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DNAがデータ保存に革命か、「カプセル1粒」でスマホ5万台分

ナショナル ジオグラフィック

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英語版ウィキペディアの全ページ、シェイクスピアのソネット154編と悲劇8編、そして映画創成期に撮影された作品1編。科学者たちは、これらすべてを、小型の試験管よりも小さな場所に収めることに成功してきた。ミニチュアを作ったのではない。DNA(デオキシリボ核酸)という、あらゆる生命の部品である微小な物質に情報を記録し、保存したのだ。

AI(人工知能)のような高度なツールが活用されるのに伴い、データの重要性が高まっている。米マイクロソフト社などの巨大テクノロジー企業は、すでに莫大な費用をかけてAI用のデータセンターを建設している。

実際、急激に増えるデータを安全に保存(ストレージ)する方法を見つける「ストレージ戦争」が起きている。大量の電力を消費するサッカー場ほどの広さのデータセンターは、その選択肢の一つだ。しかし、それよりもエネルギー効率がよく、場所をとらない方法になりうるのがDNAストレージだ。

ステップ1:従来のデータ保存からの脱却

DNAは設計図や説明書のようなものだと説明されることが多い。DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4つの要素(塩基)の配列によって、分子という名の機械に私たちの体を作る方法を伝えている。

DNAストレージでは、この考え方を逆転させる。つまり、コンピューターの入力データをもとに、DNAを作るのだ。

数社のスタートアップ企業が、2進数のコンピューターコードを物理的なDNA鎖に変換する技術の開発を進めている。これは、巨大なストレージ業界がマイクロフィルム、ディスク、サーバーから脱却し、革命を起こす可能性を秘めている。

従来型のデータストレージでは、古いデータが劣化したり、記録に使った技術が使えなくなったりする場合に備えて、データを常に移動し続けなければならない。米アトラス・データ・ストレージ社の最高経営責任者(CEO)であるバルン・メフタ氏は、データの長期保存は、ゴールデンゲートブリッジを塗装するようなものだと言う。端まで塗り終えるころには、塗り始めた場所がさびてくるので、延々と塗装を繰り返さなければならない。

「長期保存のデータストレージでも、同じことが起こります。古いテープから新しいテープに、常にデータを移動させなければなりません。最初にDNAに移行するのは、この無限ループから抜け出したい人でしょう」

ステップ2:データをDNAに記録する

実際にDNAにデータを保存するには、何段階かの手順が必要になる。まず、データをDNAに変換する方法を決め、実際にDNAを合成し、できたDNA鎖を保存する。さらに、保存した鎖を分類する方法や、DNAの塩基配列をもとの情報に戻し、コンピューターなどで利用できるようにする方法も、DNAストレージ技術に含まれる。

2020年には、業界関係者が集まってDNAデータストレージ・アライアンスを設立している。その目的の一つが規格の確立だが、DNAストレージに携わる各企業は、それぞれわずかに異なる手法を用いている。

最初に決めなければならないのは、どのようにデータを変換するかだ。DNAは4進法の仕組みであり、コンピューターは2進法で情報を扱う。そこで、DNAのA、T、G、Cにそれぞれ「1」や「0」を割り当てるのではなく、たとえばAは「00」、Tは「01」、Gは「10」、Cは「11」という具合に、2桁の組み合わせで対応させる方法が考えられる。

理論上は、これで1つのDNA塩基につき最大2ビット(2進数で2桁分)の情報を保持できることになるが、実際には安定性が低く利用できないDNA塩基の組み合わせがあるなどの理由で、そこまで効率を上げられるわけではない。

2022年、DNAストレージ企業の一つである米カタログ社は、ウィリアム・シェイクスピアの8つの悲劇を1本の試験管に記録したと発表した。これを実現するため、「リコンビナーゼ」と呼ばれる酵素の一種を使って20万7000語の単語を塩基配列に変換する作業が必要になった。彼らが用いた「シャノン」という装置は、これを数分で実行できたという。こうしたDNAへの変換方法は企業ごとに異なる。

ステップ3:DNAを合成する

具体的にDNAを合成する方法も、企業ごとに異なる。カタログ社は、インクジェット印刷の原理を活用し、あらかじめ作成したDNAの断片を含む細かい液滴を吹き付ける方法を使っている。この滴の中で、1秒間に数十万回という無数の化学反応が起き、DNA鎖が伸びていく。一方、アトラス・データ・ストレージ社は、半導体チップとシリコンウエハーの環境で合成DNA鎖を組み立てている。

「そして、組み立てた鎖をチップから収穫します」とメフタ氏は話す。「このDNA鎖は、チップという畑に育つトウモロコシのようなものです。望む高さになったら、つまり一定の塩基数になったら、収穫するわけです」

ステップ4:DNAを保存する

合成した鎖を保存するところでも、別のハードルを乗り越えなければならない。

カタログ社もアトラス社も、DNAが環境にさらされて劣化しないよう、金属カプセルに保存している。DNAをビット形式に戻すときは遺伝子検査技術を活用し、DNA配列を特定する。これは永久的に使えるわけではなく、復元できる状態を保つには、どこかでサンプルをコピーする必要がある。

長期保存での利便性を高めるため、蛍光タグを活用する研究も行われている。この方法を使えば、サンプルに光を当てるだけで、それについての情報が一目でわかる。パソコンなどで使われる、ファイルを開かなくても整理できるようにしてくれるメタデータ(データを説明するデータ)と同じようなものだ。

こういった課題を克服できれば、従来の技術よりもはるかに少ないスペースで情報を保存できるDNAストレージシステムができる。

「理論上の限界値は衝撃的です。薬のカプセル1粒の中に、50PB(ペタバイト)相当のデータを保存できます」とメフタ氏は言う。ストレージ容量1TB(テラバイト)のスマートフォンなら、じつに5万台分に相当するデータ量だ。

ステップ5:データを取り出す

これほど小さい場所に情報を保存できるようになると、そもそも何のために保存するのかという哲学的な問いが生じることになる。ストレージ装置そのものを役に立つものにできるのだろうか? DNAに埋め込んだ情報を布やメガネといった日用品に持たせる研究や、試作品の開発も行われている。

カタログ社にはDNAコンピューティングを専門とする部門があり、合成DNAをビットに戻さずに読み取って解析する方法を開発している。DNA形式のデータを直接扱うことができれば、いろいろなメリットが得られるはずだ。コンピューターのプロセッサのように端から端まで順番に処理するのではなく、複数の場所で同時にデータを操作できるからだ。

生命の部品としてのDNAの地位は、決してなくなることはない。そのため、いずれDNAストレージは非常に長持ちする技術となるだろうとメフタ氏は予測する。

「1000年後の世界には、おそらくDVDプレーヤーはないでしょう。今でさえ、VHSテープを見つけるのはかなり難しくなっています。でも、DNAがそうなることはありません。私たちが生きるうえで、なくてはならないものだからです。この技術は、常に私たちとともにあるのです」

文=Maddie Bender/訳=鈴木和博(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2025年9月19日公開)

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