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君の心の中にはさきほどから恐ろしい企図が目ざめていたのだ。それはきょうに始まった事ではない。ともすれば君の油断を見すまして、泥沼の中からぬるりと頭を出す水の精のように、その企図は心の底から現われ出るのだ。
......ばかりだ。風が落ちたので、凍りついたように寒く沈み切った空気は、この海のささやきのために鈍く震えている。 君はその平地の上に立ってぼんやりあたりを見回していた。君の心の中にはさきほどから恐ろしい企図が目ざめていたのだ。それはきょうに始まった事ではない。ともすれば君の油断を見すまして、泥沼の中からぬるりと頭を出す水の精のように、その企図は心の底から現われ出るのだ。君はそれを極端に恐れもし、憎みもし、卑しみもした。男と生まれながら、そんな誘惑を感ずる事さえやくざな事だと思った。しかしいったんその企図が頭をもたげたが最後、君......
君の心は妙にしんと底冷えがしたようにとげとげしく澄み切って、君の目に映る外界の姿は突然全く表情を失ってしまって、固い、冷たい、無慈悲な物の積み重なりに過ぎなかった。無際限なただ一つの荒廃――その中に君だけが呼吸を続けている、それがたまらぬほどさびしく恐ろしい事に思いなされる荒廃が君の上下四方に広がっている。波の音も星のまたたきも、夢の中の出来事のように、君の知覚の遠い遠い末梢に、感ぜられるともなく感ぜられるばかりだった。すべての現象がてんでんばらばらに互いの連絡なく散らばってしまった。その中で君の心だけが張りつめて死のほうへとじりじり深まって行こうとした。重錘をかけて深い井戸に投げ込まれた灯明のように、深みに行くほど、君の心は光を増しながら、感じを強めながら、最後には死というその冷たい水の表面に消えてしまおうとしているのだ。 君の頭がしびれて行くのか、世界がしびれて行くのか、ほんとうにわからなかった。恐ろしい境界に臨んでいるのだと幾度も自分を警めながら、君は平気な気持ちでとてつもないのんきな事を考えたりしていた。そして君は夜のふけて行くのも、寒さの募るのも忘れてしまって、そろそろと山鼻のほうへ歩いて行った。
......た者のように、もがき苦しみながらも、じりじりとそれを成就するためには、すべてを犠牲にしても悔いないような心になって行くのだ、その恐ろしい企図とは自殺する事なのだ。 君の心は妙にしんと底冷えがしたようにとげとげしく澄み切って、君の目に映る外界の姿は突然全く表情を失ってしまって、固い、冷たい、無慈悲な物の積み重なりに過ぎなかった。無際限なただ一つの荒廃――その中に君だけが呼吸を続けている、それがたまらぬほどさびしく恐ろしい事に思いなされる荒廃が君の上下四方に広がっている。波の音も星のまたたきも、夢の中の出来事のように、君の知覚の遠い遠い末梢に、感ぜられるともなく感ぜられるばかりだった。すべての現象がてんでんばらばらに互いの連絡なく散らばってしまった。その中で君の心だけが張りつめて死のほうへとじりじり深まって行こうとした。重錘をかけて深い井戸に投げ込まれた灯明のように、深みに行くほど、君の心は光を増しながら、感じを強めながら、最後には死というその冷たい水の表面に消えてしまおうとしているのだ。 君の頭がしびれて行くのか、世界がしびれて行くのか、ほんとうにわからなかった。恐ろしい境界に臨んでいるのだと幾度も自分を警めながら、君は平気な気持ちでとてつもないのんきな事を考えたりしていた。そして君は夜のふけて行くのも、寒さの募るのも忘れてしまって、そろそろと山鼻のほうへ歩いて行った。 足の下遠く黒い岩浜が見えて波の遠音が響いて来る。 ただ一飛びだ。それで煩悶も疑惑もきれいさっぱり帳消しになるのだ。 「家の者たちはほんとうに気が違ってし......
有島武郎 / 生まれいずる悩み 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
僕はこのブランコ台を眺め、忽ち絞首台を思い出した。
......いろの疑問に苦しみ、人気のない道を選って歩いて行った。 海は低い砂山の向うに一面に灰色に曇っていた。その又砂山にはブランコのないブランコ台が一つ突っ立っていた。僕はこのブランコ台を眺め、忽ち絞首台を思い出した。実際又ブランコ台の上には鴉が二三羽とまっていた、鴉は皆僕を見ても、飛び立つ気色さえ示さなかった。のみならずまん中にとまっていた鴉は大きい嘴を空へ挙げながら、確か......
芥川竜之介 / 歯車 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
生を呪うよりも死が願われるような思い
......無益だった。感じと感じとの間には、星のない夜のような、波のない海のような、暗い深い際涯のない悲哀が、愛憎のすべてをただ一色に染めなして、どんよりと広がっていた。生を呪うよりも死が願われるような思いが、逼るでもなく離れるでもなく、葉子の心にまつわり付いた。葉子は果ては枕に顔を伏せて、ほんとうに自分のためにさめざめと泣き続けた。 こうして小半時もたった時、船......
有島武郎 / 或る女(前編) 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
そのころから葉子はしばしば自殺という事を深く考えるようになった。《…略…》肉体の生命を絶つ事のできるような物さえ目に触れれば、葉子の心はおびえながらもはっと高鳴った。薬局の前を通るとずらっとならんだ薬びんが誘惑のように目を射た。看護婦が帽子を髪にとめるための長い帽子ピン、天井の張ってない湯殿の梁、看護婦室に薄赤い色をして金だらいにたたえられた昇汞水、腐敗した牛乳、剃刀、鋏、夜ふけなどに上野のほうから聞こえて来る汽車の音、病室からながめられる生理学教室の三階の窓、密閉された部屋、しごき帯、……なんでもかでもが自分の肉を喰む毒蛇のごとく鎌首を立てて自分を待ち伏せしているように思えた。
......人一倍心の働く女だったけれども、そのころのような激しさはかつてなかった。しかもそれがいつも表から裏を行く働きかただった。それは自分ながら全く地獄の苛責だった。 そのころから葉子はしばしば自殺という事を深く考えるようになった。それは自分でも恐ろしいほどだった。肉体の生命を絶つ事のできるような物さえ目に触れれば、葉子の心はおびえながらもはっと高鳴った。薬局の前を通るとずらっとならんだ薬びんが誘惑のように目を射た。看護婦が帽子を髪にとめるための長い帽子ピン、天井の張ってない湯殿の梁、看護婦室に薄赤い色をして金だらいにたたえられた昇汞水、腐敗した牛乳、剃刀、鋏、夜ふけなどに上野のほうから聞こえて来る汽車の音、病室からながめられる生理学教室の三階の窓、密閉された部屋、しごき帯、……なんでもかでもが自分の肉を喰む毒蛇のごとく鎌首を立てて自分を待ち伏せしているように思えた。ある時はそれらをこの上なく恐ろしく、ある時はまたこの上なく親しみ深くながめやった。一匹の蚊にさされた時さえそれがマラリヤを伝える種類であるかないかを疑ったりした......
有島武郎 / 或る女(後編) 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
いっそ荒海のはげしいただなかへ身を投げましょうか。
......やしてしまうのだ。ああ私の頭にはプロレタリアもブルジュアもない。たった一握りの白い握り飯が食べたいのだ。 「飯を食わせて下さい。」 眉をひそめる人達の事を思うと、いっそ荒海のはげしいただなかへ身を投げましょうか。夕方になると、世俗の一切を集めて茶碗のカチカチと云う音が階下から聞えて来る。グウグウ鳴る腹の音を聞くと、私は子供のように悲しくなって来て、遠く明るい廓の女達がふ......
私も荒海に身を投げて自殺して、あの男へ情熱を見せてやろうかしらとも思う
......と母は心配していた。こんな寒い夜でもだるま船が出るのか、お養父さんを迎えに町へ出てみると、雁木についたランチから白い女の顔が人魂のようにチラチラしていた。いっそ私も荒海に身を投げて自殺して、あの男へ情熱を見せてやろうかしらとも思う、それともひと思いに一直線に墜落して、あの女達の群にはいってみようかと思う。 (一月×日) 島で母達と別れると、私は磯づたいに男の村の方へ行った。一円で買った菓子......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
私が死んでしまえば、誰よりもお母さんが困るのだもの……。
......私のガラスのような感傷は、もろくこわれやすい。田舎だの、山奥だの、そんなものはお伽噺の世界だろう。煤けた駅のベンチで考えた事は、やっぱり東京へかえる事であった。私が死んでしまえば、誰よりもお母さんが困るのだもの……。 低迷していた雲が切れると、灰をかぶるような激しい雨が降ってきた。汐くさい旅客と肩をあわせながら、こんなところまで来た私の昨日の感傷をケイベツしてやりたくなった......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
指で輪をこしらえて、私の首を巻いてみると、おいたわしや私の動脈は別に油をさしてやらないのに、ドクドク澄んだ音で血が流れを登っている。
......一茶は徹底した虚無主義者だ。だけど、いま私は飢えているのです。この本がいくらにでも売れないかしら。――寝たっきりなので、体をもち上げるとポキポキ骨が鳴ってくる。指で輪をこしらえて、私の首を巻いてみると、おいたわしや私の動脈は別に油をさしてやらないのに、ドクドク澄んだ音で血が流れを登っている。尊しや。 二通の手紙。ドッチヲサキニダシマショウカ。何と他愛もない事なのだろう。吉田氏へ手紙を出す事にきめる。さて、音のしなくなった足をふみしめて街に出てみるな......
林芙美子 / 新版 放浪記 青空文庫関連カテ自殺願望・死にたい
私は生きる事が苦しくなると、故郷というものを考える。
......人なんかではなかった。この十子一人だけが、私の額をなでていてくれている。私は生きたい。そして、何でもいいから生きて働く事が本当の事だと思う――。 [#改ページ] 私は生きる事が苦しくなると、故郷というものを考える。死ぬる時は古里で死にたいものだとよく人がこんなことも云うけれども、そんな事を聞くと、私はまた故郷と云うものをしみじみと考えてみるのだ。 毎年、春秋になると、巡査......
時々空虚なものが私を噛みます。梅雨時はとくにうっとうしいせいか、思いきりよく果ててしまいたい気も時にするときがあります。このまま消えてしまったならばせいせいするだろうと云った気持ちが切なのです。
......の生活も忙がしい。その間に自分のものも書いて行かなければならないのです。自分の作品の批評についても、私は仲々気にかかるし、反省もし、勉強も続けてはいるけれども、時々空虚なものが私を噛みます。梅雨時はとくにうっとうしいせいか、思いきりよく果ててしまいたい気も時にするときがあります。このまま消えてしまったならばせいせいするだろうと云った気持ちが切なのです。だけど、私がいなくなってしまえば、凧の糸が切れたように、家族の者達がキリキリ舞いをしてしまう事を考え始めるとそれも出来ないような思いである。目標を定めたいと思っ......
私はまるで、兎がひとねむりするみたいに、死にたいと云うことをこころやすく云ってみる。
......事だ。 こころのなかで、ひそかに、私は神様を憎悪する。こころやすく死んでしまいたいと唇にするような女がいる。それが私だ。本当に死にたいなんて考えないのだけれど、私はまるで、兎がひとねむりするみたいに、死にたいと云うことをこころやすく云ってみる。それで、何となく気が済むのだ。気が済むと云う事は一番金のかからない愉しみだ。 死ぬと云えば、すぐ哀しくなってきて、何となくやりきれなくなる。 何でも出来るような......
貧乏は平気だけれど、死ぬのは痛いのよ。首をつるのも、汽車にひかれるのも、水に飛び込むのもみんな痛い。それでも死ぬ事を考えています。
......なさい。芙美子さんはこれきりなのよ。これきりで死んでしまうのよ。誰が悪いのでもない。なまける心はさらさらないのだけれど、どうにも一人だちの出来ぬ生れあわせです。貧乏は平気だけれど、死ぬのは痛いのよ。首をつるのも、汽車にひかれるのも、水に飛び込むのもみんな痛い。それでも死ぬ事を考えています。 たった一度でいいから、おかあさんに、四五十円も送れる身分にはなりたいと空想して泣く事もあります。 いろはと云う牛肉店の女中になろうかと思います。せめて、手紙の......
(翻訳した者は自殺してしまう呪われた本)その英文を日本語の文字にするとき、黒い息吹が立ちのぼってくるのだ。その気分が頭を離れない。服を着たまま波にさらわれて、どうでもよくなって沖へ泳いでしまうような、その、濡れた体にはりついてくる衣服のような感触だった。《…略…》あのとき感じたものを景色にするなら、たとえば風に揺れる果てしない銀のすすきが原、それから、ただ青いサンゴの深海。そこですれ違う色とりどりの魚たちの、もはや生き物ではない静けさ。 あんな世界が頭にあったら、長生きできるわけがない。
......。ひとつの宇宙が体に入ってくる。体内で命を持ってしまう。庄司が死んでからしばらくして試しに訳してみたことがある。時期も悪かったかもしれないが、こわい思いをした。その英文を日本語の文字にするとき、黒い息吹が立ちのぼってくるのだ。その気分が頭を離れない。服を着たまま波にさらわれて、どうでもよくなって沖へ泳いでしまうような、その、濡れた体にはりついてくる衣服のような感触だった。幸い、私は能天気な高校生だったから、そこでやめた。やめることのできる心が健全なのだ。多分。 あのとき感じたものを景色にするなら、たとえば風に揺れる果てしない銀のすすきが原、それから、ただ青いサンゴの深海。そこですれ違う色とりどりの魚たちの、もはや生き物ではない静けさ。 あんな世界が頭にあったら、長生きできるわけがない。目の前にいる彼の父の、精神の悲しみを思った。「日本語ってさ、不思議な言葉だよ。実際。さっき言ったことと相反するけど、日本に来てからずいぶん長く生きてるような感じ......
(この後自殺する女の暗示)空の色に比べて、彼女の影が薄かった。唇が蒼く、目は赤かった。
......珍しく煙草を吸っていた。髪の毛がまるでストップモーションのように風に巻き上げられていた。「こんばんは。」 私は言った。「いらっしゃい。」 振り向いて萃は言った。空の色に比べて、彼女の影が薄かった。唇が蒼く、目は赤かった。「洗濯物取り込んでたら、疲れちゃって。」 萃は言った。「おかまいなく。」 と私がそのへんの床に腰をおろしたとたん、「あっ。」 と萃が言った。「なに?」 と腰を浮......
惨めだった。生きているのがいやになるくらい、暗いものに押されていた。
......た。「……うん、すごい脱力感だな、波打ちぎわにうち寄せられたみたいだ。変な気分だ。」「でもここを出よう? そのほうがいいってば。」 泣きそうになって私は言った。惨めだった。生きているのがいやになるくらい、暗いものに押されていた。「行きましょう。」 もう1度言った。 乙彦が無言で立ち上がった。 タクシーに乗るときたずねた。「あそこに戻るの?」 傘がないので2人とも濡れた。乙彦は言った。「......
めんどうくさくて死にたいような気もしたし、面白いから続けたいような気もした。 まんがで自分のなかの天使と悪魔がけんかする場面みたいに、その欲望は全く半々で引っ張り合い、私をこの大地の重力に縛りつけるのだ。
......っと、生きていて、どこか幸せなところで新しい気持ちで。必ず寝た時に持っていた自分の魂のままで。夢のなかでその確かな感触とはぐれてしまわないように。 そんなこと、めんどうくさくて死にたいような気もしたし、面白いから続けたいような気もした。 まんがで自分のなかの天使と悪魔がけんかする場面みたいに、その欲望は全く半々で引っ張り合い、私をこの大地の重力に縛りつけるのだ。みなさまへ あんなことをして、本当はもうご連絡をすることもはばかられるのですが、どうしてもお手紙したくて、ペンを取っています。 今は、母のところに娘といます。 ......
早く刺されたいと、十和子の手で解放されたいと、心待ちにしている
......ているのではないだろうか? 十和子に刺されることをとっくに知っていて、煙草を吸いながら、薄ら笑いを浮かべながら、その時がくるのを密かに待っているのかもしれない。早く刺されたいと、十和子の手で解放されたいと、心待ちにしているのかもしれない。 埒もない空想に我を忘れて、電車が今どこを走っているのかもわからなくなる。隣に座ったセールスマン風の男が、十和子との間の座席に少しでも隙間を作り......
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon関連カテ自殺願望・死にたい
命を絶ってしまえば、一瞬にして絶望から解き放たれる。
......二つ目の方法は、よりシンプルだった。逃げ続けること。愛する対象から逃げて逃げて、逃げまくること。 逃げるためなら、何をしてもいい。例えば、自殺。これが一番だ。 命を絶ってしまえば、一瞬にして絶望から解き放たれる。野呂を恋する気持ちからも自由になれる。もう二度と、その苦しみを味わう必要がなくなる。 だが、それを実行するかどうかは、あくまでもわたし自身の内面の問題にかかって......
深まりゆく秋の中でもうすでに、友子は死にはじめていた。友子の心にはもう誰のどんな言葉もちゃんと届かず、友子しかいなかった。
......のつくことだと思い込んでいたのだ。自分ならなんとかできるだろうと。 ……あの、どこまでも抜けてゆく空の色の青。冷々と足元のじゃり道に舞い降りてくる落葉のかたち。深まりゆく秋の中でもうすでに、友子は死にはじめていた。友子の心にはもう誰のどんな言葉もちゃんと届かず、友子しかいなかった。それがわかっていても、好きになることは止まらなかった。「でも、友子のことを話題にしたのは、彼女が死んでから初めてで、胸のつかえが下りたような気がしますよ。」大友......
吉本ばなな / サンクチュアリ「うたかた/サンクチュアリ」に収録 amazon関連カテ自殺願望・死にたい
生きていても仕方ないんじゃないか、という気持ちは、そんな生活を続ける一ヵ月の間でひたひたと、心に沁み始めていた。衝動的に思う、というのではなくて、ゆっくりと、悟るように、ひかりには、わかるようになっていた。
......に「いくよー」とボールを投げる。 平和な町の中に、ひかりの存在は、誰も気にも留めないほどひっそりと、ただ溶け込んでいた。 害をなすことも、役にたつこともなく。 生きていても仕方ないんじゃないか、という気持ちは、そんな生活を続ける一ヵ月の間でひたひたと、心に沁み始めていた。衝動的に思う、というのではなくて、ゆっくりと、悟るように、ひかりには、わかるようになっていた。 私は、生きていても仕方ない。 今日、ひかりは、朝斗たち親子のマンションがあるのと駅を挟んで反対側に来た。高いマンションが他にもたくさん立ち並ぶ街の中を、なんと......
辻村 深月「朝が来る (文春文庫)」に収録 amazon関連カテ自殺願望・死にたい