎 / 冬の日 青空文庫関連カテ絶望・希望がない
絶望! そして絶え間のない恐怖の夢を見ながら、物を食べる元気さえ失せて、遂には――死んでしまう。
......ブルブル慄えずにはいられない。「落下」から常に自分を守ってくれていた爪がもはやないからである。彼はよたよたと歩く別の動物になってしまう。遂にそれさえしなくなる。絶望! そして絶え間のない恐怖の夢を見ながら、物を食べる元気さえ失せて、遂には――死んでしまう。 爪のない猫! こんな、便りない、哀れな心持のものがあろうか! 空想を失ってしまった詩人、早発性痴呆に陥った天才にも似ている! この空想はいつも私を悲しくする。......
梶井基次郎 / 愛撫 青空文庫関連カテ絶望・希望がない
そんなむなしいことが現実にありうるなんて、その時の私はまだ知らなかった。遠い砂漠の物語のように、はるかにかすんだ悲しい世界で昔起こって、もう決してありえないつらいおはなしなのかと思っていた。そういう楽園に、自分だけは住んでいるつもりでいた。
......。伝えようともせず、伝える術もなく、受信能力もなく、わかりようのなかったもの。 恋をしているものどうしにさえそんなことがあるというのをうわさには聞いていた。でもそんなむなしいことが現実にありうるなんて、その時の私はまだ知らなかった。遠い砂漠の物語のように、はるかにかすんだ悲しい世界で昔起こって、もう決してありえないつらいおはなしなのかと思っていた。そういう楽園に、自分だけは住んでいるつもりでいた。★ 乙彦と会って2、3日した日の夕方、帰り支度をしていたら入口のほうで、「加納さんいますか。」 と大声で私の名を問う人がいた。「はい、私です。」 と歩いていって......
卑屈になって、何の生甲斐もない自分の身の置き場が、妙にふわふわとして浮きあがってゆく。胴体を荒繩でくくりあげて、空高く起重機で吊りさがりたいような疲れを感じる。
......くいりついている。何をさせても下手な人なり。葱も飴色になっている。強烈な母の我執が哀れになる。部屋の隅にごろりと横になる。谷底に沈んで行きそうな空虚な思いのみ。卑屈になって、何の生甲斐もない自分の身の置き場が、妙にふわふわとして浮きあがってゆく。胴体を荒繩でくくりあげて、空高く起重機で吊りさがりたいような疲れを感じる。お父さんとは別れようかのと母がぽつんと云う。私は黙っている。母は小さい声でこんななりゆきじゃからのうとつぶやくように云う。私は、男なぞどうでもいいのだ。もっとす......
ずっと救命を続けているんですが、ちょっとこれ、心臓が動き出す気配がないもんですから……」 尋恵は重い空気に全身をからめとられて、身じろぎ一つできなくなっていた。
......て、心臓もほとんど動いていない状態でした。で、移送中からずっと人工呼吸などの救命処置を取ってきたんですが……ここに運ばれてからだいたい二十分以上経ちましたか……ずっと救命を続けているんですが、ちょっとこれ、心臓が動き出す気配がないもんですから……」 尋恵は重い空気に全身をからめとられて、身じろぎ一つできなくなっていた。「残念ながらですね……あとはもう、ご家族のご理解で処置を打ち切ることになるわけですが……」「そんな」満喜子が声を引きつらせた。「何とかなりませんか!?」「何とか......
絶望し切って、首でも吊ってしまいかねない。
......ているのか。それとも、本当に何も知らないのか。何も知らず、ただ夫を信じて支えているだけならば、ちょっと可哀想だなという気がする。あの通りのタイプだ。放っておけば絶望し切って、首でも吊ってしまいかねない。何もかも承知の上で夫に付き合っているのであっても、それはそれで救いようがないのだが……。 一通りの事情聴取が済んだ頃、二階から鑑識係らしき人たちも下りてきて、刑......
人生の行く手に仕掛けられていた 罠 の残酷さを思わずにはいられなかった。
......した。海岸の汀で幼い理恵と守が手を繫いでいる。小此木たちが須藤勲から借りてきたものを複写した写真である。間島は、幼い彼女の顔に見入った。屈託の影すらない笑顔だ。人生の行く手に仕掛けられていた罠の残酷さを思わずにはいられなかった。初めて顔を合わせたときの彼女の不安げな顔が、そこに重なって見えた。 前日に、三島の尾畑小枝子宅に電話を入れて、尾畑理恵の所在を確かめると、看護学校の図書館で毎日......
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
(わが子が)「治らない」、つまりは 助からない、と知った時、里枝は、目に見えない何か乱暴な手に口を塞がれて、そのまま 鷲 摑 みにされたように、まったく息が出来なくなってしまった。体の内側が火がついたように熱くなり、また氷を詰め込まれたかのように冷たくなって、両手足を奇矯に擦り合わせながら、ただ泣くばかりだった。 その時、自分の体が何をしようとしていたのか、里枝は今ではわかる気がした。 そのまま、もう何もわからなくなるまで、狂ってしまおうとしていたのだった。
......なわがままでも聞いてやって、少しでも生きることの喜びを感じさせてやるべきだったのだ。いや、そもそもあんな厳しいしつけなど必要なかった。わかってさえいたなら!──「治らない」、つまりは助からない、と知った時、里枝は、目に見えない何か乱暴な手に口を塞がれて、そのまま鷲摑みにされたように、まったく息が出来なくなってしまった。体の内側が火がついたように熱くなり、また氷を詰め込まれたかのように冷たくなって、両手足を奇矯に擦り合わせながら、ただ泣くばかりだった。 その時、自分の体が何をしようとしていたのか、里枝は今ではわかる気がした。 そのまま、もう何もわからなくなるまで、狂ってしまおうとしていたのだった。 里枝は決して、遼の死の身代わりになってやることが出来なかった。病に冒された子供に対する、いかにもありきたりな表現だったが、彼女は心から、身悶えするほど強く、自......
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
二度と立ち直れなくなりそうなほど深い絶望
......ふくらませていた瞬間がやっと訪れただけのことだったというのに、わたしは自分が想像していたどのシーンとも、現実が異なっていたことを感じて絶望していた。それはもう、二度と立ち直れなくなりそうなほど深い絶望だった。「話はそれだけ?」とわたしは高飛車な口調を装って聞いた。泣きたいわけではなかったし、叫びたいわけでもなかった。だが、高飛車にでもなっていなければ、その場......
小池真理子「愛するということ (幻冬舎文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
それを眼にした瞬間、頰肉が溶けてしまうあの感覚。ドブにあごまで 浸かっているかのように身体が重たくなった。
......鼻緒に触れる皮膚がこすれて痛かった。顔を上げると境内は暗闇に包まれていた。右のポケットが振動し、携帯をひらくと「ごめん! 全然暇なんだけど!」という文面だった。それを眼にした瞬間、頰肉が溶けてしまうあの感覚。ドブにあごまで浸かっているかのように身体が重たくなった。現実の痛みは常に予想を凌駕する。「今まで色々と御迷惑をお掛けしました。いつか、お会い出来ましたら珈琲代をお返しします。どうぞお元気で」という簡単な言葉を送信した......
この世の終わりが訪れたかのように重くのしかかってきた言葉
......中でも吸いたいものだろうか。 前田さんがタバコを吸っているあいだ、わたしは父親の死についてどこまで話すべきかを考えた。教えてくれたのは、浩一さんだ。 あのときはこの世の終わりが訪れたかのように重くのしかかってきた言葉も、今頭の中で反芻すると、ぼんやりとした外枠でしかなかったように感じる。 中心に何があったのか、知っているのは、やはり当事者でしかないのだ。「わたしからの打ち明......
湊 かなえ「花の鎖 (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
ひどく息苦しく、視野が急激に狭くなったような感覚があった。時間が出口を見失って、同じところをまわっていた。
......た。そしてそのまま床のうえに押し倒したいという激しい衝動に襲われた。でもそれはむだなことだと、ぼくにはわかっていた。そんなことをしたって、どこにも行けないのだ。ひどく息苦しく、視野が急激に狭くなったような感覚があった。時間が出口を見失って、同じところをまわっていた。ぼくのズボンの中で欲望がふくらみ、石のように硬くなった。ぼくは混乱し、戸惑っていた。しかしなんとか体勢を立てなおした。肺に新しい空気を送りこみ、目を閉じ、そこに......
(息子の急死)しかし伯母は立派だった。絶望の真正面に立ち、それを全身で受け止めようとしていた。彼女からあふれ出るのはただ涙だけで、運命に対する怒りや恨みや罵りの声は何一つ聞かれなかった。
......尽くしていた。親戚中、皆がそんな伯母の助けになりたいと願ったが、何をどうしたらいいのか、誰にも分からなかった。一切の言葉を寄せつけない真の絶望がそこにあった。 しかし伯母は立派だった。絶望の真正面に立ち、それを全身で受け止めようとしていた。彼女からあふれ出るのはただ涙だけで、運命に対する怒りや恨みや罵りの声は何一つ聞かれなかった。葬儀では喪主の務めをきちんと果たし、参列した息子の友人たち百人以上の手を一人一人取って、感謝の言葉を述べた。さすがに夜は不安だったのか、毎晩僕の家に泊まりに来て......
穏やかな午後の光の中で地獄がポッカリと口をあけていた。
......どお邪魔するかもしれませんが、ありがとうございます。万一、神崎初江がまた立ち寄ったらご連絡ください」 刑事が立ち去るのももどかしく真樹子は子ども部屋に戻った。 穏やかな午後の光の中で地獄がポッカリと口をあけていた。 気がついて見ると、幸恵の顔はどこか神崎初江に似ていた。 そうとわかれば、危い瀬戸際に神崎初江がここに訪ねて来た理由も理解できた。不可解なあつかましさも理解でき......
阿刀田 高 / 来訪者「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
絶望感が、体中を包み込んできた。
......わそうとしなかった鈴子が、やっと顔をあげたので、武内も改めて目を向けた。そして、はっとした。鈴子はやつれていたが、美しくなっていた。武内にははっきりそう思えた。絶望感が、体中を包み込んできた。「政夫、大きなったなァ」「うん、もう何でも喋るんよ」 と聞き取りにくい声で鈴子は言った。「あの男を、お父ちゃんて呼ぶんやろ」「……」「ようもぬけぬけと、俺の前に......
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
長いトンネルの中にいるような気持ちだ。 長い長い、そして、出口があるのかわからないトンネル。 出口がないのではなくて、あくまでも、出口があるかどうかわからない、トンネル。
......見つめる気配を感じ、はっとして振り返るが、ドアの向こうの細い隙間に、あの子の影は見えなかった。第二章 長いトンネル 朝斗がうちにくる前のことを考えると、それは、長いトンネルの中にいるような気持ちだ。 長い長い、そして、出口があるのかわからないトンネル。 出口がないのではなくて、あくまでも、出口があるかどうかわからない、トンネル。 希望はない、光は差さないと言われたらそこで気持ちの区切りがつくかもしれないのに、終わりがあるかどうかがわからないから、人は、縋ってしまう。 長い道のりは、今思......
辻村 深月「朝が来る (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
長いトンネルは、先がどんどん、細くはなるけど、ただそれだけで、いつまでもずっと続いていた。
......口数は少なかった。 こんなつらいことを、いつまで繰り返すのだろう。期待と絶望。出口はない、と誰かがはっきり言ってくれるなら、もう終わりにできるかもしれないのに、長いトンネルは、先がどんどん、細くはなるけど、ただそれだけで、いつまでもずっと続いていた。 三回目の顕微授精を勧められたが、佐都子たちは、即答できなかった。 一度、休むのもいいかもしれないと思い始めていた。仕事をしながらの遠方の病院での治療に、身も心......
辻村 深月「朝が来る (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
(希望がすっと奪われていくような感覚)心の真ん中がすっと冷たくなっていく。
......と聞かれたひかりが首を振ると、だんだんと話す空気が変わっていった。「仕事は何をしているのか」「年はいくつか」「保証人になってくれる人はいるのか」 そう聞かれて、心の真ん中がすっと冷たくなっていく。アパートを借りるのに保証人がいるということを、ひかりは知らなかった。 話の途中で若い男性が席を立ち、奥に座る、彼より年配の男性社員に何かを言う。しばらくして、今......
辻村 深月「朝が来る (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
何をしていても現実感がなく、ガラス越しに景色を眺めているような気持ちが、この一ヵ月続いている。 自分の全部を、あの家に、置いてきてしまったような気がしていた。あの家で生き続けるひかりさえいるのなら、もう、今いる自分はその燃えカスか、幽霊のような気がする。
......を上げないまま言った。「言われた通りです。私は、あの子の母親では、ありません」 歩道橋の下に流れる車の列を眺めながら、ひかりは、妙に静かな気持ちになっていた。 何をしていても現実感がなく、ガラス越しに景色を眺めているような気持ちが、この一ヵ月続いている。 自分の全部を、あの家に、置いてきてしまったような気がしていた。あの家で生き続けるひかりさえいるのなら、もう、今いる自分はその燃えカスか、幽霊のような気がする。そして、それでいい、と思っている自分がいた。 私は、あの家で、広島のお母ちゃんとして、確かに暮らしている。 見放されてしまったわけではなく、大事に、いたわられる......
なんかつらくてつらくて、この先どうなるのかと考えると涙が出て仕方なかったです。
......たかっただけなんだけど」「あの日、東北から遠く離れた東京でも、みんな不安と恐怖で沈んでたんです。私は神田の出版社から歩いてうちに帰りました。五時間かかりました。なんかつらくてつらくて、この先どうなるのかと考えると涙が出て仕方なかったです。おそらくハルコさんは、あの日東京中でいちばん図々しくて非常識な行動をとったんですね」「あら、その言い方ひどいわ。喧嘩売ってんの」「いえ、最初は呆れてびっくりしま......
林真理子「最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室 (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない
部屋に戻る気にもなれず途方に暮れて歩き始めた。すれ違う人々がみんな遠く、もうどこへ行けばいいのか分からなかった。ただ体にまかせて、残っていたかすかな余力で歩いていた。
......減っていくのを感じて、疲れが限界に達していた。 恐怖を感じる気力もなくなってふらっと電話ボックスを出ると遠くのほうに見えていた犬連れの男性の姿はなかった。だけど部屋に戻る気にもなれず途方に暮れて歩き始めた。すれ違う人々がみんな遠く、もうどこへ行けばいいのか分からなかった。ただ体にまかせて、残っていたかすかな余力で歩いていた。 自転車の駐輪場で、私はコートのポケットに両手を押し込んでうずくまっていた。時折まぶしい光が横切っては、またすぐに暗闇が戻ってきた。寄りかかった冷たいコンクリー......
学校を早退して駅まで走った自分の息づかいの記憶や、その時に抱えた決意が、大輪の花がゆっくりと 萎れるように崩れていくのを感じていた。 ああ、と、目を開けているのに視界が真っ暗になる。
......をしてもうやめて欲しいと訴えると、「俺まだイッてないよ」と歯がみするように言う。私はぼんやりと、一見新しいが、よく見ればあちこちに染みが滲んだ天井を眺めていた。学校を早退して駅まで走った自分の息づかいの記憶や、その時に抱えた決意が、大輪の花がゆっくりと萎れるように崩れていくのを感じていた。 ああ、と、目を開けているのに視界が真っ暗になる。 浅い眠りに落ち、夜中に目を覚ますと、横にいる雄大の身体が微かに揺れていた。衣擦れの音が聞こえる。私は薄目を開けて、一人きり私に背を向け、自分の性器を単調な動き......
真っ暗な絶望的な気持ち
......中で突如として、自由だ、自由だ。なんでも思い通りにやればいいんだ。内側から押されるような高揚した気分になった。状況が変わった訳でもねし、変わりようもねのに、あの真っ暗な絶望的な気持ちがぱっと明るく開けた。信じられねがった。 おらの驚きが分かりますか。溶け込みなさい、溶け込むんです。あの声をおらは何如に考えればいいのだろう。 熱を帯びた女の声......
若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも (河出文庫)」に収録 amazon関連カテ絶望・希望がない